[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

AI時代に失ってはならない「考える力」─答えではなく、問いが企業価値を生む

伊藤忠商事 准執行役員 CXO補佐 兼 IT・デジタル戦略部長 浦上善一郎氏

2026年8月13日(木)CIO賢人倶楽部

CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、伊藤忠商事 准執行役員 CXO補佐 兼 IT・デジタル戦略部長 浦上善一郎氏によるオピニオンである。

安易なAI利用が人や組織の力を奪う可能性

 生成AIの進化には目を見張るものがあります。文章作成や議事録の要約、市場分析、企画書の作成などはもう当たり前。人が何時間もかけて行っていたリサーチ活動を数分でこなし、IT専門家が発見できなかったシステムの脆弱性をあっさり発見してしまいます。そのため最近では個人や部署の業務生産性の向上にとどまらず、ビジネスを変革する手段としてAIを活用しようとする企業も増えています。

 企業が先を争うかのようにAI活用へ舵を切るのは競争上、自然な流れですし、私自身、人も企業もAIを積極的に活用すべきだと考えています。一方で大きな危機感も抱いています。それは「考えること」そのものを、人がAIへアウトソースし始めていることです。

 私は30年以上にわたって商社のIT・デジタルの現場で仕事をしてきました。システム構想から企画、設計、開発、導入、運用、海外展開、業務改革、DX、そして生成AI活用まで、数多くのプロジェクトに携わってきました。その経験を通じて、IT・デジタル技術が大きな可能性をもたらす一方で、使い方を誤れば人や組織が本来持つべき力を失わせてしまうことを実感してきました。

 今起きているAIの状況とよく似た出来事を、多くの企業は過去にも経験しています。私が社会人になった頃は、一般企業がシステムを企画、設計、開発、運用することが当たり前でした。しかし1990年代のメインフレームからオープンシステムへの転換やERP導入を契機に、それらの多くをITベンダーに委託する動きが急速に広がりました。

 当時としては合理的な判断だったはずです。社内にはオープンシステムやERPに関する知識・ノウハウを持った人材がいないか、いてもごく少数でした。専門技術を持つベンダーの力を借りれば、新技術につきまとうトラブルやリスクを未然に防ぎつつ、システムを導入できました。外部委託には一定の経済合理性もあったはずです。

 しかし代償もありました。社員が自らシステムを設計し、開発し、運用する経験を積めなくなったことです。それから10年、20年という時間が経過する中、システムを構想する力やプロジェクトを主体的にリードする力、さらにはベンダーの提案や仕事を評価し、意思決定する力までもが次第に失われてしまいました。私は、生成AIによって同じことが起こるのではないかと危惧しています。

 AIは適切な問いをもとに文章を書き、分析し、提案し、ときには経営判断の材料まで提示してくれます。その能力は極めて優秀で、自分では考えつかないような回答を得られます。その高度な回答や便利さゆえに「問いを立てること」「本質を見抜くこと」「自ら考え、判断すること」までAIへ委ねてしまえば、企業の競争力の源泉であるはずの、人や組織の思考力や判断力は確実に衰えていきます。

 もちろん、AIは極めて優秀なパートナーです。しかし、AIが本当に得意なのは、与えられた問いに対して答えを導くことです。企業価値を生み出すのは、答えではありません。良い問いです。

 「何を問うべきか」──その問いを生み出せるのは、人間だけです。

●Next:AIが進化する中で人間に求められるスキル、CIOの役割、経営層が目指すべき方向とは?

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