ビジネスパーソンは、冷静に仕事を進めるだけでなく、仕事への熱意を持ち合わせていなければならないのは当然のことだ(クールヘッドとホットハート)。しかし、仕事への熱意や意欲が十分であっても、それだけでは間に合わないこともある。どんなにやる気があっても、目に見える成果やそれを導く道筋がなければ長続きはしない。あらゆるビジネスシーンの根底をなす合理主義や成果主義について意識しておきたい。
合理主義や成果主義といっても様々な考え方がある。今回は、ITアナリストの業界を例に挙げて、その一端を紹介したい。ITアナリストとは、アドバイザリ・サービスやコンサルティングを行うIT市場/技術の専門家である。黎明期のIT業界の一端には、こうした新進気鋭の専門家が集まり、業界に影響力を持つ幾つかのアナリスト・ファームが形成された。特にITバブルと言われた1990年代終盤は、外資系IT企業の力が強く、IT系のベンチャーに非常な勢いがあった。アナリスト・ファームもIT市場の成長に伴って急伸し、社内はアントレプレナーシップで溢れていた。
アナリスト・ファームは人材への要求レベルが高く、ドライでビジネスライクな外資系特有の社風で支配されていた。中途採用で入社する新入社員の多くは、環境に慣れるのにしばしば苦労した。厳しい要求に付いて行けずに戦線離脱する者も少なくない。自戒をこめて申し上げるが、ITアナリストという肩書の者の多くは合理主義者であり、ある種のエゴイストである。自分のカバーエリアには確固たる見識を持っており、おいそれと主張を譲らない。良くも悪くも鋭利な刃物のような気質がある。新入社員といえでも何らか発言をする時は、客観的根拠と論理的説明を伴っていなければならず、そうでないものは直ちに批判の的となる。
合理主義の一端
そんな業界で実際に見聞きしたエピソードを少し紹介しよう。一つは、駆け出しのアナリストとその先輩との会話である。先輩が書いた技術レポートの不明個所について新人が尋ねるシーン。リサーチノートは企業名を冠して発刊される商品の一つだ。自社の商品について知るのは当たり前のことであり、新人は「ここに書いてあるのはどういった意味でしょうか」と尋ねた。すると返ってきたのは、「それをあなたに教えることで僕にどんな利益があるの?」であった。
思わぬ回答に、彼は返事に窮した。しかし、冷静に考えれば彼の返答はなるほど一理ある。翻訳するとこうだ。「入社したてのあなたは、今の段階では残念ながら私が時間を割くべき相手ではありません。利益貢献していないからです。私は投資効果の低いことはできないし、ボランティアをする暇もありません。あなたも早くそれを理解した方が良いと思いますが、何か?」である。
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