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“感動デモ”で終わるAIと、実務で動くAI─両者を分ける「業務の文脈」とCelonisの管制塔
2026年7月22日(水)
企業のAI投資は加速する一方、大規模な実用化に到達した企業はごく一部にとどまる。成否を分けるのは、AIが業務をどこまで「理解」しているか、すなわち業務上の文脈(コンテキスト)の有無だ。2026年6月23日に開催された「プロセスマイニング コンファレンス2026 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)に、Celonisの寺田有汰氏が登壇。AIエージェントが乱立する時代に、それら業務を確実にやりきれるよう制御し、ブラックボックス化を防ぐ“プロセスの管制塔”としてリリースされたばかりの「Celonis Context Model」などを紹介した。
提供:Celonis株式会社
投資する94%、実るのは21%──明暗を分けるのは「業務の文脈」
Celonisはプロセスマイニングという学術分野の技術をビジネスに適用してきた企業で、顧客1400社超、パートナー250社超を抱える。Gartnerのマジック・クアドラント、Forresterの「Forrester Wave: Process Intelligence」、Everest GroupのPEAK Matrixのいずれのレポートでもリーダーに位置づけられているベンダーだ。
同社の寺田有汰氏(写真1)は2020年の入社以来、大手製造業のプロセスマイニング黎明期を支え、現在は2026年設立のApplied AI本部で日本市場のプロセスインテリジェンスとAI活用をリードする。前職はGEヘルスケアジャパンでSCM改革に従事した。
写真1:Celonis株式会社 バリューエンジニアリング統括本部 本部長 兼 Applied AI本部 本部長 寺田有汰氏最初に寺田氏が示したのは、AI投資の活況と成果のギャップである。Qlik & ESG Studyのレポート(2025年)を引き、94%の企業がAI投資を増やしている一方、AIを大規模に実用化できている企業は21%にすぎないと指摘した。
寺田氏は、Forresterが「プロセスインテリジェンスは失敗したAIプロジェクトの30%を救う」と可能性に言及している点を挙げ、この基盤を日本市場にも届けたいと力を込めた。
では、何が成否を分けるのか。その答えとして寺田氏はAI先進企業の声を引用した。「『だいたいの場合は正しい』というレベルのAIを受け入れることはできません。デモで感動を与えるだけのAIか、信頼して安全に実務に導入できるAIか、その違いを生むのは文脈(コンテキスト)なのです」(ヘルスケア・総合医療のグローバル企業、Cardinal HealthのDirector of AI、Anagha Vyas氏)。
マイクロソフトのCharles Lamanna氏も、エンタープライズAI最大の挑戦は現場の運用実態を正確に反映したモデルを築くことだと述べているという。寺田氏は、成否を分けるのは業務のコンテキストだと指摘した。
AIが業務を「理解」できない本当の理由──欠落した層を埋める
企業には基幹システムや文書など膨大なデータが眠っている。だが、それをAIに使わせるには、データを正しく処理してAIが理解できる形に整える作業が立ちはだかる。寺田氏はこの状態を「AIとデータの間でコンテキストのレイヤーが欠落している」と表現した。AIはビジネスを理解する手段も改善する手段も持たず、多くの企業がこの層を一から構築しようとして壁にぶつかるという。
この欠落した層に、プロセスマイニングで培った技術を差し込むのがCelonis Context Model(CCM)である(図1)。基盤データからプロセス関連データを集め、企業固有のナレッジを加え、得たインテリジェンスをAIに渡す。AIが業務を理解したプロフェッショナルのように振る舞えるようになるのが基本コンセプトだ。
図1:AIとデータの間で欠落したコンテキストレイヤーを補うCelonis Context Model拡大画像表示
CCMは2026年5月14日のプレスリリースで発表された。同時に打ち出されたのが、予測やシミュレーションに特化したIkigai Labs(イキガイラボ)の買収である。寺田氏は、培ってきたプロセス情報とビジネスロジックに同社の予測インテリジェンスが加わることで、過去から未来までを一貫してAIに提供できると、組み合わせる狙いを明かした。
「過去・現在・未来」をまるごとAIに渡す──CCMを支える3理論
CCMは3つの学術理論に支えられる。第1がOCPM(Object-Centric Process Mining、オブジェクトセントリックプロセスマイニング)だ。従来のプロセスマイニングは人間には見やすい半面、統計処理をかけるとデータの欠損や業務の重複、実態を伴わないフローといった問題が生じる。プロセスインテリジェンスの研究者Wil van der Aalst教授が発掘したOCPMはこれらを解消し、すべての状態を正確に可視化する(図2)。
図2:従来のプロセスマイニング(左)は欠損や重複が生じるが、OCPM(右)は全業務を正確に再現する拡大画像表示
寺田氏は「プロセスの交差も含めて業務実態をありのままに表現できる分、情報量が増大し、人間が活用するには一定の習熟が必要なデータでしたが、機械学習やAIエージェントにとっては最適なデータです」と、AI時代に適した真のデジタルツインだと位置づける。AIエージェントの実行ログと基幹システムのログを統合し、どのエージェントがどの業務に関わったかを把握する「Agent Mining」の基盤になる点を、CCMの最大のコアとした。
第2がLGM(Large Graphical Model)だ。買収したIkigai Labsが持つ、MITのDevavrat Shah教授らが20年以上の研究で確立した特許技術であり、表形式データの処理においては標準的なLLMより20〜40%高い精度を実現するとされる。テキスト処理に優れるLLMと役割が異なり、LGMは表形式・時系列データのパターン発見や高度な予測、What-Ifシミュレーションを担う。寺田氏は、過去の売上傾向と市場トレンドを組み合わせた予測分布を立てられる点を挙げ、サプライチェーンや需要予測など複雑な意思決定に活きると説明した。
第3がBPM(Business Process Management)だ。組織や業務の設計、達成すべき目的、コンプライアンスなどのルールとガードレールを定義し、AIに「何を目指し、何が許可されているか」という文脈を与える。寺田氏は、OCPM・LGM・BPMを組み合わせれば、現在の状態、処理の経緯、適用ルール、今後の予測までをAIに提供し、正しい意思決定を支援できると述べた。
「在庫を減らせば改善するかも」では使えない──一般解から実行解へ
コンテキストの有無は、AIの回答の質を決定的に変える。寺田氏は消費財メーカーの在庫判断を例に挙げた(図3)。在庫を廃棄すべきか作り方を変えるべきかを問うと、一般的なAIは「余剰在庫を削減すれば効率が改善する可能性がある」といった一般解しか返さない。
図3:コンテキストの有無でAIの回答はジェネラリストからスペシャリストへと変わる拡大画像表示
一方、CCMでコンテキストを与えたAIは具体的に踏み込む。「ロット442の在庫は港の遅延により18か月経過している。5%のブレンド調整であれば品質閾値(8.5超)を維持でき、約20万ドルの廃棄を回避できる」といった実行可能な提案を返す。業務上の文脈がAIをジェネラリストからスペシャリストへ進化させ、大企業でAIが本格的に機能するビジョンを描けると訴えた。
そのAIは、本当に「仕事をやりきった」か──管制塔が成果まで見張る
こうした理想とも言えるAIを実現する基盤となるのがCelonis Platformである。構造化から非構造化まで多様なデータをマルチモーダルに取り込み、プロセスデータを組み込んだデジタルツインを構築。その上に分析・設計・運用の開発基盤を載せてAIへ渡す(図4)。寺田氏が強調したのはオープン性だ。Zero Copy技術で外部のAI開発基盤と双方向にデータを連携し、MCP(Model Context Protocol)Serverを通じて外部のAIエージェントにコンテキストを渡す。一度CCMを構築すれば、Celonis上でも顧客が使う任意のエージェントでも同じユースケースを再現できる。
図4:Zero CopyとMCP Serverで外部AIと連携するCelonis Platformもう1つの肝がAgent Miningだ。AIエージェント自身の実行ログを解析し、トークンコストとビジネスへの貢献状況、すなわちRoAI(Return on AI:AI投資対効果)をモニタリングする。寺田氏は分析・設計・運用のADOメソドロジー(Analyze/Design/Operate)に沿い、与信ブロック(Credit Block)対応のエージェントをTeamsとCopilot上で実演した。とりわけ運用フェーズでは、処理しきれず人が介在したケースを再びマイニングし、最後まで実行しきれているかを検証する。ここまで1つのプラットフォームで回せる点を独自のコンセプトと説明した。
処理量5倍、欠品を30日前に予測──グローバル事例と、これからの日本市場
寺田氏は2つのグローバル事例を紹介した。1つはプレミアム表面材メーカーのCosentinoだ。与信ブロックされた注文のレビューに多大な時間を要し、注文を最大1カ月遅らせ、収益や運転資金、顧客体験に影響していた。CCMの情報を使う販売管理AIエージェントを導入した結果、毎日約180件のブロック注文を分析し、従来の5倍の注文を処理できるようになった。寺田氏によると、収益と運転資金がともに改善し、顧客体験にも大きな改善効果が生まれているという(図5)。
図5:コセンティーノ社は与信ブロック対応AIエージェントで従来比5倍の注文処理を実現拡大画像表示
もう1つはメルセデス・ベンツだ。販売・調達・製造にまたがる90超のシステム、30TBのデータを統合してCCMを作り込み、世界中の拠点における資材不足と生産への影響を最大30日前までに予測する。どの工場で追加生産すべきかといった経営判断までデータで支える。寺田氏は、シンプルなユースケースを素早く立ち上げるパターンと、重厚なバリューチェーンをつないで初めて可能になるAIの両方に貢献できる点をCelonisの強みとした。
締めくくりに寺田氏が触れたのが日本市場だ。今回はグローバル事例が中心だったが、日本企業の事例は今後、自社イベントなどで順次紹介していくという。寺田氏は「ぜひこの技術を使って、日本の皆様のプロセスを良くしていきたい」とメッセージを残し、講演を結んだ。

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