企業のAI投資が成果につながらない理由の多くは、AIの性能そのものではなく、AIに供給されるデータの問題にある。2026年3月11日に開催された「データマネジメント2026」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)に登壇したQlikのソリューションアーキテクト 日下部佑起氏は、「企業AIの95%がほとんど使われていない」という現状を起点に、データとAIを直接つなぐ「エージェンティックAI」の4機能と、サッポログループにおける先進的なデータ統合事例を紹介した。
提供:クリックテック・ジャパン株式会社
クリックテック・ジャパン株式会社 ソリューション技術本部 ソリューションアーキテクト 日下部 佑起氏データにつながっていないAIが阻む3つの壁
Qlikは1993年にスウェーデンで創業し、現在は米国に本社を構えるデータ分析・BI(ビジネスインテリジェンス)の先駆的企業で、クリックテック・ジャパン株式会社はその日本法人だ。同社はオンプレミス向けの「QlikView」から、現在のクラウドベースの「Qlik Sense」へとプラットフォームを拡張させてきた。
特筆すべきは近年の戦略的な買収だ。2019年にはAttunity(アチュニティ)を買収してCDC(変更データキャプチャ)によるニアリアルタイムデータ連携を実現し、2023年にはTalend(タレンド)を買収してETLおよびデータ統合の領域を傘下に収めた。これにより、データの収集から変換、品質管理、そして分析・自動化までをワンストップでカバーする、包括的な総合データプラットフォームへと進化を遂げている(図1)。
図1:データ収集・変換・品質管理から分析・AI・自動化までカバーする包括的なソリューション拡大画像表示
日下部氏は、こうしたソリューションの広がりを示した上で、多くの日本企業が直面している「AI活用が普及しない」という深刻な課題を提起した。さまざまな調査レポートを引用し、「AIを導入しても、その95%が実際にはほとんど使われていません」と指摘。その背景には共通する3つの失敗パターンがあるという。
- データが各システムにバラバラに存在し、そもそもAIが使える状態にない
- AIが出した結果の根拠が不透明で、業務での意思決定に信用して使えない
- 基盤構築そのものに莫大なコストと時間がかかり、PoC(概念実証)の段階でプロジェクトが停滞してしまう
「AIモデルそのものの問題というより、データマネジメントの不備で足止めを食っているケースが非常に多いです」と日下部氏は強調する。この現状を打破するためにQlikが示す指針が「AIを実現する・加速する・適用する」という3本の柱だ。
まず「実現」とは、散在するデータを高い品質で統合し、信頼できるコンテキスト(文脈)を伴った状態でAIに提供することである。次に「加速」は、独自のインメモリエンジンと、ベンダーに依存しないオープンテーブルフォーマット「Apache Iceberg(アパッチ・アイスバーグ)」を組み合わせることで、コストを抑えながらニアリアルタイムな処理を高速化することを指す。そして「適用」とは、SnowflakeやDatabricks、さらにはChatGPTやClaudeといった急速に進化する外部のAI技術とオープンに連携し、ビジネスの機動力を高めることだ。
PPAPに学ぶ組織の「習慣化」─自律的に動くエージェンティックAIの4機能
続いて日下部氏は、AI活用を組織に定着させるための「習慣化」の重要性に触れた。ここで反面教師として挙げられたのが、いわゆる「PPAP」─パスワード付きzipファイルと、そのパスワードを別メールで送るという慣行だ。 PPAPはセキュリティ上の合理性がないとして、2020年にはすでに内閣府・内閣官房での廃止が宣言されている。それにもかかわらず、現在も多くの企業でこの慣習が続いている現状がある。
「その行為の是非にかかわらず、一度組織に根づいた『癖』を変えるのは極めて困難です。ならば、AI活用という『良い習慣』を、いかに意識的に組織の癖として定着させられるかが鍵になります」(日下部氏)
では、どうすればAIを「使われない95%」から救い出し、業務に定着させられるのか。日下部氏が指摘する現状の壁は、「AIが社内データを深く理解していないこと」「回答が正しいか人間が判断できないこと」「結局チャットボットとの会話だけで終わってしまうこと」の3点だ。これらはいずれも、AIがデータから切り離されていることによる弊害だという。
この壁を崩すための次世代のアプローチが「エージェンティックAI」である。これは、単なる人間との対話を超え、AIが自らデータを探索・理解し、自律的にインサイトを提示、さらにはアクションまでを自動化するインテリジェントなシステムだ。QlikはこのエージェンティックAIを、相互に連携する4つのコア機能によって実現している(図2)。
図2:相互連携する4つの機能を持つエージェンティックAI拡大画像表示
1. Qlik Answers
信頼できるビジネスデータ全体に対し、自然言語(日本語)で質問するだけで推論を行う機能だ。SQLやBIツールの複雑な操作を介さず、「今月の売上が落ちている理由は何ですか」と問えば、AIが適切なグラフを自動生成し、さらにその根拠となったデータソースを透明性高く提示する。
2. Qlik MCPサーバー
ChatGPTやClaudeといった外部の高度なAIツールを、ガバナンスが効いた安全な状態でQlikのデータ基盤に接続する仕組みだ。デモでは、AIへ1つ指示するだけでQlik Cloudの画面上に必要なKPIや分析グラフがリアルタイムに構築される様子が示された。
3. Discovery Agent(ディスカバリーエージェント)
2026年4月にリリースを予定しているこの機能は、人間が気づいていないデータの「異常」や「予兆」をAIがバックグラウンドで自律的に検知し、能動的にアラートを上げる。従来の閾値設定が不要なため、現場の運用負荷を大きく下げられる。
4. データ製品
AIが参照するデータの信頼性を担保する機能だ。データの品質スコア(Qlik Trust Score)やメタデータ、ガバナンス情報を統合管理し、エンドユーザーが「このデータはAIに使っても大丈夫か」を迷わず判断できるカタログとして提供される。
コスト8分の1を実現したサッポログループの「SAPPORO DATA FACTORY」
具体的な実践事例として、サッポログループ(サッポロホールディングス)の取り組みが詳しく紹介された。ビール事業をはじめ、飲料、食品、不動産など多岐にわたる事業を展開する同社は、2024年9月に経済産業省の「DX認定事業者」に認定されるなど、グループ全体でのデータ利活用を強力に推進している。
しかし、同社も大規模グループ企業ゆえの深刻な課題に直面していた。事業会社ごとにシステムが最適化されているため、データがサイロ化して散在しており、グループ横断での統合分析が困難だったのである。この課題を解決するために立ち上がったのが、グループ共通のデータ総合戦略に基づいた基盤「SAPPORO DATA FACTORY」だ。
導入前の課題は、大きく3点に集約されていた。 1つ目は、基幹システムへの負荷を避けるために夜間バッチでデータを連携していたが、それでは鮮度の高い情報を分析に活かせないという時間的制約だ。2つ目は、データパイプラインの構築や変更のたびに外部ベンダーへの発注が必要で、コストと期間(半年〜1年)が膨らんでいたこと。そして3つ目は、特定プラットフォームへの依存によって、将来的なデータ活用の柔軟性が損なわれていたことだ。
これらのボトルネックを解消するために、QlikのCDC技術によるニアリアルタイムデータ連携と、「Qlik Talend Cloud」によるデータ統合が採用された。結果、基盤構築のプロセスは変化を遂げた。データ連携は夜間1回からニアリアルタイムへと刷新され、常に最新の状態のデータがSnowflakeなどの基盤上に供給されるようになった。また、パイプラインの構築を完全に内製化したことで、外部ベンダーへの発注なしに、既存のライセンス範囲内で迅速にデータの追加や変更が可能になった。
その成果は数字にも如実に表れている。連携システム数は5から8へと拡大。構築期間は従来の24カ月から9カ月へと大幅に短縮された。そしてコスト面では従来の手法と比較して8分の1という圧倒的な削減を実現したのである。
日下部氏は最後に真の「データの民主化」への意欲を語った。「ニアリアルタイムデータ連携とデータ統合、さらにメタデータ管理の高度化やデータカタログの展開によって、現場のユーザーが必要なデータを自ら発見・理解・活用するプロセスを多くのお客様にご提案していきたいと思います」(日下部氏)
AIを本当にビジネス価値に結びつけるのは、モデルの性能以上に、データの「質」と「鮮度」、そしてそれらをAIと自律的につなげる仕組みである。エージェンティックAIという新たな潮流は、これからの日本企業のデジタル戦略を、より高次元なレベルへと押し上げる重要な鍵となるだろう。

●お問い合わせ先
クリックテック・ジャパン株式会社
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Qlik Technologies / データ統合 / Talend / AIエージェント / BI / サッポロホールディングス
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