[市場動向]

DXの呪縛から自らを解き放て─“日本のDX”はなぜ労働生産性に結びつかないのか

いま見据えるべきはシンギュラリティへの備え

2025年10月6日(月)佃 均(ITジャーナリスト)

経済産業省が「DXレポート─ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開─』を公開したのは2018年9月8日だった。あれから7年、DX認定制度、DX推進指標と施策が展開され、レポートを読むと「多くの企業がDXに前向き」と御慶の限りだが、DXの要点は何か等々、手段が目的化しているきらいは否めない。そろそろDXの呪縛から自らを解放し、ゴールを再設定するときではないか。

 図1のグラフは、情報処理推進機構(IPA)の資料「DX推進指標 自己分析結果分析レポート(2024年版)」を元に筆者が一部加工したもの。資料が公表されたのは2025年5月7日なので“旧聞”と言っていい。

図1:DX推進指標 自己評価の分布(出典:情報処理推進機構)
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 なぜ今になって取り上げたかというと、インターネットイニシアティブ(IIJ)が「DX推進やデジタル活用の定着を支援する新組織診断サービス」(同年8月18日発表)のエビデンスとして利用されていたためだ。2024年の自己評価では、レベル4以上(全社戦略に基づく継続的な取り組み)が1.3%という。

 「DXをやっています」ではなく、ことさらにDXをやらない、つまりDXが当たり前になるのが本当のDX」(IIJ インテグレーション事業部の中津智史氏)は了として、これでいいのか? という疑問が湧いてきた。

85%が「まだまだ」「がんばれ」という実態

 DX推進指標は2019年10月にIPAがバージョン1を策定し、以後、毎年バージョンアップされている。DXに取り組む要点を、①ビジョン/戦略、②経営トップの考え方、③組織、④人材、⑤予算、⑥マインドセット、⑦推進体制、⑧外部との連携といったように整理し、それぞれを5段階で評価できるようになっている。

 グラフはDXの進展状況の自己評価総合点を5つのレベルに整理した分布状態だ。レベル0は問題外、レベル1は「まだまだ」、2は「がんばれ」、レベル3は「まずまず」、レベル4以上が「やったね」、レベル5は「すごい」と理解すればわかりやすい。

 2024年の調査の有効回答は1349社。このうち「問題外」は28社で2.1%、「まだまだ」と「がんばれ」は1151社で85.3%、「まずまず」は152社で11.3%、「やったね」「すごい」は18社で1.3%となっている。平均は1.67なので、富士山ならやっと五合目を越えたあたりだ。

 1349社の内訳は中小企業が408社、大企業が941社だ。人材、資金力、連携パートナーなど、中小企業と大企業では余裕(力量)が違う。自ずからDXの進捗度も異なってくる。その相違を見ると、全指標(総合点)は中小企業が1.40、大企業が2.30となっている。レベルにすると、中小企業は「まだまだ」寄りの「がんばれ」、大企業は「まずまず」寄りの「がんばれ」ということになる(図2)。

図2:大企業と中小企業、それぞれの現在値と目標値の差
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 そこで85%を占める「まだまだ」「がんばれ」組を「まずまず」に引き上げることが焦眉の急となる。経産省は、「経営戦略の明確化と変化を受容する企業文化の整備が欠かせない」と指摘。IT/デジタル利活用に資する人材の適正配置、IT/デジタル人材が能力を発揮できる環境の整備、IT/デジタル化予算の拡充などを求めている。

 筆者が取材した範囲では、IT/デジタル化の効果を上げている企業に共通する第1の要因は経営ビジョンとトップの意思表明だ。「社の方針だから」「社長がこう言っているから」は、住み慣れた環境を変えられることへの抵抗を抑え込むことができる。

 さらに大企業では組織力と資金力がモノを言う。中小企業なら「このままでは……」の危機感、地方公共団体(区市町村)の場合は住民目線のサービス指向。もう1つは、「やってみなはれ」の精神(サントリー創業者の鳥井信治郎氏)が企業・組織にどれほど浸透しているか、それがレベル2とレベル3の境目のように感じている。

●Next:大多数でDXを推進しているのなら、経済活動の変革が実感できないのはなぜ?

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