[「人間中心のAI」で企業変革を加速する─生成AIの進化・活用のこれから]

100社超のエグゼクティブとの対話から導いた「AI時代の人材像」──三領域能力モデルの提案:第12回

2026年6月24日(水)森 正弥(博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO, Human-Centered AI Institute 代表)

AI技術は日々進化を遂げ、社会実装が現実の段階に入っているが、多くの企業ではまだ部分的な活用にとどまり、AIに対する脅威感や不安が依然として存在する。あるべき姿は「人間中心のAI活用」であり、その推進にあたって何をなすべきか。本連載では、具体的なアプローチを交えながら、企業がAIをどのように向き合い、活用し、未来の成長に役立てていくかを考察していく。第12回は、AIが加速的に進化し続ける時代において求められる新たなスキルセット「三領域能力モデル」について解説する。

AIの劇的な進化が突きつける「人間に求められるスキルの再定義」

 AIの進化は、文章やコードを生成する「効率化ツール」の段階を過ぎ去った。先進的な企業においては、コンテキストを理解し、自律的な「AIエージェント」として実務をエンドツーエンドで完遂させる取り組みがすでに始まっている。これからは「人間がAIを使う」という構造から、「複数のAIエージェントが連携し、システムとインタラクションしながら業務プロセスを遂行する」複雑なアーキテクチャへと変貌を遂げていくだろう。

 このような環境下においては、人間が担う役割や求められるスキルも変化していく。「従来のビジネスパーソン像やリーダー像が通用しなくなるのではないか」という懸念を抱えている読者も多いのではないだろうか。

 実際に筆者は100社以上の企業のエグゼクティブと対話を重ねる中で、「AI時代において、どのような人物が重要とされるのか」「リーダーはどうあるべきか、次の人材モデルはないか」といった相談を幾度も受けてきた。企業は市場を生き抜くために、「人材育成において伸ばすべきスキル」を見直すべき転換点にある。

 ある大手企業のエグゼクティブからAI時代に求められるスキルを問われた際、筆者は「会食する力」を挙げたことがある。もちろん単なる社交術を指しているわけではない。ここでいう「会食する力」とは、相手との表層的な情報交換にとどまらず、深い対話を通じて相手のアスピレーション(願望・大志)を引き出し、そこから次なるビジネスの可能性を見出し、次の行動へと結びつける一連のプロセスを実践する能力を指す。この能力はAIによる代替は難しい。

 もちろん、これはあくまで一例である。このような断片的な要素だけでは人的資本経営の指針とはならず、人材育成や研修設計のプロセスに落とし込むこともできない。企業が次世代に向けてどのような人材を育成し、いかなるスキルや特性にフォーカスすべきかを具体化するには、より俯瞰的かつ構造的なフレームワークが不可欠となる。

AI時代に活躍する人材のスキル仮説―三領域能力モデル

 筆者は、多くの方との対話や実務経験を通じて、AI時代の荒波の中で世に価値を生み出すために求められる能力は「インナーアビリティ(内面の力)」「アウターアビリティ(外面の力)」「トランスセンデントアビリティ(超越的な力)」という3つの領域で示せるという仮説に至った(図1)。この仮説を「三領域能力モデル」と呼称し、その中身を解説していきたい。

図1:AI時代に求められるインナー・アウター・トランスセンデントアビリティ(出典:Human-Centered AI Institute)
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●Next:AI時代に求められる3つの力と「遊び心」とは?

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