[インタビュー]

Oktaが自ら実践、カスタマーゼロから学んだAIエージェント展開と統制

Okta ビジネステクノロジー部門 シニアバイスプレジデント ジェナ・クライン氏

2026年10月9日(金)鈴木 恭子(ITジャーナリスト)

AIエージェントの活用が企業に広がる一方、導入効果の見極めや、増え続けるエージェントの管理、権限・コストの統制が新たな課題になっている。ID管理大手の米Oktaは自社を「カスタマーゼロ」と位置づけ、AIエージェントの社内展開を先行して実践してきた。同社 ビジネステクノロジー部門 シニアバイスプレジデントのジェナ・クライン(Jenna Cline)氏は「自ら使う側に立ったことで、AIエージェントは作ることよりも、どこに使い、どう統制するかが重要だと分かった」と語る。同社のグローバル年次イベント「Oktane 2026」(2026年9月22日~24日、米ラスベガスで開催)の会場で、その実践から得た教訓を聞いた。

AIエージェント導入、最初に決めるべきは「成果の尺度」

 今回のイベントでOktaは、AIエージェントのセキュリティと管理を主要テーマの1つに掲げた(写真1)。同社は、AIエージェントを固有のIDとして登録し、アクセス先や権限を管理する「Okta for AI Agents」を2026年4月30日から一般提供している。

写真1:「Oktane 2026」の会場。会場内にはOktaの顧客事例を紹介する展示も並んだ

 こうした製品を実際の企業環境で先行して試してきたのが、Okta自身だ。同社 ビジネステクノロジー部門 シニアバイスプレジデントのジェナ・クライン(Jenna Cline)氏(写真2)が率いるチームは、社内向けAIエージェントを開発する一方、「Okta for AI Agents」をその開発段階から試用し、そこで見つかった課題や改善点を製品チームにフィードバックしてきた。2026年8月には、社内初の「デジタル同僚(digital coworker)」と位置づけるAIエージェント「Dex」を本番稼働させている。

写真2:米Okta ビジネステクノロジー部門 シニアバイスプレジデント ジェナ・クライン氏

 こうした「AIエージェント導入の“実験体”」としての経験からクライン氏がまず挙げるのが、導入の効果を測る指標を明確にすることだ。

 「AIエージェントを導入するとき、最初に問われるのは『何をAIエージェントに任せるか』です。生成AIでできることが急速に増える中、候補となる業務はいくらでも見つかりますが、開発に使える人材や予算は無限ではありません。AIエージェントを作ることはできますが、本当にそれが大きな時間削減につながるのか。その観点から、私たちはAIエージェント投資の優先順位を決める指標として『どれだけ人の時間を削減できるか』を採用しました」(同氏) 

 実際、Oktaは前年度に25万時間の削減を目標に掲げ、今年度はその目標を100万時間に引き上げている。

AIエージェント乱立の弊害をどう避けるか

 では、OktaはどのようなアプローチでAIエージェントの社内展開を進めてきたのか。そのカギとなるのが、従業員向けAIエージェントであるDexだ。

 Dexは業務ごとに用意された専門エージェントを束ねる「スーパーAIエージェント」として機能する。1つのAIエージェントにあらゆる仕事をさせようとすると、扱う指示やツール、参照する情報が増え、処理のたびにモデルへ渡す情報量も大きくなる。その結果、応答が遅くなり、トークン消費も増えてコストがかさみやすい。

 そこでOktaは、人が直接やり取りするスーパーエージェントを少数に絞り、その背後で複数の専門エージェントを動かす設計を採用した。例えば、従業員がDexに「金曜日に休暇を取りたい」と依頼すると、Dexはその意図を理解し、人事業務を担う専門エージェント「Poppy」を呼び出す。そして、HCM(人的資本管理)システムの操作権限を持つPoppyが、実際に休暇申請を処理するといった具合だ(図1)。

図1:Dexを窓口に、専門エージェントのPoppyがHCMシステム上で休暇申請を処理する流れ。各主体にIDを持たせることで、処理の経路を追跡できる(取材内容を基にChatGPTで作図)
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 ただし、専門エージェントはむやみに増やせばよいわけでもないという。Okta社内では現在、約1500のアプリケーションが利用されている。クライン氏は「ワークフローごとにエージェントを作り続ければ、何万ものエージェントが乱立しかねません。そうなれば、従業員は『どのエージェントに頼めばよいのか』を迷うことになります。私はこれを『death by a thousand agents(千のエージェントによる死)』と呼んでいます」と説明する。

 Dexは導入後、早い段階から従業員に利用されている。「Dexは導入から2週間で従業員の利用率が25%に達し、2万3500件を超えるやり取りに対応しました。ユーザーから見える“表側”はシンプルにし、裏側を専門化する。これが、Oktaが自社導入から得た設計原則です」(同氏)

●Next:エージェントにIDを付与し行動を可視化・追跡、トークン消費90%削減を実現した仕組み

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