ITのポテンシャルを阻害するのが、他人に任せきりの態度、あるいは事なかれ主義。当事者意識を持って自己責任で臨む姿勢なくして競争力は発揮できない。それがあれば、おのずと旧態依然としたシステムマネジメントにも改革の目が向くはずだ。
前回、戦略的なシステムマネジメントへ転換することの重要性について述べました。理想像に少しでも近づくために、ユーザー企業にどんな姿勢が望まれるかを考えてみたいと思います。
日本企業にとって根深い問題を整理する上で、セキュリティ対策や内部統制への取り組みを振り返ってみましょう。私は常々、欧米の企業に比べ、日本企業にはどうしても問題認識の甘さがあると感じていました。その最たるものが、米国の本家SOX法と日本版SOX法への対応の違いです。日本版SOX法の適用が始まった2009年当時、確かに日本企業の間でも「内部統制をしっかりやらねば」という意識が高まり、急ピッチでシステムが作られました。
当然のことながら、内部統制を支えるシステムは、単に作るだけでは意味がありません。業務の変化に合わせてIT全般統制も追随させ、改善し、定着を図っていかなければならないのです。にも関わらず、日本企業の多くはシステムを作ったことで満足、あるいは疲弊してしまったのか、肝心な運用がおざなりになったケースが珍しくありません。
セキュリティ対策もしかり。日本でも個人情報漏えいなどの事件が発覚すると大騒ぎになりますが、“喉元過ぎれば”あたかも忘れてしまったかのように手足が止まり黙ってしまいます。付け焼き刃的な対策が中途半端にとられ、結果、全体最適が図られぬまま安全とは言い難いシステムをそのまま運用し続けることが茶飯事です。
こうした状況を見る限り、日本のユーザー企業は“ITの手綱さばき”ができていないと痛感してしまいます。別の言い方をすれば他人任せが過ぎると。がっちり食い込んでくれているITベンダーやSIerに任せておけば、それなりのシステムを構築・運用できたという事業構造や歴史がそうさせたのかもしれませんが、今はそれは許されません。
経営環境はどんどん変わっている。テクノロジーの進化も目覚ましい。ITでビジネスを変えていく醍醐味に溢れる時代なのです。そこで必要となるのは、コンピュータを利用する立場としてユーザー自身が戦略的な考え方を持ち、主導権を握ること。自己責任でイニシアティブをとり、自らが変わっていこうとする姿勢です。
グローバル市場で戦う企業はすでにそれを実践しています。CIO(最高経営責任者)のリーダーシップの下でこれからのビジネスを支えるITをデザインし、運用業務も含めて、何が最適解なのかが活発に議論しています。1人ひとりは自らがキャリアアップしていくステップを考えており、おのずと改革に対する意識が生まれてきています。日本企業が、いつまでも事なかれ主義でいては、水をあけられるばかりと危惧します。
ユーザーの立場で運営する「コンピュータ運用を考える会」
どうすれば、ユーザーの問題意識を起点とした改革やコンピュータ活用が進むのだろうか──。これは、私がITに関わる仕事を始めてからずっと課題としていることでもあります。そこで微力ながら始めたのが、ユーザー同士の悩みやアイデアを共有し、喧々諤々と議論する場を創ることです。具体的には、1987年にブロードという会社を設立して2年ほど経った頃でしょうか、「コンピュータ運用を考える会」を立ち上げたのです。
本会は、様々な業界でコンピュータ運用に携わっているユーザー企業の相互交流を通じて、それぞれが現在利用しているハードウェアやソフトウェアツールにこだわることなく、コンピュータ運用のあり方を第三者的な立場で検討していく場となるものです。最新技術に関する情報収集や先進事例、現状の問題点をケーススタディとすることにより、現実のコンピュータ運用環境の改善や高度化に貢献することを目指しています。
どの企業にしても、やるべき案件は山積しています。より戦略的領域に踏み込んでいくには、今あるシステムの運用をどうやって高度化していくかが必然的テーマの1つ。ある人が「当社はこんな課題を抱えている。今はこんな対処をしているけれど他に妙案はないものか」と持ちかけると、「実はうちも同じ悩みを抱えている。この要件を満たすソリューションがあれば試したいんだが…」と別のメンバーが応える。こうした、企業の枠を越えた本音ベースの議論って、とても大切だと思います。当社としても、そこであらためて明確になる企業ニーズに照らして、その解決に相応しい製品を探すのに大いに役立っています。
進化続けるITがビジネスに革新をもたらす存在であることは間違いないでしょう。ただし、道具はその使い方こそが大事です。日頃の手入れを怠らず、いざという時に最大の力を発揮できるようなものでなければなりません。その日頃の手入れこそ、システムマネジメントの高度化。そこに寄与するソリューションを提供することを当社の最大のミッションとして、今後も尽力していきます。
著者プロフィール
株式会社ブロード 代表取締役 姫野惠悟氏
1949年富山県生まれ。慶応義塾大学工学部管理工学科卒業後、IT商社に14年間勤める。1987年に株式会社ブロードを設立。ユーザーサイドに立った「コンピュータ運用を考える会」を東京・大阪で立ち上げ、事務局として活動。セキュリティと運用は表裏一体との信念の下、ソフトウェアを提供している。
関連記事
- 【第6回】すべてのIT施策は「運用高度化」の課題に通ず(2014/09/12)
- 【第5回】“まだら模様”に染まるIT基盤の危うさ(2014/09/03)
- 【第4回】要諦となるのは“内部犯行”を阻止できるシステム環境(2014/08/18)
- 元ハッカーが指南するセキュリティ対策の基本とは?:第3回(2014/05/21)
- 【第1回】 守りの意識から脱却し、戦略的なシステムマネジメントへの転換を(2014/03/28)