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[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.21「知識を習得する意味」を再考する

2021年8月10日(火)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

知識のあるなしは、あらゆる場面での評価や判断に影響する。たまたま知っていたので難を逃れたり、あるいは知らなかったために好機を逃したりといったことは誰しも経験があるだろう。人生を左右するような就活や婚活といったタイミングでチャンスをものにできるかどうかも、少なからず知識や学歴が問われることとなる。今回は、知識を習得することの意味を改めて考えてみたい。

 「ビジネスの現場では、知識よりも経験や実績がものを言う」という人は多い。長年勤め上げた上司から、あるいは職人の世界などでよく聞かれるフレーズではないだろうか。

 まさしく的を射た意見である。いくら優秀な大学を出たり、取得の困難な資格を持っていても、いざ一緒に仕事をしてみると期待外れに終わることは少なくない。その一方で、学歴は低いが、次々とすばらしい成果を上げる人もいる。「理屈じゃないんだよね」と一蹴するようなシーンもTVドラマなどでよく出てくる。そう多くないが、学歴や資格を否定するカルチャーの職場すら、稀に見受けられる。

 しかし、言うまでもなくすべての面において知識に経験が勝るわけではない。知識も経験も人間の能力を構成する重要な要素であることには変わりない。ただし、その効果の大きさは「知識+経験」ではなく、「知識×経験」として捉えるべきだろう。知識を倍化すれば、経験値の効果も倍化する。経験を積むことに偏重せず、バランスよく知識を習得しておきたい。仕事が忙しくて資格勉強をする暇がないと自身に言い含めることは多い。だが、そのせいで相乗効果の機会をみすみす逃してしまってはいないだろうか。

知識のアドバンテージ

 知識の有無は、仕事の質を変える。つまり、同じ時間働いてもその成果が変わってくる。突き詰めれば、単位時間あたりに受け取る報酬のレベルも変わってくる(とよいのだが)。

 ある企業で、業務処理を自動化するニーズが発生した。特定の条件(宛先、キーワードなど)に一致するメールを検知して、添付ファイルを所定の格納場所に保存するというものだ。それまで社内スタッフが手作業で行っていたが、ボリュームが増えて処理が追い付かなくなっていた。

 ニーズを知った管理者は、メールやクラウドについて一定の知識があったので、簡単なプログラムを追加すれば作業を自動化できるとの仮説を立てた。さっそくネットで検索すると、同様の課題を解決した事例がいくつも見つかった。各種サンプルコードに加えて、ツール(RPA)による自動処理の構築例も公開されていた。しかも、いくつかの方法は、同社の環境において無料で実装できることも分かった。

 自動化の仕組みを構築するのは、ものの3分もかからなかった。簡単な環境をつくり、テストしたところ結果も良好。その後のエラーもまったく起きなかった。こうして、予算をほとんどかけずに、担当者は手作業から完全に解放されることとなった。後日、話を聞きつけたある著名なデータサイエンティストはそう言った。「そういうこと知らない人はIT業界でも案外多いんですよ。SIerに依頼すると500万円ぐらいの提案をされますね」

●Next:知識を“明示”することで拓ける世界がある

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