「Disrupt、or be disrupted」(破壊するか、それとも破壊されるか)──。ICTのすさまじい進化と普及が世の中を変えると共に、これまで企業が手がけてきたビジネスのあり方までも根底から突き崩そうとしている。この時代に企業はどう対峙すべきか。少なくとも言えることは、自社の都合ではなく、経営環境の変化やICTの進化を先取りして、タイムリに新サービスを創造したり、事業変革をするための準備が早急に必要ということだ。
ICTの進化と広がりが企業に変革を迫っている。例えばスマートフォン。日本ではiPhoneの1号機が2007年発売され、2014年に世帯普及率は6割を超えた(総務省による)。この普及の速さはテレビも携帯電話もできなかったことだ。据え置き型やPCを主体とするゲーム業界では、変化に追従できずに業績悪化に追い込まれる企業が続出した。
これはICTがもたらす破壊的イノベーションの一例に過ぎない。世界中で、様々な形で既存ビジネスが破壊されるか、退潮を余儀なくされるケースが相次いでいる。こうした状況の中で、米国のハイテク業界を中心に「Disrupt、or be disrupted」という言葉が流行している。直訳すれば「破壊するか、それとも破壊されるか」、つまり「ICTを駆使して変革に乗り出すか、それとも座して死を待つか」である。
今、何が進行中で、企業はどう対応するべきなのか。まず起きていることから紐解いてみよう。
ネットが既存ビジネスの破壊をもたらす
よく知られているのが米国のレンタルビデオ・チェーンの”消滅”だ。2000年代前半まで優良チェーン店として君臨したブロックバスター(Blockbuster)社。米国を中心に2004年には9000店舗を擁したが、ネットを介した定額見放題が主流になる中で2014年1月に精算された。倒産ではなく、買い手がつかずに消滅したのである。
同社を葬ったのは、ネットフリックス(Netflix)社。当初、郵便でDVDを貸し借りする形態だったが、2007年にインターネット経由のストリーミング配信に移行。月額10ドル弱で新作を含めた映画やTV番組を見放題というサービスが受け、今や5000万人以上の会員を擁する。今年、日本でもサービスを開始する予定だ。ちなみにNetflixがまだ小さかった頃、Blockbusterに買収を持ちかけたが、同社は申し出を蹴ったという。
書籍の分野では日本でも存在感の高いAmazon.comが台風の目だ。米国第2位の書店だったボーダーズ(Borders)が2011年に経営破綻に追い込まれ、1位のバーンズ&ノーブル(Barnes & Noble :B&N)が、その事業を継承した。ところがB&Nも毎年のように店舗数と売上げを減らし続けており、厳しい状況は変わらない。そこでB&Nは2014年8月に米Googleと提携。共通の敵であるAmazonに対抗する姿勢を打ち出している。
「それはデジタルコンテンツの話で、特殊な例では?」。こう考える読者もいるかも知れない。しかし、どこで買っても同じである家電製品やスポーツ用品などは、熾烈な激安競争を強いられるのが日常になったのは確かだ。それを痛感しているのが世界最大の小売業である米ウォルマート・ストアーズ(Wal-Mart Stores)。巨費を投じてネット販売を強化し、Amazon対抗を急ぐ。「我々はeコマースとモバイル・コマースの能力を追加する。変革的な発展を実現する」(2014年度の同社アニュアルレポート)。
衣料や靴などファッション製品、旅行商品や金融商品なども事情は大同小異。ネットを生かした新しい販売モデルが広がっている。しかもICTによる破壊的イノベーションは、これらの消費者向けのビジネス(B2C)に留まらない。企業間のビジネス=B2Bでも、ICTを生かしたビジネスの破壊が進もうとしている。
IoTが産業や社会のあり方を変える
航空機エンジンのメーカーからエンジンの稼働サービスを提供する企業へ──こんな構想を推進するのが米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric )だ。航空機エンジンだけでなく、火力発電のガスタービンや医療機器も同じ。価格からサービスへと競争の軸を移し、圧倒的優位を獲得する考えである。
その原動力がIoT(Internet of Things)という新しいICTであり、「産業のインターネット化(Industrial Internet)」という発想だ。難解に思えるが、要は製品すべてにセンサーやチップを取り付けてデータを収集。故障の兆候を検知して予防保全したり、省エネ運転をできるようにする。航空会社は故障に悩まされることなく、飛行機を飛ばせる仕組みだ。
GEは、IoT機器を統合管理するOSやデータ分析ソフトを開発。広く普及させることも狙っている。「産業機器用のiOSにする」(GE)という。ここでiOSとはスマートフォン分野で米アップルを高い地位に押し上げた、iPhoneなどに搭載されている基本ソフトのこと。iOSに範をとって、産業用機器の基本ソフトで標準を握る試みだ。米インテルやシスコ・システムズといった有力ICT企業とも提携し、必要な技術開発を急ぐ。
IoTについては、ドイツも国を挙げて取り組んでいる。2010年に「Industry4.0」という国家プログラムを発動。自動車メーカーや工作機械メーカーを巻き込み、デジタルビジネス時代の製造業におけるリーダーシップ獲得を目指す。
なぜIoTや産業のインターネット化なのか。「社会や産業、企業、そして人の働き方に、スマートフォンが引き起こした以上の変化をもたらす」。あらゆる機器や設備がインターネットに繋がれば、そんな状況が出現すると考えられるからだ。それをリードする国や企業は、大きな優位性を獲得できる。
IoTは製造業だけでなく、農業や畜産業、漁業などの一次産業にも波及する。日本における農業の例を挙げてみよう。世界的に有名な日本酒「獺祭」の醸造元である旭酒造は、原料米である「山田錦」の確保に悩んでいた。山田錦は稲が倒れやすく収穫量が安定しないなどの難しさがあり、生産者が増えにくい状況だったのだ。
富士通は旭酒造に対し、圃場(田んぼ)にセンサーを設置し、気温や土壌温度、土壌水分などを収集し、分析する方法を提案。共同で山田錦の栽培歴を見出し、生産者に提供する試みを実施している。言うまでもなくセンサーだけが重要なわけではない。クラウドやビッグデータ、モバイルなどの技術が取り組みを支える。このような、いわゆる農業のICT化は、トマトやレタスの栽培でも活発に行われており、農業のあり方を少しずつ、しかし大きく変えつつある。
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