[「人間中心のAI」で企業変革を加速する─生成AIの進化・活用のこれから]

AIはいかにして世界を“想像”するのか─物理世界をシミュレートする世界モデルとは:第13回

2026年7月10日(金)森 正弥(博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO, Human-Centered AI Institute 代表)

AI技術は日々進化を遂げ、社会実装が現実の段階に入っているが、多くの企業ではまだ部分的な活用にとどまり、AIに対する脅威感や不安が依然として存在する。あるべき姿は「人間中心のAI活用」であり、その推進にあたって何をなすべきか。本連載では、具体的なアプローチを交えながら、企業がAIをどのように向き合い、活用し、未来の成長に役立てていくかを考察していく。第13回は、今後のAI技術発展のカギを握る「世界モデル」の概念と、世界モデルが社会や企業にもたらす影響について解説する。

 

AIに「想像力」を与える「世界モデル」

 生成AI、特に大規模言語モデル(LLM)がビジネスの現場に浸透する中、世界のAI研究はすでに次のフェーズへと進んでいる。近年発展がみられる領域が、「世界モデル(World Models)」である。

 世界モデルは研究者によってさまざまなアプローチが存在するが、中でも2018年にGoogle Brainのデイビット・ハ(David Ha)氏(現Sakana AI CEO)と、LSTM(注1)の共同開発者で計算機科学者のユルゲン・シュミットフーバー(Jürgen Schmidhuber)氏が発表した論文「World Models」は、“生成的予測”という形でこれを体系的に示した、先駆的な研究として知られる。本稿ではこのモデルをベースに解説する。

注1:LSTM(Long Short-Term Memory)とは、AIが時系列データや文脈を記憶・処理するための画期的なニューラルネットワーク構造。現在の主要なLLMや、音声認識・翻訳モデルに不可欠な基幹技術。1997年にシュミットフーバー氏と、教え子であったゼップ・ホッフライター(Sepp Hochreiter)氏が提唱した。

 世界モデルを一言でいえば、「AIが、自身を取り巻く環境を観測・学習することでモデルとして獲得する枠組み」だ。より平易に表現するなら、AIに「想像力」を持たせるアプローチと言えるだろう。

 世界モデルのあるアプローチでは、AIに想像力を持たせるためのアーキテクチャを、「Vision(視覚)」「Memory(記憶)」「Controller(制御)」という3つのモジュールに切り分けて定義している(図1)。

Vision(視覚):外部環境からの膨大な観測データを処理し、ノイズを削ぎ落として本質的な特徴だけを抽出したデータに圧縮する。

Memory(記憶):Visionから得られた「現在の状態」を基に、次に環境がどう変化するか、「未来の状態」を予測する。

Controller(制御):Visionが捉えた「現在の状態」と、Memoryが予測した「未来の状態」の双方を分析し、タスクの目的を最大化するための最適な行動を決定する。

図1:AIに想像力を持たせるためのアーキテクチャ(出典:Human-Centered AI Institute)
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 この「VMC」の構造は、人間が行動を起こす前に「目の前の状況(Vision)」と「経験から予測される未来(Memory)」を頭の中で結びつけ、「最適な選択(Controller)」を模索するプロセスそのものである。これに類似したプロセスを認知心理学では「メンタルモデル」と呼ぶが、世界モデルはまさにAIが自らのメンタルモデルを獲得するための仕組みであると捉えられる。

●Next:世界モデルの技術的進化と社会実装に向けたアプローチ

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