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[技術解説]

既存システムをAI Readyに変える「連携型モダナイゼーション」

「2025年の崖」の先へ─焦点は“システム延命”から“AI基盤整備”に

2026年10月22日(木)河原 潤(IT Leaders編集部)

モダナイゼーションの目的が、「老朽化したシステムの延命」から「AI Readyなシステム基盤の整備」へと大きくシフトしている。しかし、オンプレミスと多数のSaaSが混在する複雑なIT環境下での一括・全面刷新はリスクが高く非現実的だ。本稿では、先進ユーザー企業の移行事例を紹介しながら、APIやiPaaSを用いて既存資産を疎結合でつなぐ「連携型モダナイゼーション」の重要性を確認する。AX(AI Transformation)への取り組みを見据え、企業がいかにしてシステム連携を最適化しビジネスアジリティを獲得すべきか──最後の章では、IT部門が押さえるべき5つの実践ポイントを示す。

「延命」から「AI基盤整備」へ、モダナイゼーションの目的が変わる

 2018年9月公表の経済産業省「DXレポート」が指摘した「2025年の崖」。老朽化したレガシーシステムを放置すれば年間最大12兆円の経済損失が生じるという警鐘は、多くの企業に基幹システム刷新の意識を植え付けることとなった。

 そして、崖の時期を超えた今も、モダナイゼーション市場は拡大を続けている。IDC Japanが2026年2月に発表した調査によれば、国内ITモダナイゼーションサービス市場の2025年の規模は前年比10.1%増の1兆3044億円と推計。2025年から2030年にかけての年間平均成長率(CAGR)は10.2%で、2030年には2兆1234億円規模に達する見通しだ。同調査は、大企業(従業員1000人以上)および中堅企業(100〜999人)の約8割が2025年時点でもレガシーシステムを保有していることも明らかにしている(図1)。

図1:ITシステムモダナイゼーションサービスの国内市場規模(出典:IDC Japan、2026年2月)
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 こうした数字が示すのは、2025年の崖は決して過去の話ではなく、今なおモダナイゼーションへの投資機運が高まり続けているということだ。しかし、注目すべきはその「目的」の変容である。

 IDC Japanは市場の成長促進要因として、DX推進やレガシーシステムの保守人材減少といった従来型の内的要因だけでなく、「将来的にAIのユースケースが拡大することがレガシーシステムをモダナイゼーションする必要性を高める」と指摘している。つまり、モダナイゼーションの目的は「壊れそうな、老朽化したシステムを延命すること」から「AI Ready=AIを存分に活用できるシステム基盤を整備すること」へと大きくシフトしている。

 さらに、インフラのモダナイゼーションへの支出が成熟期に入る一方で、アプリケーションのモダナイゼーション──リライトやリファクタリング、マイクロサービス化──への支出が拡大する見通しであることも同調査は示している。これは、単にサーバーやOSを新しくする「箱の入れ替え」フェーズが一巡し、業務アプリケーションの構造そのものを変革するフェーズへ移行していることを意味する(図2)。

 DXからAXへの潮流転換の中、IT部門に求められているのは「老朽化したシステムをどう処理するか」ではなく、「既存資産をどう生かしながら、AI時代のビジネスアジリティを獲得するか」という問いへのアクションではないだろうか。次章では、それを考えるうえで避けて通れない、現代の企業システム環境の複雑さを掘り下げていく。

図2:システムモダナイゼーションにおける3つの基本移行手法(出典:IDC Japanの定義を基にAIで作図)
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957個のアプリ、73%が未連携─オンプレ/SaaS混在が生む“連携地獄”

 今日の企業ITは、単一のシステムが社内業務を一手に担っていた時代とはまったく異なる姿になっている。基幹系ERPはオンプレミスで稼働し続ける一方、営業支援にはSalesforce、コミュニケーションにはMicrosoft 365やSlack、経理には会計クラウド、人事にはHRTechクラウドと、部門ごとに異なるクラウドサービス(SaaS)が導入され、そのすべてが連携して初めて業務が回るという状態が一般的だ。

 米セールスフォース傘下のMuleSoftが世界1050人のITリーダーを対象に実施した「2026 Connectivity Benchmark Report」によれば、平均的な大企業が利用するアプリケーションの数は957に上り、そのうち連携済みのものは27%にとどまる。裏を返せば、7割強が他のシステムとつながらないまま放置されている計算だ。しかも、前年調査(2025年版)の「897アプリ/連携率29%」と比べると、アプリケーション数は増える一方で連携率はむしろ低下している。連携が業務の前提でありながら、実態としてはシステムの大半がサイロ化している──多くの企業が直面する“連携地獄”の現実だ。

ビッグバン刷新はなぜ難しいのか

 では、レガシーシステムのすべてを一気に刷新するビッグバンアプローチで、モダナイゼーションにまつわる課題を解決することはできないのか。残念ながら、答えはほとんどの企業にとってノーである。

 第一に、基幹系システムは長年の改修・拡張を経て業務プロセスと密接に結びついており、その全容を把握できる人材がすでに退職・異動しているケースが少なくない。設計書が存在しない、あるいは実装と食い違っているブラックボックス状態のシステムを一括で作り替えるリスクは、多くの場合、経営層が容認できる範囲を超える。

 第二に、コストと期間の問題がある。SAP ERP 6.0の標準保守終了(当初は2025年末、現在はエンハンスメントパッケージ〈EhP〉6〜8が2027年末。追加費用による延長保守は2030年末まで)や、富士通製メインフレームの製造・販売終了(2030年)、保守終了(2035年)といった外的期限に追われながら、数十万から数千万行規模のシステムをリビルドするのは非現実的だ。

 第三に、移行期間中も業務は止められない。とりわけ製鉄所のように24時間連続操業が求められる現場、航空会社のように運航管理が一瞬も途切れてはならない業種では、「旧システム停止→新システム稼働」のギャップは許容されない。

●Next:先進ユーザー企業は、モダナイゼーションの難題をどう克服したのか

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