現在のデータマネジメントは、2つの新たな局面を迎えている。1つは、DXやデータドリブン経営に代表されるデータ利活用がPoC段階を経て全面適用へと進んでいること。もう1つは、生成AIに提供する情報の整備とともに、データマネジメントにも生成AIを活用するという新たな技術への拡張だ。2025年3月7日に開催された「データマネジメント2025」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)のセッションに、日立製作所の岩渕 史彦氏が登壇し、企業が直面しているデータ品質や可視化、ガバナンスといった課題にどう対処していくべきかを語った。
提供:株式会社 日立製作所

データの戦略的利活用のための4つの課題
DXやデータドリブン経営に代表されるデータ利活用は、PoC(Proof of Concept:概念実証)から一部の業務や拠点での適用を経て、全面展開の局面に入ったと考えられる。一方、生成AI活用についても、生成AIに提供する情報の整備、「生成AIのため」のデータマネジメントや、「生成AIによる」データマネジメントという技術の拡張局面に入ったと考えられる。
だが、そうした中から新たな課題が顕在化している。
製造・小売・設備保守・物流・保険といった企業におけるデータ統合基盤構築からマスター統合基盤構築、データモデリングまで、年間約30件のお客さまを訪問している日立製作所の岩渕史彦氏は、「お客さまからは、『データマネジメント基盤を作ったのは良いが、もっとデータを戦略的に活用したい』、『データの品質が悪く向上に手間がかかる』、『データ基盤の利用促進や、統制を適切にできないか?』、『生成AIをデータマネジメント活動に活かせないか?』といった声が多く寄せられています」と、最近の状況を示す(図1)。

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これらの4つの課題に対して、日立はどのような解決策を提案しているのだろうか。
1つ目は「戦略的なデータ利活用」の実現だ。「私たちはデータの利活用の目的や要件を再定義することをおすすめしており、業務戦略、ユースケース、データ利活用画面を実現するデータモデリングを実施しています」と岩渕氏は言う。
日立の「データマネジメントサービス」では、具体的には、次の4つのStepでデータ利活用の構想策定を進めていく(図2)。
●Step1:現状調査・分析。データ利活用に関する関心事や課題を列挙し、グループ化して因果関係を整理する。
●Step2:ユースケース検討。適切なユースケースを洗い出し、優先度を評価する。
●Step3:課題整理と解決方針検討。優先度が高いユースケースについて、As-Is(現状)とTo-Be(めざす姿)を描き、それを実現するための課題を洗い出す。
●Step4:データマネジメント基盤・データモデル構想、ロードマップ立案。必要なデータマネジメント基盤やデータモデルを検討し、実現スケジュールを策定する。

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一例として挙げるのは、Web、コールセンター、カタログ、店舗を通じてコンシューマー向けのビジネスを展開している企業に対して、販売戦略ソリューションの実行を支援した事例である。
「各販売チャネルを通じた顧客の行動履歴や購買履歴を一元管理し、蓄積された情報を分析することで、顧客ごとに最適な接客や施策を実行し、購入単価向上に貢献することができました」(岩渕氏)
データ品質・ガバナンスから生成AI活用のあり方
2つ目の課題である「データ品質の向上・ガバナンスの見直し」に向けて、データ品質不良の原因追及の進め方を支援する。「データの登録や反映の過程で不良や劣化が発生する箇所を特定し、改善策を検討します」(岩渕氏)
その上で日立は、利用目的やユーザー種別ごとに環境やルールを作り直すことを提案している(図3)。データ利用目的が不明確な段階では試行環境を使い、期待どおりの分析結果を得られて効果が確認できた段階で目的別データ環境に移す。また、データ民主化を推進するために、正規化データ・標準化データを理解するためのカタログや結合キーに使う統合マスターを準備するといった形だ。「目的に合わせて環境やルールを設けることが求められます」(岩渕氏)

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3つ目の「データ基盤の利用促進」については、成熟度をもとにしたロードマップの策定ならびに、利用者ポータルや運用ポータルの開発を支援している。ここで紹介するのが、世界有数のプラントエンジニアリング会社である日揮グローバルの取り組みだ。
データ利活用の促進に向け、レベル1(分析力に劣る)からレベル2(分析力の活用が限定的)、レベル3(分析力の組織的な強化に取り組む)、レベル4(分析力があるが決定打に至らない)、レベル5(分析を武器にできる)まで5段階の成熟度を設定。さらに「データ」「アーキテクチャー」「人」「サービス利用手順」といった領域別の成熟度に応じた達成基準を定義し、これに基づくロードマップを立案した。
「これに基づき現在は、データガバナンスを意識したデータ利活用ポータルとデータマネジメント運用ポータルを立ち上げ、統制ルールの策定に向けた活動を推進しています」(岩渕氏)
そして4つ目の「生成AIの活用」では、戦略的販売活動に生成AIとデータマネジメント基盤を活用していく考えだ(図4)。
「これまで販売戦略立案に際して利用するのは、基幹システムに蓄積されたSoR系データが中心でしたが、今後は個人が管理している営業日報などのOfficeデータや社外向けWebサイトの閲覧履歴はもとより、顧客のWebページやネットニュースといったインターネット上のデータにまで利用範囲が拡大していきます。これらのデータを結合するため、各種マスターデータや業務メタデータが重要です。加えて生成AIが理解できるように、メタデータカタログを整備する必要があります」(岩渕氏)

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日立が提供するプロフェッショナルサービス
上記の取り組みを支援するため、日立では「DXアセスメントサービス」「データモデリングサービス」「データガバナンスコンサルティング」「データ運用自動化サービス」といったプロフェッショナルサービスを提供している。
「豊富な先行事例をもとに、さまざまな課題に対応したユースケースやサンプルデータモデルを提供し、製造/環境/研究/調達/保守/金融業務のDXを実現するIoTプラットフォームの迅速な構築を支援します」(岩渕氏)
なかでも注目すべきが、「Hitachi Intelligent Platform(HIPF)」だ。日立内外の成功ノウハウを活用し、コンサルティングから構築、運用までをワンストップで提供するマネージド型データ利活用サービスである。
「実案件で得たデータ収集・蓄積・分析・活用の知見やノウハウにもとづき、データ利活用の構想策定から設計、開発、運用まで、お客さまの業務価値向上に伴走します」と岩渕氏は訴求する。DXの本格化と生成AIの台頭によって新たな局面を迎えたデータマネジメントの課題を捉えつつ、日立はこれらの課題の解決策と生成AIのあるべき活用案を一貫して提供し、データ活用の着実な前進を後押ししていく考えだ。

●お問い合わせ先
株式会社 日立製作所
URL:https://www.hitachi.co.jp/products/it/IoTM2M/list/dms/index.html
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