AI活用に向けて、あらゆるビジネスデータが「必要な時に」「信頼できる状態で」「リアルタイムに」アクセスできる環境の構築が求められている。2025年3月7日に開催された「データマネジメント2025~「Data as a Product」の時代へ~」において、クリックテック・ジャパン株式会社のコンサルタント大越拓郎氏、前田亮佑氏、ソリューションアーキテクトの日下部佑起氏が登壇。グローバル企業のデータパイプライン実践事例と成功のポイント、そして実現のためのテクノロジーについて講演し、企業のデータマネジメント戦略の最適解を提示した。
提供:クリックテック・ジャパン株式会社
データマネジメントの成功事例に見る効率的な展開戦略

クリックテックはデータ統合、可視化、AIなど多種多様な製品を持ち、データマネジメントの全領域をカバーする企業だ。今回の講演では、現場が直面する課題から実践的な解決策まで、3名のスピーカーがそれぞれの専門領域から解説を行った。
最初に登壇した大越氏は2025年現在のデータマネジメントに関する将来トレンドと最新トレンドを整理し、「拡張アナリティクス」や「データメッシュ」などの将来性ある概念と、「リアルタイム分析」「データガバナンス」など現場に広がりつつある実践的手法を紹介した。また同時に現場が抱える課題として「データのサイロ化」「データ品質低下」「人材不足」「ツールの乱立」「データガバナンスの不徹底」を指摘。これらの課題は10〜20年経った今も根本的には解決されておらず、AI活用が進んでも基盤となるデータが整っていなければ十分に活用できないと説明した。
大越氏はグローバルに事業を展開する化学品メーカーがデータ集計に関する課題を解決した事例を紹介。この企業は世界中に拠点を持ち大量の製品を扱う中で、拠点ごとに独自の集計ロジックやデータソースが存在し、データ集計に膨大なコストがかかるという課題を抱えていた。
この課題に対応するため、この化学品メーカーはトップダウンアプローチでプロトタイプを展開し、タスクフォースを設立する戦略を採用したという(図1)。「全社グローバル展開にはボトムアップよりもトップダウンの方が推進力を強める効果がある」(大越氏)とし、またプロトタイプ展開では成果を素早くアピールすることが重要だという。またタスクフォースそれ自体が課題に挑むのではなく、他の拠点との橋渡し役として機能させ、全社のデータマネジメントの成熟化を目指した。

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この取り組みにより、集計リードタイムを2週間から3日に短縮できた。具体的なステップとしては、まずプロトタイプを作成し、そこから基盤データとデータガバナンスを固め、展開していくという流れで進められた。プロトタイプ作成では、「目的の明確化」「対象範囲の最適化」「将来展開の意識」の3点がポイントとなる。大越氏は「将来他拠点に展開することを念頭に置いてプロトタイプの計画を作ることが重要」と指摘した。
実際のプロトタイプはETL(Extract、Transform、Load)などのデータパイプラインとデータ可視化の2つの領域で作成された。パイプライン部分ではデータの多様性・拡張性と品質・一貫性が重要であり、可視化部分では目的の明確化が不可欠だ。大越氏は使われないダッシュボードや使わないレポートを避けるためには、レポートの目的・対象者・用途を明確にすることが重要だと強調した。
プロトタイプ完了後は共通データ基盤の構築とデータガバナンスの整備が求められる。データ基盤構築ではスケーラビリティの確保、多様なデータソースへの対応、データセキュリティの担保が重要となり、ガバナンスルールではデータオーナーシップの明確化、メタデータ管理、データ品質の担保が必要だ。
基盤固めには、人材育成という領域もある。そこでプロジェクト中核層、拠点内で知識を展開できるトレイントレーナー、現場担当者という3つの層に対するトレーニングが必要となる。特に現場担当者に対しては、「業務メリットを伝えることで協力を得ることが重要だ」と大越氏は強調した。
展開段階ではリスクをすべて予見することは難しいため、発生時に迅速に対応し、得られた知見を次に活かすことが重要だと大越氏は述べた。リスクは問題というよりも後学のための「宝の山」として捉えるべきだという。
最後に大越氏は効率的な展開方法として、「最初から運用基盤を固め、それをベースにパイロットプロジェクトを作り、展開しながらPDCAを回していく」アプローチを推奨(図2)。「基盤固め」「共通化対象の見極め」「リスク対応のフィードバック活用」の3点を成功の鍵としてあらためて強調した。

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データ品質向上と効果的な活用のための5つの重要ポイント

続いて登壇した前田氏は、「データアーキテクチャ」、「データ品質管理」、「メタデータ管理」、「AI」、「データの可視化」という5つのトピックについて、何か(What)、なぜ必要か(Why)、どう実現するか(How)の観点から解説した。
「データアーキテクチャ」は単なる技術的な設計ではなく、データを効率的に活用するための戦略的な基盤である。部門ごとにバラバラに管理されているデータを統一管理することで組織全体の分析が可能になる。実現には専用の統合ツールの導入とデータの継続的なメンテナンスが不可欠だ。前田氏は「本を整理するのに本棚があると楽になるように、データ管理にも専用ツールが効果的」と説明した。
「データ品質管理」はデータの正確さや一貫性、完全性を保ち、正しく管理運用するための仕組みや方法だ。品質管理が不十分だと誤った判断や不正確な結果を招き、ユーザーの離脱を招くおそれがある。そして結局は新しいシステムを作り、それも機能せず、また別のシステムを作るという悪循環に陥る。前田氏はデータを管理するルールや責任の所在を明確にし、組織全体で守るべきガイドラインを共有することの重要性を説いた。ルールだけでなく、それを厳格に守る仕組み作りが特に重要だという。
「メタデータ管理」はデータの持つ意味や使い方を整理し、必要なデータに素早くアクセスするための仕組みだ。データへのアクセス性向上は業務効率化に直結する。前田氏は、自分がアクセスできないデータを使う必要がある場合、他部署との調整に時間がかかりビジネス機会の損失につながることがあると指摘。これを解決するためには、簡単にセルフサービスでデータにアクセスできるデータカタログの作成が重要だと強調した。
「AI」については、「十分な量の綺麗なデータを格納する」ことと「全体を含む指示を細かくする」ことの2点がポイントだという。前田氏は「AIは非常に便利なサポートツールですが、大事な決断やクリエイティブな発想には人間の関与が必要です。より良い最終的な意思決定には人の判断がまだまだ必要」と述べた。
「データの可視化」は、データへの理解が深まるだけでなく、チームでのコミュニケーションを円滑にし、より良い意思決定を支援する効果もある。理想は可視化されたデータを見たあとに次のアクションにつなげられることだ。前田氏は可視化の目的を明確にし、適切な方法を選ぶことが重要だと説いた。さらに「Excelは一時的なデータ分析には有効ですが、継続的な分析や状況把握にはBIツールやダッシュボードが有効」と前田氏はアドバイスした。
クリックテックが提供するデータマネジメント実現のためのソリューション

最後に登壇した日下部氏はクリックテック・ジャパンが提供するテクノロジーについて紹介した。QlikTech Inc. は1993年にスウェーデンで創業され、現在は米国に本社を構える。日下部氏は2010年頃にBIツールであるQlikViewと出会った当時を振り返り、「当時はTableauなどのツールもなく、システム部門がダッシュボードを作成するのに何日もかかるような時代でした。そんな中でQlikViewはセルフBIという概念を掲げ、顧客からとても好評でした」と語った。
日下部氏はクリックテック・ジャパンの目的・ミッションについて「日本企業がデータ利活用を通じて成長することです。情報処理推進機構のデジタル基盤センターと一緒に、日本企業がどのようにしたらデータ利活用が定着するのかを具体的に議論しています」と説明する。
クリックテックのソリューションは「Qlik Talend」によるデータマネジメントと「Qlik Analytics」による可視化の2本柱で構成されている。Qlik Talendでデータを蓄積し信頼性の高いデータ基盤を構築した上で、Qlik Analyticsを使って洞察を引き出しアクションに繋げるという流れだ。これらは「Qlik Cloud」(図3)というブランドで展開されており、最近注目を集めているApache Iceberg(オープンソースの大規模データレイク向けテーブル形式)にも今後対応予定とのことだ。

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具体的なプロダクトとしては、データの移動と変換を担う「Qlik Talend Data Integration」と「Talend Studio」、データの信頼性を高める「Talend Data Quality」、データの利用しやすさを向上させる「Data Product」、ビジュアライズに優れた「Qlik Sense」、ノーコードで予測モデルを作成できる「AutoML」、構造データから回答を生成する生成AI製品「Qlik Answers」などが紹介された。
日下部氏は最後に、「MAKE JAPAN GREAT AGAIN」という言葉を掲げ、「私たちは日本企業の成長を支援することを目指しており、そのために全力を尽くしています」と締めくくった。
●お問い合わせ先

クリックテック・ジャパン株式会社
URL:https://www.qlik.com/ja-jp
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