生成AIの利用が拡大しているが、一方で多くの企業がその応答精度や信頼性に関する課題に直面している。実はこの本質的な要因は、AIモデルやツール自体ではなく、データ定義および品質管理の不備といったデータマネジメントの領域にある。2026年3月11日に開催された「データマネジメント2026」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)のセッションに、日立製作所の岩渕史彦氏が登壇し、AI導入、データ品質管理、マスターデータの運用を組織全体の意思決定プロセスと連携したデータマネジメント戦略として統合的に推進していくプロセスを解説した。
提供:株式会社 日立製作所
LLM活用のボトルネックを解消する4つのステップ
現在の企業活動は、「BI+DX+AI」の時代に突入しようとしている。そこで求められているのは、SoR(System of Record)系データ、SoE(System of Engagement)系データ、アナログをデジタル化したデータ、さらにはIoTデータや業務文書を組み合わせ、生成AI活用につなげていくデータ統合アーキテクチャーだ。
背景には生産年齢人口の減少、特にフロントラインワーカー不足という課題があり、企業は生成AIの回答精度と信頼性を高め、生産性を高めていかなければならない。日立製作所の岩渕史彦氏は、「日立製作所社内で培ったIT活用のナレッジと共に、日立製作所のAI技術を組み合わせたアプリケーション、サービス、基盤を提供します」と語り、社内改革・実践を通じて得たノウハウを顧客の課題解決に活かしていく姿勢を示した。
株式会社 日立製作所 AI&ソフトウェアサービスビジネスユニット エンジニアリングサービス&セキュリティ本部 DXインテグレーション部 主管技師 岩渕 史彦氏実際に業務で使える生成AI環境を構築するためには何が必要なのか。岩渕氏によれば、「ステップ0から3」の4段階を経ることが重要だという。ステップ0は汎用LLMをそのまま利用し、ステップ1でRAGに必要な情報を組み込んで検索精度を高める。ステップ2では業種特有情報を用いたファインチューニングによってLLMの応答を調整し、最終段階のステップ3ではLLMに不足しているより幅広い業種特有情報を追加学習させる(図1)。
図1:汎用LLMの利用から、RAG、ファインチューニング、追加事前学習へと至るステップ。顧客のニーズに応じてこれらの段階を使い分ける拡大画像表示
つまり、生成AIの回答精度を上げ、信頼性を高めるためには、質の高いデータが不可欠なのだ。また、より多くの学習を行うために、十分なデータを揃える必要がある。生成AIの精度向上は、まさにデータマネジメントの成熟度に直結している。
そうした中で日立製作所が重視するのが、人、アプリケーション、IoT、AIが“同じ言葉”で会話できる環境の構築だ。
「アプリケーション、IoT、業務文書を関連付けて学習するためのデータモデルが必要となります。ビジネスプロセス、マスター、トランザクション、デジタルデータ、業務文書、そして外部データをエンティティとして定義し、関連付けるエンタープライズデータモデルを作り、それをベースにデータウェアハウスやRAGを整備していきます」(岩渕氏)
PDCAとOODAを融合しデータ品質を継続改善する
データ品質向上に向けた具体的な支援の事例として、岩渕氏は日揮グローバルにおける取り組みを紹介した。
同社は価値創出、業務品質向上、業務効率化をテーマに掲げたデータ利活用活動を推進しており、「データ」「アーキテクチャー」「人」「サービス」の4領域で、5段階の成熟度を定義している。日立製作所が支援を開始した2023年度はレベル2の状態だったが、2024年度にレベル3を達成。2025〜2026年度にレベル4達成を目標に掲げて活動を進めている過程にある。
この改善プロセスの核心は、中長期的な「PDCAサイクル」と、日々のデータ課題に即応する「OODAループ」の組み合わせだ。
「PDCAを回しつつ、そのDo(実行)プロセスにOODA(観察→状況判断→意思決定→行動)による課題対応を組み込み、データ品質改善を継続的かつ実効性あるプロセスを構築するものです(図2)」(岩渕氏)
図2:中長期的な品質目標を管理するPDCAサイクルの中に、日々発生する課題へ即応するOODAループを組み込み、実効性のあるプロセスを構築する拡大画像表示
具体的には、Observe(観察)で日常の運用状況を記録し、発生要因とデータ品質課題を整理。この判断結果に基づき対応策を実施するというフローだ。データ品質の評価軸としては「完全性」「有効性」「一貫性」「最新性」といった指標を用い、実行効果と難易度から優先順位を決定している。「改善対象を絞り込むことで、実行可能性と効果の両立を図りながら、段階的に推進していきます」(岩渕氏)。同社では今後、プロジェクトリスク管理業務でのAI活用にも着手する計画だ。
MDMを孤立させない――全社DXと連動したマスターデータ管理の最適解
もう1つの事例として取り上げたのが、塩野義製薬との協創だ。両社は2025年1月に業務提携を締結。「データと生成AIなどを活用した革新的な医薬品・ヘルスケア業界向けサービス創出」を目指した活動の一環として、MDM(マスターデータ管理)の高度化と普及を推進している。
MDMの導入において多くの企業が直面する悩みが、「投資対効果が見えにくい」「部門横断の対応が難しい」「何から始めればいいかわからない」の3点だ。その課題解決に向けて、岩渕氏は「MDMを単独プロジェクトとせず、データドリブン経営やDXといった全社的な取り組みと連動させながら、対象範囲を段階的に拡大していくことが重要です。そのためには、MDMに対する理解促進と、継続的な組織づくりが不可欠となります」という展開ストーリーを示した(図3)。
図3:MDMを単独プロジェクトとせず、データドリブン経営やDXといった全社戦略と連動させながら対象範囲を段階的に拡大していく拡大画像表示
日立製作所は、こうした企業のデータ利活用を支援するプラットフォームとして「Hitachi Intelligent Platform(HIPF)」を提供している。岩渕氏は「DXは、『集める(データを収集・可視化して初めて、必要なデータがそろっているかがわかる)』と『見る(データを追加・関連付けして、見たいものを見られるようにする)』の繰り返しであり、ビジネスの変化に対応していくことが必要です」と語り、単発のシステム開発ではなくビジネスと共に成長する基盤開発の重要性を強調した。
HIPFの具体的なサービスは、「PLAN(ロードマップ作成)」「BUILD(設計・構築)」「MANAGED(運用)」の3フェーズで構成される(図4)。DXの計画段階で事業戦略に沿ったITロードマップを描き、MVP(Minimum Viable Product)を決定。構築したMVPを運用しながら、DX基盤の成長から生まれる変化をスマートにデータマネジメントへと組み込んでいく。
図4:データ利活用を支援するプラットフォーム「Hitachi Intelligent Platform(HIPF)」拡大画像表示
「DXで重要なのは、ビジネスとITの両輪を回すことです。お客様はビジネスを回し、私たちがデータエンジニアリングを通じてITを回すという協創を通じて、お客様のなりたい姿の達成に伴走していきます」と、岩渕氏は力を込めた。

●お問い合わせ先
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