これまでの情報システムは、既存のビジネスや業務をいかに効率化/合理化するかが焦点だった。これからのシステムはモバイルやクラウドなどの新しいICTを駆使し、今はまだ存在しないサービスや機能を生み出し、経営に直接貢献することが求められる。一口に情報システムといっても2つのタイプがあるわけだ。そして前者のプロであるCIO/情報システム部門は今、後者のプロにならなければならない。ここでは、2つのタイプは何がどう異なるのかを示す。
企業はこれまで、様々な業務活動をシステム化し、合理化・効率化を図ってきた。定型業務に限らず、非定型業務においてもだ。今やどんな企業にとってもシステムは欠くことのできない存在になった。
だが、経営や事業への貢献という視点で見るとどうか? 「デジタルビジネス時代の到来」で見たように、企業を取り巻くビジネス環境は激変している。グローバル化や少子高齢化などの進展と、SMBC(ソーシャル、モバイル、ビッグデータ、クラウド)をはじめとする“破壊的なICT”が激変の原動力だ。必然的にシステムには、経営や事業の要求に即座に追従できることが求められる。でなければ経営の足かせになってしまうからだ。20年以上前に構築された古いシステムが、今も少なからず存在するという問題もある。ICTの革新スピードを考えれば、文字通り“レガシー(遺産)システム”である。
新たなICTを企業は取り込めるか
そこに新たなICTの波が押し寄せている。一例がIoT(Internet of Things:モノのインターネット)だ。モノ以外に人やコト(プロセス)、データなどをインターネットで連携させ、既存ビジネスのあり方を根本から変えるポテンシャルを持つ。かつては人工知能などと呼ばれ、今は“スマートシステム”と総称される、知的な処理をこなす技術もある。IoTやスマートシステムを活用すれば、画期的なサービスや事業を生み出せる可能性がある。製造業に変革を迫る3Dプリンティングやウェアラブルデバイスなど、技術の種は枚挙に暇がない。
システムの構築方法も大きく変わろうとしている。アジャイル開発やDevOps(開発と運用の一体化)、オープンソースへのシフトなどである。「必要なシステムをタイムリーに実現するには、要件定義から始めるウォータフォール型では間に合わない。必要最少限の機能をリリースし、随時、システムを拡張する方法が不可欠」といった問題意識が背景にある。
その延長線上に広がるのが「APIエコノミー」というキーワードだ。ネット上には、地図や検索、課金管理などの機能を提供する多様なAPI(Application Programming Interface)が公開されている。API情報をまとめているサイト「ProgrammableWeb」によれば、世界で1万3000種以上のAPIがある。日本でも300を超えるサイトがAPIを提供している。適切なAPIを選び呼び出すようにすれば、当該機能を開発しなくて済む。コストも時間もセーブできる。
何よりもこれからは、従来とは次元が異なるスピードが求められる。IoTにせよスマートシステムの応用にせよ、新しい技術だけにパッケージソフトは存在しない。APIエコノミーを取り入れるなどして自らプログラムを開発し、システムとして組み上げなければならない。
こう見てくると今日の企業のシステムが大きな壁に突き当たっているのは間違いないだろう。どうすればそれを乗り越えて経営や事業の要請に即座に対応したり、新たなICTを取り込んだりしていけるのだろうか?
SoRとSoEにシステムを大別する
最も避けるべきは、必要の都度、システムを調達・構築する場当たり的な対処だろう。ネットワークが高度化し、業務間の連携ニーズが高まった1990年代半ば以降、企業のシステムは、機能追加やシステム間連携を継ぎ足しながら拡張し続けてきた。結果、一貫性がないマスターデータが散在したり、システムが複雑に絡み合ってしまった。ちょっとした変更や 機能追加でも影響範囲の特定が難しく、広範な影響調査のために時間もコストもかかるという問題が生じている。
前述したレガシーシステムとも通底する問題だが、ICTが合理化・省力化の道具だった少し前までは大きな問題ではなかった。企業にとって重要なのは基礎体力(人・モノ・金)であり、それがあれば競争できたからだ。しかし今日のICTは競争のための武器そのものであり、その使い方や活かし方が優劣を決する。しかも、これまで以上に多種多様なシステムを構築・運用しなければならない。そうである以上、場当たり的なシステム構築からの脱却は不可欠だ。
ではどうすればいいのか。結論を言えば、システムのグランドデザインを描き、それに沿ってシステム全体を整備することである。 そのためには、まず多様なシステム群を「Systems of Record(SoR:業務処理や記録のシステム群)」と、「Systems of Engagement(SoE:人やモノなどへの関与のためのシステム群)」に大別し、それぞれに合ったインフラやガバナンス手法を採用する必要がある(図)。
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