仕事術No.23 リーダーに求められる「センスメイキングのセンス」
2025年7月11日(金)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)
不確実で曖昧なビジネス環境の中、組織のリーダーには自身の「センスメイキング」が問われている。なぜそれが必要で、実行することでどんな成果が得られるのか。

センスメイキングの資質
センスメイキングとは、人の行動に納得感のある意味づけを行い、状況を好転させるプロセスをいう。会社や上司が従業員に、あるいは親が子供に対して、何かをやってほしいと思っても、本人が腹落ちしなければなかなか本格的な行動にはつながらない。今日のビジネス環境は不確実で曖昧である。そんな中、なぜそれが必要なのか、実行することでどんな成果が得られるのか、臨場感のある指針を見出せば、人は自ずと行動に移す。センスメイキングは現代に求められるリーダーの資質であり、使命でもある。
ミーティングや報告会などビジネスの現場で、「腹落ちする」「刺さる」「芯を食った」「自分ごと」などといったフレーズを耳にしないだろうか。これらの表現は、近年よく使われるようになった。背景には、社内外の環境変化が激しく、将来の見通しが立てにくくなっているという現状がある。分析レポート1つとっても、情報量が膨大かつ複雑で、内容を捉えづらいケースが少なくない。
また、会社や上司からのメッセージに対して、「言っていることは分かるが、どうにも納得しきれない」と感じる場面もあるだろう。だからこそ今、受け手は「心に響く」ストーリーや、文脈の中で自分との接点を感じられる説明を求めているのだ。これらのフレーズは、形式的な上意下達や同調圧力へのアンチテーゼとして生まれたものかもしれない。
行動や判断の方向性を定めるプロセス
そんなときに意識したいのが、このセンスメイキングだ。先のより、もう少し定義を詳細にすると、センスメイキングとは、出来事や情報を解釈し、意味を見出すことで、行動や判断の方向性を定めるプロセスである。
不確実で曖昧な状況では、客観的な正確さよりも、主観的な解釈が役に立つ。情報や根拠が不完全でも、納得感のある説明がつけば、それは行動の原動力となりうる。混乱や変化に直面したとき、人を動かすのは、上からの指示やセオリーではなく、社会的な対話から特定された「意味」である。たとえ情報が誤っていても、もっともらしい意味づけがあれば、人は前へと進むことができる。現代は不確実性が支配する混沌の時代。センスメイキングの意義とは、いわば雲の中を飛ぶ飛行機を、有視界飛行へと導くことにある。
センスメイキングの代表例に、雪山遭難のエピソードがよく取り上げられるが、あまりに有名なのでここでは控えよう。代わりに、センスメイキングに通じる事例として、映画化もされた「奇跡のリンゴ」で知られる木村秋則氏の逸話を紹介したい。
──リンゴの無農薬栽培を成功させるために、木村氏は壮絶な努力を続けるも、リンゴの木は害虫にやられてしまい、何年も失敗を重ねた。満足に家族を養うこともできず、いよいよ万策つき、人生の終止符を打とうと、木村氏はロープを片手に岩木山に入る。2時間ほど登るとちょうどいい具合の木が見つかったので、ロープを投げると、勢い余ってあらぬ方向へ落ちてしまった。
ロープを拾いに行くと、そこに美しいリンゴの木があった。農薬をかけていないのに、のびのびと枝を伸ばし、みっしりと葉を茂らせている。その「意味」が土壌にあると悟った木村氏は、我を忘れて、畑に戻り、夢中で土壌づくりに取り組む。そして、8年目にして、絶対不可能と言われたリンゴの無農薬栽培を見事に成功させたのである。しかし、そのヒントとなったのは、実はリンゴの木ではなく、よく似たドングリの木であった──。
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