すでに存在している業務の効率を高めたり、合理化・省力化したりするためのシステム群を、ここでは「Systems of Record」と呼ぶ。デジタルビジネス時代を迎える上で、この領域のシステムに求められるアーキテクチャとは、どのようなのかを解説する。
「デジタルビジネス時代の情報システム像」でグランドデザインが重要になると述べ、その姿を図に示した。では、このうちのSystems ofRecord(SoR)の部分は、どうあるべきなのだろうか。
復習しておくと、SoRとは、すでに存在している業務の効率を高めたり、合理化・省力化したりするためのシステム群である。その多くは、いわゆる既存システム群である。例を挙げると、販売管理や生産管理、会計、人事といった業務システム、あるいはグループウェアやレポーティングなどの情報系システムだ。これらは特に改修しなくてもデジタルビジネス時代に対応できるのだろうか? 答えは「ノー」である。既存システムは多くの場合、利用技術やデータ構造、ユーザーインタフェースなどが異なっている。構築年代が異なるうえ、主管部署の業務に最適なように構築され、全体最適の視点が、あまり考慮されてこなかったからだ。
“スパゲティ”型のシステムは経営の足かせ
システム連携機能も、その時々で実装されてきたため、実現方法もファイル転送(FTP)やEAI(EnterpriseApplication Integration)、ファイルサーバーを介したデータ連携など、まちまち。それらが個々のシステム間で張り巡らされた結果、非常に複雑になり、いわゆる“スパゲティ”状態を招いている。
結果として、セキュリティ面でも、モバイルデバイスの利活用の面でも、あるいはM&A(企業の統合・買収)などにおけるシステム統合といった面でも問題が生じている。ビジネス環境が激変し続ける中、部分改修であっても相当の時間と費用を要する既存システム群は、放置すれば経営・事業に貢献するどころか、足かせになってしまうのだ。
変化対応力を「SOA」で高める
こうした問題の解決は容易ではないが、やるしかない。何より重要なのは、業務や事業の変化に対応しやすいよう、全体最適の視点でシステム全体を見直し、整備することである(図)。
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この時、重要になる点が3つある。1つは、老朽化して運用コストが高止まりしたり、保守性が低下したりしているシステムをモダナイゼーション(近代化)することだ。いわゆるレガシーマイグレーションと似た概念だが、単にマイグレーションするのではなく、必要性や将来性を勘案しながら近代化するのがポイントだ。パッケージソフトやSaaS(Software as aService)を利用できる場合は、置き換えも検討する。
第2は、サービス指向アーキテクチャ(SOA)の考え方や技術を適用して、システム同士の連携を疎結合にすること。機能やデータを外部から利用できるように、個々のシステムをサービス化すると見ることもできる。実際には個々のシステムの外側に、外部とやり取りするためのインタフェース層を設ける。インタフェースを外部に公開し、内部処理は隠ぺいすることで他のサービスへの依存度を下げ、サービスの自律性を確保する。
これにより外部からは個々のシステムの詳細な中身が分からなくても、アクセスできるようになる。カプセル化(エンカプセレーション)と呼ばれるものだ。既存システムの稼働に影響が出ないようにするため、既存システムには極力、手を加えない。こうした改修を施すのは、外部システムとの接点が高いシステムやシステムが有する機能に絞ることもポイントである。
カプセル化ができれば、業務や事業の要求に応じて、あるシステムを修正・変更する場合でも、連携する他システムに悪影響を及ぼさないようにできる。結果として変更時の影響調査などを不要にでき、その分、スピードアップやコスト低減を図れる。ユーザーインタフェース部分をカプセル化すれば、クライアントにはPCであろうとモバイルデバイスであろうと専用機器であろうと利用可能になる。
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