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生成AI活用の成果を阻むものは何か─AJSが説く、部門最適からの脱却と業務プロセス再設計
2026年7月21日(火)
生成AIは個人や部署での利用が広がる一方、業務プロセスへの組み込みは依然として限定的だ。2026年6月23日に開催された「プロセスマイニング コンファレンス2026 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)に、AJS株式会社の横山毅氏が登壇。「AI時代に成果を出す業務改革」と題し、部門最適から抜け出すための業務プロセス可視化の手法と、業務プロセス再設計の重要性を、SAP S/4HANA移行企業での実践事例を交えて語った。
提供:AJS株式会社
生成AIは「使われている」が、業務プロセスには組み込まれていない
生成AIへの関心と導入は着実に進んでいる。一方で、検討段階にとどまる企業もまだ多い。横山 毅氏(写真1)は、それが日本の現在地だと説明する。
写真1:横⼭ 毅氏 AJS株式会社 インダストリービジネス事業部 業務改⾰企画室 エキスパート職問題は使われ方にある。横山氏が注目したのは、生成AIの業務での導入状況の内訳である。「個人や部署で試験利用している」「個人で業務利用している」はいずれも半数を超える一方、「部署の業務プロセスに組み込まれている」はわずか13.1%にとどまる(図1)。
「業務プロセス改善に生成AIを導入・検討している企業は限定的だと言えます」(横山氏)
横山氏は、AJS入社後に基幹システム領域のSIerとして経験を積み、その後、顧客企業の業務プロセス改革や経営改善プロジェクトに携わった経歴を持つ。現在はBPM(Business Process Management)を活用した業務改善支援にあたっている。
図1:生成AIの業務プロセスへの組み込みは13.1%にとどまる。出典:IPA「DX動向2025」拡大画像表示
なぜ業務プロセス効率化は経営課題であり続けるのか
CIOや情報システム部門長にとって見過ごせないのが、経営の期待と現場の停滞のギャップである。横山氏は、IT投資で解決すべき経営課題として「業務プロセスの効率化」が2013年以降一貫して重要視されてきたと指摘する。近年は連続して1位を占めているという。それほど重視されながら状況が変わらない理由を、横山氏は組織構造に求める。事業目標が部門目標へと落とし込まれる過程で、各部門は自部門の目標達成を優先し、部分最適にとどまってしまう。結果として部門をまたぐ課題には手がつかず、全体最適の視点での効率化に踏み込めない。
現場側の事情も重なる。2025年の総務省の調査によれば、生成AI導入の懸念として「効果的な活用方法がわからない」を挙げる割合が30.1%と高い。全体最適を見据えた改善計画を描けないまま、他社事例を横目にツール選定だけが先行する。横山氏はこの「効果的な活用方法がわからない」の正体をシンプルに解き明かした。効果的な活用方法がわからないのは、効果の出る業務を特定できていないからであり、その背景には業務プロセス全体が可視化・整理されていないことがあるという。
「業務全体が俯瞰され整理された状態で、効果の出る業務が特定されれば、効果的な活用方法は見えてきます」と横山氏は力を込める。裏を返せば、業務プロセスの可視化こそが生成AI活用の出発点になるという主張である。
再現性を生むBPMの4フェーズ
では効果の出る業務をどう特定するのか。AJSが拠り所とするのが、BPMを業務改善のメソドロジーとして体系化した手法だ。横山氏は4つのフェーズを順に解説した(図2)。
図2:BPMによる業務改善の4フェーズ拡大画像表示
最重視するのはPhase1「事業全体の可視化」である。事業構造図から目標図、取引関係図、プロセスチェーン図、業務フロー図まで階層的に描き、どの課題を解決すれば事業目標を達成できるかを、経営層からも現場からも見える状態にする。Phase2「AS-IS把握」では、プロセスマイニングで業務の時間や量を数値化し、非効率やボトルネックを定量化する。課題を定量化することで、解決すべき課題の優先順位付けが容易になる。とりわけ部門をまたぐ業務に着目するのが肝で、横山氏は「解決が難しい反面、解決できれば大きな成果をもたらす」と述べる。
Phase3「TO-BE検討」では、改善効果の高い課題に絞ってあるべき業務を定義し、業務コストを金額に換算する。金額を示すことで、経営と現場の双方に納得感のある改善施策であることを示し、合意形成と施策の実行を加速することができる。
そしてPhase4「実装」では、課題解決に向けて業務そのものを見直すか、仕組みを導入するかを判断し実行に移す。生成AI導入を検討するのはこの段階だ。実装後は再びPhase2のプロセスマイニングに戻って効果を測定し、サイクルを回し続ける(図3)。
図3:改善効果の高い課題に対し、解決策を検討し効果を測定拡大画像表示
コストの金額換算は、経営判断を後押しする。横山氏が紹介したTO-BE例では、月間135万円、年間約1,600万円の削減効果を見込んだ。仮に改善施策の実行に800万円の投資を行った場合でも、年間削減効果によって十分な投資対効果が見込める。
SAP S/4HANA移行で噴出した「BPOコストの妥当性」問題
その考え方を実際の業務改革に適用したのが、ソフトウェアの仕入・販売と導入・運用支援を手がけるA社の事例だ。同社は基幹システム刷新のためSAP S/4HANAへ移行し、Fit to Standardをベースに業務標準化を目指した。業務と経営の変革を両輪で動かす狙いだった。
ところが移行後、理想とのギャップが課題として浮かび上がる。旧来の運用との差異が次々と発覚し、現場の業務負荷が急増した。これを乗り切るためBPO(Business Process Outsourcing、業務プロセスアウトソーシング)を活用して業務を回すことを優先したが、今度は何にどれだけコストがかかっているかが見えなくなり、BPOへの支払いが妥当かどうか判断できない状態に陥った。
A社の事業目標は「BPOコストの最適化」に定まった。AJSはSAP Signavioを使い、受注から請求・支払処理に至る営業事務業務を対象にプロセスマイニングを実施する。まず明らかになったのが業務パターンの多さだ。受注から請求までのプロセスパターンは550にのぼり、横山氏も「非常に多い」と振り返る。この550を標準パターンと例外パターンに分けたところ、例外パターンの発生割合が約70%という高さを示した(図4)。
図4:A社の業務プロセスは550パターン、うち例外が約70%拡大画像表示
例外を生む「上流の不備」と、BPO生産性6割の実態
例外パターンの一例が請求取消だった。経理部門では請求取消が月約200件発生し、請求から取消、再請求に戻るまでの滞留期間は平均で約1週間に及んでいた。現場インタビューで真因をたどると、受注部門や購買部門など上流プロセスの不備が、下流での請求取消を引き起こしていた。確認連絡やデータ修正のために、関係する全部門が本来不要な稼働時間を費やしていたのである。経理部門だけでは解決できない、部門横断の構造的な問題だった。
もう一つの論点がBPOの生産性だ。受注伝票の登録作業に絞って社員とBPOの生産性を比較すると、BPOの生産性は社員比でおよそ60%にとどまった。例外パターンが多い業務ほど、BPOの生産性が下がるという関係が数字で裏づけられた。
ここから導かれる再設計の方針は明快だ。プロセスマイニングで可視化できる領域を標準と例外に切り分け、業務上やむを得ない例外も特例として標準化の対象とみなす。標準化した業務はBPO活用を進めつつ、将来的にはAIエージェントによる実行も視野に入れる。一方の例外は引き続き社員が担当し、標準業務へと作り替えていく。これにより社員の工数は減り、より顧客価値の高い仕事へとシフトできる(図5)。
図5:標準・例外を振り分け、BPOから将来のAIエージェント化を見据える再設計スキーム拡大画像表示
業務プロセス再設計がAI活用の成果を左右する
横山氏が繰り返し強調したのは、人間中心の業務プロセスのままAIを部分的に組み込んでも効果は限定的だという点である。むしろブラックボックス化や、AIが誤った情報を生成する「ハルシネーション」などのリスクを招きかねない。求められるのは業務プロセス全体の再設計であり、「AIが業務を実行し、人がチェックする」という役割分担を確立することだ。そこにこそ、従来の延長線上では得られなかった成果が生まれる。
講演の締めくくりに横山氏は、「Agentic Process」(AIエージェントが自律的に業務を担うことを前提に再設計された業務プロセス)で価値を最大化する3要素を提示した。第1に「自律実行を前提とした業務プロセスの再設計」、すなわちBPMの活用。第2に「人間による継続的なガバナンス」、AIと人の役割分担。第3に「客観的データに基づくモニタリング」、プロセスマイニングによる継続的改善である。
経営層が長年求めてきたのは、業務プロセスの効率化にほかならない。横山氏は最後に、「業務パターンがどれだけ自社で発生しているのか、そこから調べることから始めませんか」と問いかけた。生成AI活用の成果を阻んでいるのはAIそのものではなく、部門最適に閉じた組織運営であり、成果を引き出すには業務プロセス全体の可視化と再設計が必要だ。

●お問い合わせ先
AJS株式会社
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