AI の進化が加速する現代において、企業が競争力を維持するためにはデータ活用が不可欠だ。しかし、多くの企業では「データの一元管理が途上である」「データを活かしきれていない」といった課題に直面している。2026年3月11日に開催された「データマネジメント2026」(主催:日本データマネジメント・コンソーシアム〈JDMC〉、インプレス)のセッションでは、グーグル・クラウド・ジャパンの藤好健太郎氏が「AI-Ready」 なデータ基盤の構築手法と具体的な未来像を解説するとともに、日本電気(以下、NEC)の秋田和之氏が、Google Cloudの活用による「AIネイティブカンパニー」の実現に向けた取り組みを紹介した。
提供:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社
AI活用の進展で、真の意味での「データの民主化」の時代が到来
グーグル・クラウド・ジャパン合同会社 スペシャリスト営業統括 データアナリティクス事業本部 セールススペシャリスト 藤好健太郎 氏初めに登壇したのが、グーグル・クラウド・ジャパンの藤好健太郎氏である。冒頭、同氏は生成AIとAIエージェントの台頭により、企業における業務のあり方が根本から変わりつつある現状を指摘した。
「これまでのデータ分析は、SQLなどの専門知識を持つ一部の専門家に依存しており、データの入手や分析に多大な時間を要していた。しかし、生成AIの普及により、すべてのビジネスパーソンが自然言語で『売上の傾向を教えて』と問いかけるだけで、即座にインサイトを得られる環境が整いつつある。すなわち『真の意味でのデータの民主化』が実現されつつある」(藤好氏)
このAI時代において企業が競争力を維持するためにはデータ活用が不可欠だが、多くの企業では、データの一元管理が途上であることや、データを活かしきれていないといった課題に直面しているのが実情だ。
「高性能なAIであるGeminiなどを最大限に活用するためには、基盤となるデータの整備が不可欠。データがバラバラで未整理な状態では、AIがもっともらしい嘘をつく『ハルシネーション』の発生や、精度の低いアウトプットを招いてしまうことになり、結果として業務効率を低下させてしまいかねない」と藤好氏は警鐘を鳴らす(図1)。
図1:高性能なAIも未整備なデータの前では無力化する拡大画像表示
「従来のデータ基盤は、データを溜めておくための保管庫としての役割が中心であった。これからの時代においては、データ基盤をAIが自ら学習し推論を行い、実際の業務とリアルタイムに連携するための、“AI Ready”なデータプラットフォームへと進化させなければならない」(藤好氏)
AIネイティブなデータ基盤の構築を3つの軸でサポート
このような課題に対して、Google Cloudは、「地球規模のインフラ」「AIネイティブな統合」「独自のインテリジェンス」という3つの軸を掲げ、企業のAIネイティブなデータ基盤構築を支援している。
1つめの「地球規模のインフラ」であるが、Google Cloudは毎秒60億以上のクエリを処理する「Spanner」や、200PBを超える膨大なデータを処理可能な「BigQuery」など、圧倒的なスケーラビリティを有しているのが大きな特長だ(図2)。
図2:Google のグローバル・サービスを支えるインフラ拡大画像表示
2つめの「AIネイティブな統合」では、「Google TPU(Tensor Processing Unit)」などのハードウェアから、AI開発プラットフォームの「Vertex AI」、生成AIサービスのGeminiといったエージェント構築基盤までを一気通貫で提供している。
そして、3つめの「独自のインテリジェンス」としては、Google広告やトレンドデータ、YouTubeなどのマルチモーダルな知見をビジネスに活用できる独自のインテリジェンスを備えている。
藤好氏は、これらの特長を述べたうえで、「これから構築を目指すべき『Agent Ready』なデータ基盤には、単なる拡張性やリアルタイム性だけでなく、画像等を含むマルチモーダルデータへの対応が不可欠となる。また、データに意味を付与するセマンティックレイヤーの構築や、コンテキストのカタログ化に加え、高度なセキュリティとデータ品質の担保を兼ね備えた包括的なプラットフォームが求められる」(図3)と展望を語り、セッションを秋田氏に引き継いだ。
図3:Agent Ready Data Platformに求められる要件拡大画像表示
AIネイティブカンパニーへの進化を目指す
NEC コーポレートIT・AIイノベーション部門 AIプラットフォーム統括部 AIデータプラットフォームグループ 秋田和之氏続いて、NECの秋田和之氏が登壇し、同社の、単なるデジタル・IT化ではないDXによるコーポレート・トランスフォーメーション、Google Cloudを活用したデータマネジメントに関する具体的な取り組みが紹介された。
「NECは過去に大規模な構造改革を経験しており、10年以上にわたってIT、製造プロセス、組織、そしてデータのすべてを刷新してきた歴史がある。そして現在、AIを空気のように、当たり前に使いこなせる『AIネイティブカンパニー』へ進化していくことを目指している」と秋田氏は強調する。その一環として、グローバルなハイパースケーラーであるGoogle Cloudとの戦略的協業を通じた、社内システムのモダナイゼーションを加速させている。
具体的な取り組みの1つが、CXOの分身AIであるナレッジAIの活用だ。これは経営層の過去1年分の発言などを学習させたものであり、部下からの企画書に対するアドバイスや壁打ちをAIが行う仕組みである。これにより、ビジネス判断のスピードと質の向上を図っていくことが狙いだ。
また、Gemini Enterpriseを全社展開しており、エンタープライズサーチとして10万人超が利用する環境を実現。さらにナレッジAIエージェントとして、NotebookLMをNECグループ内に導入し、アクションの高速化やナレッジ共有による生産性向上を推進している。
このほか、CEOが閲覧する経営コクピットにおいても、AIが分析コメントを付与したり、将来予測を提示したりする仕組みを構築している(図4)。
図4:AI経営コックピットの活用により、経営の質、個人と組織のパフォーマンスを向上拡大画像表示
AIのための高度データ活用に向けて「One NEC Data プラットフォーム」を構築
これらNECで進む高度なAI活用を支えているのが、「One NEC Data プラットフォーム」だ(図5)。
図5:AI Readyなデータ基盤として整備された「One NEC Data プラットフォーム」拡大画像表示
One NEC Data プラットフォームのコンセプトのもと、社内に散在していた1000以上のシステムのうち、特に重要度の高い約100システムのデータをGoogle Cloud上のBigQueryへと集約した。このプロジェクトは非常に大規模なものとなったが、わずか10ヶ月間という短期間で約500億件ものデータを移行させた。この統合によって、年間2億円を超えるコスト削減も達成している。
このようにデータを1箇所に集める最大の目的は、Vertex AIやGeminiをはじめとするAIとの親和性を高め、AIエージェントが即座にデータを活用できる環境を構築するためである。データの分散やサイロ化はAI活用の足かせとなるため、統合されたデータ基盤が不可欠であったからだ。
One NEC Data プラットフォームによってデータ基盤の整備を加速度的に進めているNECであるが、秋田氏は「現在はあくまで準備が整った状態に過ぎない」と述べる。
「AIエージェントが自律的に動くためには、AIが理解できる意味情報の整備が今後さらに重要となる。人がデータを加工してダウンロードするのではなく、AIがデータマネジメントの多くを担い、人はその価値を最大化させる役割にシフトする。そうしたAIネイティブな文化への変革をこれからも追求していく」と秋田氏は展望を語った。
“AIが当たり前にあること”を前提に業務、組織、企業文化を変革
AIネイティブ時代を迎えるにあたって、これから人は何をすればよいのか。「AIエージェントが多くの業務を担うようになっても、やはり人の存在は不可欠である。そうした中で、人とAIが協調する文化や革新が必要であり、業務プロセスも、単なる自動化ではなく“AIエージェントが当たり前にあること”を前提に作り変えなければならない」と秋田氏は訴える。データが「AI Ready Data」として整備されていることは当然として、人と組織、文化のすべてにおいてAIが前提となる必要がある。
「AIは労働力であり、パートナーであり、分身であると捉え、プロセスそのものもAIの存在を当たり前とする。そこまで到達して初めて、私たちが目指すAIネイティブカンパニーになることができる」と強調し、秋田氏はセッションを締めくくった。
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