デジタルビジネス時代を支える企業システムは、SoRやSoEなど、その特性で大別した上で、それぞれに最適な開発手法や基盤を採用することが欠かせない。ここでは、日本企業の視点から、あらためて全体最適なデザインを考えてみる。
日本のSoRはSoEの要素を併せ持つ
顧客に寄り添う商習慣が根付いている日本では事情が異なる。契約前の口頭内示での生産開始や仮単価での発注など、日本企業の多くは非定型ともいえなくもない顧客の“個別要件”に真摯に対応することで、取引の競争優位性を獲得してきたからだ。
生産管理システムに顧客ごとに例外処理のロジックを組み込むケースはその一例である。通常の生産手配に3営業日を想定する標準ロジックに対し、一部の得意客の納期を例外的に1日でこなせるようにする。こうすることで得意客の突発的な要求にもジャストインタイムで応じられる。
生産管理システムはSoRとSoEの分類ではSoRに属する。しかし、日本の生産管理システムは顧客とのエンゲージメントを実践している点で、SoEの要素も備えていると言えよう。こうした個別要件への対応が日本企業の強さを支えてきた。その裏でERPの標準機能が使いにくく、大がかりにアドオンを作り込むか、ERPを諦めてスクラッチで開発するといった、高コストで高難度なプロジェクトが多くなった所以でもある。
ではデジタルビジネス時代が本格的に到来し、SoEの重要性が高まる中で、日本企業のシステムはどう考えていけばいいのか?すでに構築したSoRにモバイルやIoTなどを取り込む形で今後も拡張/改良する方がいいのか。それともSoRとSoEという考え方を取り込み、業務を確実に遂行するシステム群と、顧客などとエンゲージメントするシステム群に分けて実装する方がいいのか。繰り返すが我々は後者、すなわちSoRとは別にSoEを構築し、それぞれを強化していくことが必要だと考える。
技術進化を取り込めるデザインへ
なぜそうなのか?大きな理由は、使用する技術要素や開発のプロセスが大きく異なることにある。SoEでは、ネットワークに繋がった人やモノを関連づける「ネットワーク、モバイル機器、センサー、エッジサーバーなどの技術」や、サービスを迅速に構築・提供するための「クラウドベースのソフトウェア開発技術」、集めた大量のデータを的確に分析し、応答するための「リアルタイムなアナリティクス技術」などを駆使する必要がある。
同時にSoEでは、システム要件の事前確定が困難な一方で、市場変化に対応して素早くリリースする「リーンスタート」や、迅速にアプリケーションをリリースし改善し続ける「アジャイル開発」、アジャイル開発を技術的にサポートする「DevOps(開発と運用の融合)」なども求められる。すなわちウォータフォール型の開発が主流のSoRとは、異なる開発体制やスケジュール計画が必要になるのである。
何よりもSoEに関わる前記の技術要素は日々、進化している。SoRの延長線上で一体開発するよりも別に構築して連携させる方が、その成果を取り込みやすいことは自明だろう。
データ利活用が鍵になる
最後に、データ利活用が成功への鍵になることを言及しておきたい。
クラウドやモバイルなどのICT技術は、事業活動で扱う記録型データとは全く異なる特性のデータを生み出す。IoTとセンサー技術により、自然現象データや機器の稼働データなど、従来は入手困難だった情報を獲得できるようになってきた。
これらの新しいデータを用いて、既存のビジネス活動を「今こそICTでビジネスに機動力を!」で見たようなデータ駆動型に変えていこうとすると、業務で扱う記録型データと関連づけ、深く分析することが不可欠になる。換言すれば、SoRとSoEとが生み出すデータをうまく関連づけ新しい価値を創出させる利活用への取り組みが、成否の鍵を握っている。
【筆者】
福井 知弘
富士通 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 ビジネスプラットフォームサービス統括部 マネージャー
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