これまでの情報システムは、既存のビジネスや業務をいかに効率化/合理化するかが焦点だった。これからのシステムはモバイルやクラウドなどの新しいICTを駆使し、今はまだ存在しないサービスや機能を生み出し、経営に直接貢献することが求められる。一口に情報システムといっても2つのタイプがあるわけだ。そして前者のプロであるCIO/情報システム部門は今、後者のプロにならなければならない。ここでは、2つのタイプは何がどう異なるのかを示す。
特性がまったく異なるSoRとSoE
システム群をSoRとSoEに大別することがなぜ重要なのか? まずSoRは、主に会計や生産、販売といった既存システム群を指し、主たるユーザーは従業員だ。使い勝手よりも安定性や確実性が重要であり(使い勝手はどうでもいいという意味ではない、念のため)、また非機能要件は構築前に抽出できる。
今後も経営や事業において重要な役割を果たすものの、レガシーシステム問題があるため、変化対応力を高め、システム費用を低減できるように改修・強化していく必要がある。付け加えれば、SoRにおいてクラウドの活用は必ずしも必須ではない。システムの性能要件やコスト、自社の運用体制、セキュリティなどを検討して決めれば十分だ。
これに対しSoEは、ソーシャルやモバイルなどを駆使する新たなシステム群である。主たるユーザーは、一般消費者やビジネスパーソンだし、IoTになれば機械や機器、設備なども対象になる。エンゲージメントという言葉が示す通り、相手に関与して双方向のインタラクションを実現することが重要になる。
SoEのシステムは、どれだけ活用されるかを事前に見極めるのが難しい。PoC(概念検証)やアジャイル型のシステム開発が不可欠だし、何をすれば広く利用されるかを知るためのビッグデータ分析も必要になる。広く利用されれば、必要なシステム資源があっという間に増加するので、クラウドの活用も必然になる。つまりSoEは、SoRとは目的や特性、開発手法などが大きく異なるのである。端的な例を挙げれば、社員が利用するSoRはメンテナンスのための計画停止が可能だが、消費者や機械が相手のSoEは、原則として計画停止はあり得ない。
システム部門は連携への対処を急げ
さらに、SoRとSoEは、連携させる必要があることにも注意が必要だ。製造業がIoTに取り組むケースや金融業がモバイルアプリケーションを提供するケースを想定すれば、連携の必要性は明らかだ ろう。従ってCIO/システム部門は、異なる性質を備えるシステム群をトータルにサポートし続けなければならない。SoRとSoEの連携が必須であることが大きな理由だが、それだけではない。
システム部門はメインフレームからクライアント/サーバー、インターネットへとテクノロジーの基盤が変わる中で、多くのICTにかかわり企業システムを牽引してきた。そうである以上、デジタルビジネス時代にも対応できるポテンシャルを持つはずである。
何よりもSoEは極めて高度なICTを駆使するシステムであり、構築や拡張には専門知識が必要になる。マーケティングやエンジニアリングといった事業部門には、それぞれの専門性があり、ICTとの両立は容易ではない。むしろシステム部門と事業部門が手を組んで、事に当たるのが現実解だからである。
以降では、SoRとSoEのそれぞれが参照すべきアーキテクチャを説明する。「変化対応力の高い情報システムとは」ではSoRのためのサービス指向アーキテクチャ(SOA)を取り上げる。「ICTが可能にする新たな価値創出」はSoEを構築する際の参照先として、「ソフトウェアデファインド・アーキテクチャ(SDA)」と、「マイクロサービス・アーキテクチャ(MSA)」を解説する。「次世代ICT技術をどう取り込むか」では、SoRとSoEの関係を改めて整理する。
【筆者】
前田 高光
富士通 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 ビジネスプラットフォームサービス統括部 シニアマネージャー
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