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[インタビュー]

ERP刷新を阻む“カスタマイズの壁”を崩したのは、データが語る“事実”─パナソニック デジタルのプロセスインテリジェンス実践

パナソニック デジタル 代表取締役社長 阿部 裕氏

2026年8月28日(金)河原 潤(IT Leaders編集部)

基幹システムの刷新やグローバル標準への統合に取り組む企業の多くが、同じ壁に突き当たる。現場が求めるカスタマイズと、経営が求める標準化のせめぎ合いだ。パナソニックグループは2021年始動の全社変革プロジェクト「PX(Panasonic Transformation)」で、この壁をデータが示す“事実”によって崩してきた。カスタマイズが絶対に必要だとされた業務をプロセスマイニングで可視化したところ、7割は使われていない処理だった──。そのPXのIT基盤を担い、2026年4月にグループのIT事業会社3社の統合で発足したのがパナソニック デジタルである。同社代表取締役社長の阿部裕氏に、PXの現在地、プロセスマイニング/プロセスインテリジェンスの取り組み、そしてAI時代のデータ基盤のあり方を聞いた。

 ERPのクラウド移行や「Fit to Standard」を掲げた基幹システム刷新は、今や多くの企業で既定路線となった。だが、方針が決まってからが本番である。移行の現場では、事業部門から「この業務にはどうしてもカスタマイズが必要だ」という声が上がり、IT部門はその要望を丁寧に聞き取り、結果として個別対応が積み上がっていく。ある意味“真面目”な組織ほど、この構図に陥りやすいようだ。

 問題の本質は技術ではなく、合意形成の設計にある。標準化の範囲をだれが決めるのか、例外を認める判断をだれが下すのか、そしてその判断の根拠をどこに置くのか。ここが曖昧なまま進めれば、プロジェクトは単なるシステム移行に矮小化され、業務のあり方は変わらないまま、次のレガシーが生まれる──。

 この難題を解決するにあたって、初手にして根幹の取り組みとされているのが、経営・事業の鏡像たるビジネスプロセスの全社的な刷新で、手法で言うと、業務プロセスを発見・可視化・分析するプロセスマイニングと、そこから正確なコンテキスト(業務の文脈、業務理解)を与えてAIを本領たらしめる“プロセスインテリジェンス”のアプローチだ。

 実際のシステムログから業務プロセスの実像を掘り起こし、「思い込み」ではなく「事実」を突きつける。加えて昨今、業務システムへの生成AI/AIエージェントの実装が現実味を帯びる中、AIに何を任せられるかを見極める前提としても、プロセスとデータの可視化は避けて通れないテーマになっている。

 そんな中、パナソニックは、2021年からグループを挙げて全社変革プロジェクト「PX(Panasonic Transformation)」を推進、プロセスマイニングの適用範囲をシステム移行時の可視化からプロセス改革、標準化、プロセス統制へと段階的に広げてきた。2026年4月1日にグループのIT企業3社が統合して発足したパナソニック デジタルは、その基盤と人材の両面を支える立場にある(関連記事パナソニック、新IT事業会社「パナソニック デジタル」を2026年4月に設立、グループのIT3社を統合)。

 CIO/IT部門にとって示唆に富むのは、同グループが技術の導入よりも、経営・ミドル層・現場という3層の役割分担の設計に注力してきた点だ。今回、代表取締役社長の阿部裕氏(写真1)に取材する機会を得て、グループ全社のプロセス変革を推し進めるにあたっての戦略と実践を詳しく聞くことができた。

写真1:パナソニック デジタル 代表取締役社長の阿部裕氏

「DXではなくXDだ」─役員合宿を境に変わった標準化への本気度

──新生パナソニック デジタルの舵取りを担われていますが、まずパナソニックグループ全体のPXについてうかがいます。2021年の始動から5年、現在のフェーズと手応え、そして経営トップのコミットメントについてお聞かせください。

阿部氏:最初の2年は、従業員から見ると「ITのトランスフォーメーションだ」という雰囲気が非常に強く出ていて、全社で変革をやっていく機運にはなっていなかったというのが事実です。

 変わったのは3年目に入ってからです。役員合宿の場で、役員自らが「標準化をもっと徹底的にやれ」「テクノロジーの活用をしっかりしていこう」「これは全従業員が一緒に取り組むことだ」と発信した。これを機にイメージがだいぶ変わりました。

 従来は経営トップも「ITのことはよろしく頼む」というケースが多かったのです。IT部門も真面目ですから、現場の言うことを全部聞く。それがそのままカスタマイズになっていくという構図でした。

 そこを思い切って、徹底的に標準化する方向に振った。だから「DXではなくXDだろう」と言っています。デジタルが先ではなく、トランスフォーメーションが先です。プロセスの変革があってこそ、デジタルを活用する意味がある。事業会社のCIOとも「DXではなくXDをちゃんと進めよう」と話しています。ITが前面に出ていくとシステム移行のプロジェクトになってしまいますが、そうではなく業務変革のプロジェクトなのだと。時代の流れとして、Fit to Standardという声も出てきていましたから、そこは追い風だったと思います。

──とはいえ、現場に浸透させるのは容易ではなかったのでは。

 時間はかかりました。あるプロジェクトでは「カスタマイズが絶対に必要だ」と言われたのですが、蓋を開けてプロセスマイニングで調べてみたら、7割ぐらいは使われていなかった。この事実があるかないかで話がまったく違ってきます。事実から判断することは、現場に対しても経営者に対しても説得材料になるのです。事実に基づいて正しく判断していこうという動きが、ここ3年ほどでだいぶ定着してきました。経営者も、ミドル層も、現場の方々も徐々に変わり始めていますので、ようやく手応えが出てきたと感じています。

──PXのゴールに対して、いま何%ぐらいまで来た感覚でしょうか。

 50%ぐらいには来たのではないかと思います。前グループCIOの玉置(玉置肇氏、現 パナソニック ホールディングス 代表取締役 副社長執行役員/事業CEO/グループCTRO)は「PXの常態化」と言っています。会社も周囲も常に変わっていくなかで、変化に対応し続けることを常態にする。それがPXのゴールだと。ITだけでなく全員がそのマインドを持って常に変革していけるようになったとき、本当の意味でのPXの完成形に近づく。ですので、まだ途上ですね(図1)。

図1:これからも進化し続けるPX(出典:Celonisが2026年7月に開催した年次コンファレンスに登壇した阿部氏のスライド)
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カスタマイズの可否を経営者自らが判断する

──今回、メインテーマとしてうかがいたいのが、プロセスマイニングやプロセスインテリジェンスの取り組みです。この4年半、システム移行時の可視化から始まり、プロセス改革、標準化、プロセス統制へとレベルを上げてこられました。全社展開を可能にしたブレイクスルーはどこにあったのでしょうか。

 PXの流れと共通しているのですが、全社的に「標準化の定義をきちんとしなさい」「プロセスオーナーを設定しなさい」ということが7つの原則として決められています。それを受けて、それぞれの事業会社が「うちはここまでを標準化とする」と決めて推進してきました。

 カスタマイズの良しあしについても、経営者が自ら入って「ここは徹底的に標準化する領域」「ここはカスタマイズしてよろしい」と判断しています。IT部門に丸投げするのではなく、経営者が判断の場に入っている。ここが大きな転換点だと思います。

図2:パナソニック デジタルが推進した、グループのIT領域における4年間の取り組み(出典:Celonisが2026年7月に開催した年次コンファレンスに登壇した阿部氏のスライド)
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──欧米の先進事例を見るに、「プロセスオーナー」のリーダーシップがカギを握るプロジェクトだと感じます。どういった職掌の方が、どんな具合にアサインされているのですか。

 事業会社によって違いますが、事業部長であったり、かなり上のレベルのリーダーをアサインしています。決めたことを下まで浸透させる力があるレベルの方を選んでいますし、それぞれの事業会社の社長が任命することになっています。

●Next:トップダウンでもボトムアップでも動かない──カギを握るのはだれか?

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