[技術解説]

AI時代の競争力は「設計され、つながったプロセス」にある─矢澤篤志氏が説くBPMの真髄

プロセスマイニング導入前に日本企業が越えるべき壁

2026年7月23日(木)日川 佳三(IT Leaders編集部)

「ERPを入れても、データ基盤を整備しても、業務プロセスそのものが変わらなければビジネス価値にはつながらない」──。2026年6月23日開催の「プロセスマイニング コンファレンス 2026 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)、そのクロージング基調講演に、カシオ計算機のCIO/ITリーダーを長年務めた矢澤篤志氏が登壇。DX推進で日本企業が抱える課題や、プロセスマイニング導入の前段となる「BPMN=部門をつなぐ共通言語」への取り組み、全体をオーケストレーションする組織の作り方を含め、AI時代におけるビジネスプロセスマネジメント(BPM)のあり方について語った。

 「プロセスマイニング コンファレンス 2026 LIVE」のクロージング基調講演に登壇した矢澤篤志氏(写真1)は、2024年12月まで、カシオ計算機のITリーダーとして、CIOや生産本部長などの要職を務めた人物である。ERPのグローバル導入、サプライチェーン改革、スマートファクトリー、エンジニアリングチェーン改革など、業務改革とデジタル化を一体で推進してきた経験を持つ。

 同氏はまず、2018年9月に経済産業省がDXレポートで指摘した「2025年の崖」を振り返った。「当時から基幹システムのレガシー化は深刻で、21年以上稼働する基幹系システムを持つ企業が6割に上った。主要ERPベンダーのサポート終了も重なり、各企業はDXへの投資に舵を切った。しかし2025年を迎えて振り返ると、DXによって大きな価値を生み出せた企業は少ない。2018年と同様に、約6割の企業でレガシーシステムが残存している」。

写真1:CIO Lounge 正会員/日本データマネジメントコンソーシアム理事の矢澤篤志氏

 続けて、OECD加盟の主要7カ国と比べて日本だけが生産性順位を下げ続けているという事実を、スライドのレーダーチャートと共に示した。それによれば、IT・デジタル化の基盤整備や政府・産業化の面で日本は他国と遜色ないが、デジタル化による「付加価値創出力」の軸が大きく凹んでいる。矢澤氏は「デジタル化は進んだが、価値の創出ができていない。残念ながらそのような振り返りをせざるをえない」と指摘する。

3つの欠落がDXの価値創出を阻んだ

 なぜ、デジタライゼーションは進んだのにトランスフォーメーションができなかったのか。矢澤氏はその要因を3つ挙げている(図1)。

図1:DXが「価値を生むプロセス設計」に至らなかった3つの欠落
拡大画像表示

 1つ目は「上流設計の欠落」である。何のために価値を生み、何のためのデジタル化投資なのかという最上流の構造設計が不十分なまま、As-Is、つまり現状の延長のデジタル化に終わってしまったケースが多い。

 2つ目は「共通言語の欠落」だ。各業務部門で共通の定義ができておらず、部門ごとに業務の用語・定義・KPI・システムがバラバラのまま、標準化が進まなかった。

 3つ目は「実行主体の欠落」。サプライチェーン改革やERP導入のような全社横断プロセス改革では、CIOではなく、本来はプロセスを担うプロセスオーナー、例えば販売領域なら営業本部長、生産領域なら生産本部長が主体的にプロジェクトを推進すべきだが、多くのプロジェクトでは現場の主体者が自分の問題として取り組んでいない実態があるという。

 「“価値を生むプロセス”を設計・実行する基盤と主体が、残念ながら不在だったと言えるのではないか」と矢澤氏は総括する。

要求定義より上流のプロセス設計に注力する

 3つの欠落をどう解決するか。矢澤氏はまず「企画構想フェーズ」の重要性を強調する。「一般的なV字開発モデルでは要求定義・要件定義をしっかり作ることが重要だが、価値を生むという観点では、さらに上流の『なぜ、このデジタル化によって経営戦略が実現するのか』をひも解くことが起点として不可欠だ」。矢澤氏はそう述べ、企画構想フェーズの要素として以下の7項目を挙げた。

 (1)経営戦略と事業目標の明確化・連動
 (2)プロジェクトのスコープ・目標・KPIの設定
 (3)投資対効果(ROI)の概算
 (4)現状業務とIT環境の包括的な評価
 (5)To-Beの定義とビジネス要件の明確化
 (6)システムアーキテクチャの方向性と技術選定
 (7)プロセスオーナーの設定と推進組織の整備

 また、どの業務領域を変えるかというスコープの設定も重要だという。製造業の場合、ERPで標準化すべきSoR(Systems of Record)領域と、サプライチェーンなどのSoE(Systems of Engagement領域を明確に区別する必要があること。そして、需要から調達・生産・物流・販売へと流れるサプライチェーン全体や企画・構造設計から生産準備・保守に至るエンジニアリングチェーン全体を通したエンドツーエンドのプロセスを変えることを挙げ、この2つを実践することで価値が生まれると説明する。

 上流設計の観点から、プロセスマイニングとBPMの違いと関係の整理を試みている。プロセスマイニングは現在のシステムのイベントログを分析してAs-Isの実態を把握する手法で、BPMはあるべき業務を設計してTo-Beを定義する手法だ。両者は目的・視点・起点・必要能力のいずれも異なるとした。

 ただし、プロセスマイニングについては、その活用にはプロセスログを一貫して取得できることが前提となる、と矢澤氏。「残念ながら、多くの日本企業では業務・システムがサイロ化し、業務が未整備のままだ。ERPを導入したとしても、ERPを標準機能のままグローバル全体に展開している企業は非常に少ない。一貫したプロセスログの取得は難しく、プロセスマイニングツールを導入しても実際に分析できるものはほとんどない」。

 「結論として、プロセスマイニングツールを導入する前に、まずはBPMN(Business Process Model and Notation:ビジネスプロセスモデル・表記法)を使って業務を設計・標準化する。これができてはじめて、プロセスマイニングが活用できる段階に進むことができる」(矢澤氏)

●Next:BPMNの効果と組織のあり方

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

BPM / ビジネスプロセス / 組織変革 / 経営戦略 / カシオ計算機 / デジタルトランスフォーメーション / CIO / IT部門 / レガシーシステム / BPMN

関連記事

トピックス

[Sponsored]

AI時代の競争力は「設計され、つながったプロセス」にある─矢澤篤志氏が説くBPMの真髄「ERPを入れても、データ基盤を整備しても、業務プロセスそのものが変わらなければビジネス価値にはつながらない」──。2026年6月23日開催の「プロセスマイニング コンファレンス 2026 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)、そのクロージング基調講演に、カシオ計算機のCIO/ITリーダーを長年務めた矢澤篤志氏が登壇。DX推進で日本企業が抱える課題や、プロセスマイニング導入の前段となる「BPMN=部門をつなぐ共通言語」への取り組み、全体をオーケストレーションする組織の作り方を含め、AI時代におけるビジネスプロセスマネジメント(BPM)のあり方について語った。

PAGE TOP