[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.20「単純化することの価値」

2017年4月12日(水)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

ビジネステーマや市場課題について検討する際、一般的に情報収集から始めることが多い。重要な事項を抽出したり、問題を特定したりするために、情報を集め、整理しようというわけだ。しかし、いざ多くの素材が集まっても議論がなかなか進まなかったり、煮詰まってしまったりということが実際には少なくない。情報の詳細化や具体化に過度にこだわることなく、情報を俯瞰して「単純化」することを心がけたい。

 自社の製品戦略を練るために、市場環境を把握する場面を考えてみよう。現代社会には、多くのモノやサービスが溢れ、ライフスタイルが多様化し、複雑な社会構造が存在する。企業が認識すべき市場やニーズも細分化が進み、また、製品・サービスをつくりだす組織や協力会社の関係性も多様化しつつある。市場競争は激しく、幾多の競合企業や競合産業も存在するだろう。

 現状を把握するために、多くの組織は市場データの収集や事例調査を行う。信頼性の高いデータを積み上げたり、必要に応じて深堀りするのはもちろん必要である。しかし、幅広い情報や詳細なデータが集まったからと言ってそれらが常に有益かというと、必ずしもそうではない。有意に分析できなかったり、適切に説明できないといった事態は往々にして起こる。情報集めに注力するあまり、それ自体が目的化してしまうこともある。

 例えば、製品の比較などを求めると、新任の担当者などは、数十項目に及ぶスペック比較を意気揚々と作成してくる。しかし、長々とした説明を聞いた後、「では、製品AとBの違いは一言でいうと何?」と問いかけると案外返答できない。個々のスペックについてはおそらく間違っていないのだろう。しかし、それらを簡潔に説明できないと、せっかくの情報は捉えどころのない数字と記号の羅列に成り下がってしまう。

 これは必ずしも経験不足や情報不足のせいではない。そもそも物事は、複雑にするのは簡単であり、単純にするの難しいからだ。なぜだろうか。その理由のひとつは、「分けて考える文化」が浸透していることにあると思われる。科学的なアプローチがそうであり、コンピュータでの情報解析のアプローチがそうである。西洋文化の影響が背景にあると思われる。

なぜ「分ける」のか

 「分ける」考え方は、西洋文化の影響が色濃い。例えば、欧米の住宅は部屋が完全に分けられ、子供にも独立した部屋が与えられる。一方、日本古来の民家は、襖や障子といった緩やかな仕切りで部屋を区切る程度。庭や林に隣接し、家自体が自然のなかにたたずむ環境とも調和を求める。西洋医学と東洋医学の基本思想もしかりである。西洋医学では、悪い部位を特定し、切り離すことで治すという考え方。東洋医学は、心身全体の調子を整えて、不具合にその影響を及ぼすことで結果的に治癒するという考え方である。現代のビジネス社会では、欧米を中心とした先進国企業によりグローバルスタンダードが定まり、市場が形成されている以上、私達には「分ける」発想が否応なくしみついている。分けて理解しようとするのは、無理からぬことと思われる。

 課題解決は、通常、具象化(情報収集と分析)→抽象化(ポイントアウト)→具象化(具体策の立案)の順に進める。情報を詳細化すれば、あたかも優れた分析ができて、議論が一歩前進しているかのように錯覚しやすい。しかし、その実、的確に抽象化することができずに、結論を導くのに苦慮する。ここに「陥りやすい罠」が潜んでいる。具象化フェーズから抽象化フェーズへ議論をシフトする際に、この「罠」にかからないように意識しておきたい。情報の細分化や分類がある水準に達したら、今度は単純化する方向に頭を切り替えよう。

●Next:“Think Simple”が重要な理由

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