AI活用が着実に広がる一方で、成果を上げる企業は現状、ごく一部だ。理由の1つとして指摘されているのが、社内データを“ビジネス価値のある情報”へ昇華させるための「ビジネスメタデータ」の整備の遅れである。2025年3月7日に開催された「データマネジメント2025(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)」のセッションに、Quollio Technologiesの板谷健司氏と、データ総研の小川康二氏が登壇。AI活用におけるビジネスメタデータの意義や、具体的な整備法、運用での注意点などを解説した。
提供:株式会社データ総研/株式会社Quollio Technologies
AIがデータを理解し利用できる環境づくりに不可欠なメタデータ管理
アジア太平洋地域において51%、日本だけに限れば81%——。実はこの数値はとある調査で明らかとなった、AI活用に乗り出しながら十分な成果を上げられていない企業の割合だ。
「インフラの整備・拡充」「人材育成」「データ戦略」など、要因はいくつか指摘されている。その中にあって、「鍵を握るのがデータ管理です」と指摘するのは、Quollio Technologies VP of Customer Success 執行役員の板谷健司氏である。

「データ活用が社内で広がるとともに、現場主体のデータ活用に向け、企業の多くがデータの整理や可視化に力を入れてきました。しかし、AIで成果を上げるためには、それだけでは不十分。AIは、属人的なビジネスナレッジなどの暗黙知や勘、経験などに基づく非定型業務を実行できて初めて真の力を発揮します。そのためにはAI自身がデータを理解し、利用できる環境を実現する必要があります。そこで必須の活動は、より踏み込んだデータ管理を可能とするメタデータ管理に他なりません」(板谷氏)。
メタデータは「データを説明(理解)するためのデータ」だ。板谷氏によると、メタデータ管理を通じてデータがビジネス的な意味や価値を持つ、ビジネスで活用しやすいデータに『情報化』され、AIや人によるデータ活用を大きく後押しするのだという。
データを一種の製品として捉え、組織内や顧客にとっての利用価値の最大化を目指す「Data as a Product」の実現にも、メタデータは欠かせぬ存在だと板谷氏は力を込める。その種類は、システム内に存在している情報を記述した「テクニカルメタデータ」、データの流れや状態に関する情報を記述した「オペレーショナルメタデータ」、そして、人やAIのデータ活用に必要なナレッジを記述した「ビジネスメタデータ」の3つに分類される。
ビジネスメタデータを概念データモデルで明確化
ビジネスメタデータの理解のために板谷氏が取り上げたのが、食品パッケージに記載された製造者情報や原材料などの表示だ。それらの個々は、いずれも消費者が食品の内容を判断するためのビジネスメタデータである。ただ、そこにコンテキスト(文脈)を加えることで、初めて気づけることもある。
「『原材料が健康にどんな影響を与えるか』を考えると、商品が『健康に良いか悪いか』の判断が新たに可能となります。ビジネスメタデータにはパッケージの記述以外に、ビジネスコンテキストなども含まれます(図1)」(板谷氏)。

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では、どうすればビジネスメタデータを整備できるのか。そこで活用を見込めるのが「概念データモデル」である。これはビジネスでの「こんな情報を管理したい」という情報管理要求を基に、その情報を構成するデータとデータ間の関係性(データ構造)を、集合論、述語論理、関係代数などの数学的アプローチに基づき定義したエンジニアリング・ドキュメントだ(図2)。

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データ総研 コンサルティンググループ 常務取締役の小川康二氏によると、企業システムはビジネスでの情報要求を出発点に、その情報を管理するために必要なデータを定義したうえで整備される。ビジネスメタデータとは、そのプロセスでの「各情報要求を満たすためのデータと、それをどう取得したのか、さらに、そのプロセスでの暗黙知を明らかにしたもの」(小川氏)だ。概念データモデルでの情報の構成要素「データ項目」と、データ項目の意味のある集合の「エンティティ」、管理対象間の関係性を示す矢印線の「リレーション」を用いたモデル記述を通じ、それらを明確化できるという。

メタデータ整備はシステム統合時が絶好のタイミング
ビジネスメタデータ整備のポイントとして小川氏が挙げるのが、データ管理基盤上のデータなど重要度が高いものから作業を進めることだ。また、概念データモデルの作成にあたっては、①本来同一と思われていたエンティティやデータ項目の認識が担当者ごとに食い違っていた場合には、その差と理由を明らかにする、②イレギュラーなデータは必ず存在するため、データにもしっかり注意を払う、③エンティティ・データの説明には「集団知」を利用する、の3つを確実に行うようアドバイスする。
「正確なビジネスメタデータを把握する最適なタイミングは、企業の意思決定によりデータ提供組織がデータ管理基盤にデータを集めてくる時です。その際にデータ定義書をデータ提供組織に提出させるわけですが、そこで意味が正確に把握できないビジネスメタデータの採用は避けるべきで、データ取得プロセスを事前に整備しておく必要があります」(小川氏)。
近い将来、AIが自律的に判断・行動し、他のAIと協業できる能力を獲得することは確実視されている。板谷氏は、「その能力を効率よく引き出し、ビジネスで活用するためには暗黙知をメタデータ化し、全社で共有/活用することが不可欠。このブレイクスルーがない限り、AI活用の効果は限定的になりかねません」と力を込める。
データカタログは独立性や柔軟性を追求すべき
メタデータの活用に向け、板谷氏はデータカタログの整備法にも配慮すべきとアドバイスする。データカタログは時代と共に進化し、メタデータ管理のアプローチもいくつかの手法があるという(図3)。

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「メタデータのより広い活用を考えれば、管理の独立性や柔軟性、拡張性は高いほど望ましい。その点から、採用すべきは『カタログ独立型』か『ハイブリッド型』のいずれかです」(板谷氏)。
一方で、ビジネスメタデータなどの整備を通じて、一度はデータカタログの運用を開始しながらも、結局は利用されなくなるケースは少なくない。原因は、カタログの検索難度の高さや、信憑性の低さ・内容不足、ユーザーへの周知不足、運用体制の不備などさまざまだ。
板谷氏によると、メタデータ管理ツールの導入にあたっては、それらの問題回避に向けた持続的な運用のための方法論も不可欠だという。Quollio Technologiesではデータカタログ製品のみならず、管理・活用ノウハウも提供することで、メタデータ管理基盤の企業での立ち上げから定着までを伴走型で支援しているという。
メタデータ管理に関するツールや知識、ノウハウまでをタッグを組んで包括提供するQuollio Technologiesとデータ総研は、データ活用、さらにAI活用を目指す企業にとって頼れる右腕となりそうだ。

●お問い合わせ先
株式会社データ総研
URL:https://jp.drinet.co.jp/

株式会社Quollio Technologies
URL:https://quollio.com/jp
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