[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

AI推進に際してお薦めしたい「共感の論理」

ニチハ システム統括部 部長 鈴木康宏氏

2026年6月11日(木)CIO賢人倶楽部

CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、ニチハ システム統括部 部長の鈴木康宏氏によるオピニオンである。

 先日、筆者が参加している大阪の読書会で『共感の論理』(渡邉雅子著、岩波新書)という本が課題図書になっていた。そこには日本と米国の作文教育のことが書かれていた。

 作文教育とは明治時代からの綴方(つづりかた)教育や、現代も続く「読書感想文」などのこと。日本の子どもたちの作文は、状況を細かく描写しながら物事が起こった順番に「時系列」で書くことが一般的だという。それに対し米国の子どもたちは結論を先に述べ、原因となる出来事を後に続ける「因果律」を説明の枠組みに用いて作文するのだそうだ。

消えゆく「共感の論理」や「共感的利他主義」

 どちらかが良い悪いではなく、因果関係を重視する米国と主人公に寄り添うことを重視する日本という違いであり、言い換えると「主人公の気持ちに“共感”する」のが、日本の作文教育の基本である。入試の国語問題でも、「著者はこの時どのように考えたか?」といった問いは多い。筆者自身、小説を読むときは子どもの頃も今も、「主人公に感情移入しながら読んでいるなあ……」と納得できる話である。

 我々日本人は、子ども時代からそうした「共感力」を持つような教育をされてきている。加えて「利他」の精神も、知らず知らずのうちに育まれているらしい。読書会では、八百万の神々を敬う日本人は子どもの頃から「人に迷惑をかけるな」と言われていたり、「お天道様が見ている」とか「罰が当たる」といった表現で、自分の行動を省みることを促されたりしているのでは? という話になった。多神教がベースの国なので、そのような「利他」の精神を育んでいるのではということである。

 「情は人の為ならず」という諺もある。ご存じの通り、利他の精神で他者に対応していると、巡り巡って自分に返ってくるという意味である。東日本大震災のときに、パニックにならずに食品や物資を順番に並んで受け取る人々を全世界が驚きの目で見ていたのも、子どもの頃から養われている「人に迷惑をかけない」という精神が生きているからだろう。イベント会場やスポーツの競技場でゴミを捨てたり散らかしたりしないのも日本人ならではと言われる。

 そうしたことがどこまで遡れるのか定かではないが、少なくとも江戸時代の哲学者・石田梅岩の「石門心学」の頃から「正直」「勤勉」「倹約」を「道」として教え、「働く」ことは傍(はた)を楽(らく)にするということだと、日本人は教えられてきている。特にこの中の「正直」というのが日本独特で、これが利他の精神につながっている。

 一方、『共感の論理』著者の渡邉さんは日本の教育への提言として、これまで培ってきた「共感的利他主義」という価値観の共有を社会の基盤にすること、小学校低学年で「利他主義」を価値として教え、その後、段階的に多元的思考を育てること、「共感的利他主義」という日本の教育を世界の新たな時代のモデルにすることの3点を訴えている。

 このことは、少なくともそれらの一部が欠落してきている、あるいは多くが失われてきていることを示唆している。筆者もそのように感じている。SNSにおける誹謗中傷の多さや、言論の場での他者への配慮のなさが典型だが、日本人が大事にしてきた他者に対する「共感」や「利他」の精神が失われてきているのではと思う場面が多い。「個人主義」や合理的な「利己主義」を中心的な価値としている近代の西洋資本主義を取り入れているため、致し方ないことかも知れない。

●Next:AIブームは、日本経済の成長にどんな影響を与えるか?

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