「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、イノベイトラボ 代表 矢澤篤志氏によるオピニオンである。

1990年、米マサチューセッツ工科大学教授だったマイケル・ハマー(Michael Hammer)は、ハーバードビジネスレビュー誌において「Reengineering Work: Don't Automate, Obliterate」を発表し、次のように述べました。
Instead of embedding outdated processes in silicon and software, we should obliterate them and start over. We should reengineer our businesses.
(時代遅れの業務プロセスをそのままシステム化するのではなく、それらを根絶してゼロからやり直すべきです。私たちはビジネスを再設計=リエンジニアリングしなければなりません。)
当時、日本では「リエンジニアリング革命」「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」として関心を集めました。そんな30年以上前のメッセージを持ち出したのは、生成AIが急速に普及する今、むしろ新鮮に響くからです。
ハマーが提唱したのは既存業務の見直しや効率化ではありません。既存のルールや仕事のやり方を前提とせず、「顧客に価値を届ける業務プロセスを根本から見直し、ERPやSCMなどITの力で実現する」という考え方でした。
その後、クラウド、スマートデバイス、DXなど新しい技術や概念が次々と登場しました。今、私たちは生成AIがもたらす技術革新の真っ只中にいます。しかし「今の仕事をそのままAI化する」だけでいいのでしょうか。AIが身近な技術になった今だからこそ、ハマーが提唱したBPRの原点に立ち返り、その思想を受け継ぐBPM(ビジネスプロセスマネジメント)の意味を考えてみたいと思います。
「現場が変わらない」は本当なのか
BPRしようにも現場が変わらない──。私自身、CIOから生産・調達・物流を統轄する立場に移った際、この問題に直面しました。決して現場が改革に消極的だったわけではありません。納期や原価など課せられた目標の達成と、日々発生するトラブルへの対応に懸命だったのです。その結果、自部門の前後で何が起きているのかを見る余裕がなく、部門を越えた問題は見えにくくなっていました。
そこで現場のメンバーを中心にBPMN(ビジネスプロセスモデル表記法)を学び、顧客から営業、生産管理、調達、サプライヤーに至る一連の業務プロセスを、部門を横断してエンドツーエンドで可視化しました。すると調達とサプライヤー間における発注・納期情報の分断が、生産計画の変更や営業の納期回答にまで影響していることが明らかになりました。このボトルネックをデジタル基盤とERPの連携によって解消し、大幅に業務を改善できました。
もちろん、日々の業務に追われる現場が、最初からこの活動に賛同したわけではありません。まず改革に前向きなメンバーを募って部門横断のタスクチームをつくり、各部課長にもレビュー会議への参加を求めました。現場が描いたプロセスを一緒に見ながら、どこに問題があるのか、どう変えるべきか、それを現場へどう定着させるのかを時間をかけて議論し、少しずつ改革を前に進めていきました。
重要な役割を果たしたのが、タスクチームに加わったIT部門のメンバーでした。現場と一緒にプロセスを分析しながら、ノーコードツールやAPIなどの新しい技術と既存のERPをどう組み合わせれば、ボトルネックを解消できるのかを考える。業務とITが一緒になってTo-Beを描いていったのです。この取り組みをきっかけに、E2Eで前後のプロセスまで見渡し、ボトルネックを見つけて改善するという意識が現場に生まれ、最終的に改革の領域を広げていくことができました。
この経験から学んだのは、現場が変わらない、変わろうとしないのではなく、「どこを、どう変えればよいか」が見えていなかっただけということです。そこで、変えるべきところを見えるようにする「共通言語」と、部門を越えて議論する「場」、そして業務とITが一緒にTo-Beを描く「仕組み」を用意しました。これで現場は自ら変わり始めるのです。
●Next:AIによって変わるBPM、企業変革におけるIT部門の新たな役割
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