[市場動向]

“構築”から“本番実装”へ─IBMが示す「Enterprise ReadyなAIエージェント」の要件

エージェントアイデンティティやリアルタイムデータ、コーディングエージェント……技術者/IT部門がいま注目すべきこと

2026年10月28日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

フォーチュン500企業1社あたりが使うAIエージェントは、2028年までに15万個を超える。だが現在、真にEnterprise Ready(大手企業の環境に対応)と言えるものは4分の1に満たない。米IBMは2026年10月27日(現地時間)、年次技術者コンファレンス「IBM TechXchange 2026」を米ジョージア州アトランタで開幕。「Make Your Agents Enterprise Ready」と題した基調講演で、AIエージェントを企業システムで実運用するための要件とそれを支える製品群を示した。

 「IBM TechXchange」は、IBMが技術者・開発者を対象に年1回開催するコンファレンスで、今年が4回目となる。同社の年次イベントとしては、ほかにCxOを主な対象とする「IBM Think」があり、そこではAIエージェント、データ、オートメーション、ハイブリッドインフラの4領域を束ねる「AIオペレーティングモデル」という根幹のフレームワークが中心に据えられた。

 対するTechXchangeは、一貫して技術者やIT部門が担う「実装」に焦点を置く。今年は85カ国から約6500人が参加。HashiCorpの年次イベント「HashiConf」を取り込み、セッションと体験プログラムは1000超、うち260は顧客自身が登壇するものとなった。

1万倍のスケールと、本番に行けない4分の3

 冒頭に立ったIBM Software製品担当シニアバイスプレジデントのディネシュ・ニルマル(Dinesh Nirmal)氏(写真1)は、米ガートナー(Gartner)の調査を引いた。フォーチュン500企業1社あたりが2025年時点で使っているAIエージェントの平均数は15個未満。それが3年で1万倍に膨らむ計算になる。「エージェントの自律性がスケールをもたらす。100万ユーザーへの対応が1500万ユーザーに、10万件の電話対応の自動化が数百万件になる」(ニルマル氏)。

写真1:「真にエンタープライズ対応と言えるAIエージェントは25%未満」と指摘する、米IBM IBM Software製品担当シニアバイスプレジデントのディネシュ・ニルマル氏

 一方、エンタープライズ対応に至っているエージェントが4分の1に満たないという数字は、ニルマル氏が引用した別の調査によるものである。残る4分の3以上は、大手企業の本番環境に載っていないわけだ。

 ニルマル氏は、Enterprise ReadyなAIエージェントの要件を次のように説明した。

レイテンシ:ほとんどの企業は応答時間2.5秒未満という要件を持つ。
アーキテクチャ:単一エージェントか、監視エージェントとワーカー(エンドユーザー)エージェントの構成か。だれがそのエージェントにアクセスできるのか。

コンテキスト:ユーザーが「100株買う」と指示しても、コンテキストがなければエージェントは動けない。だが利用者がすでに当該の株を100株有し、証券口座があり、過去にその銘柄について尋ねていれば、エージェントはタスクを完了まで継続できる。

セキュリティとDay 2オペレーション:APIは変わり、モデルも変わり、コストは増える。運用フェーズに持ち込む準備ができているか。

 これらの要件がハードルとなり、多くのエージェントが本番環境の手前で止まっているとニルマル氏。「ブレイクスルーとは、新しいエージェントを作ることではない。エンタープライズ環境において、エージェントが大規模に連携して機能することだ」と強調した。

 実例として、ニルマル氏はAIエージェントプラットフォーム「watsonx Orchestrate」の顧客(銀行)の利用規模を示した。この顧客は現在140万ユーザーだが、年末までに3000万ユーザーを見込む。ダイアログノードは3万6000、モデルへの呼び出しは1日あたり850万回、トークンは月あたり2.4兆、呼び出すツールは24種類に及ぶ。「これらがもたらす複雑さを想像してほしい。どうやってこれほど多くの推論呼び出しを行うのか。動的なレートでどのように認証情報のローテーションをこなすのか。まさにエンタープライズが直面する課題だ」(写真2)。

写真2:watsonx Orchestrateを採用したグローバル銀行の利用規模。モバイルユーザー3000万、ダイアログノード3万6000、1日あたり850万回のモデル呼び出し、月あたり2.4兆トークン、24種類のツールが動く。課題として業務ロジックの埋没、大規模な推論、動的なエージェントセキュリティを挙げ、機会として意思決定ロジックの文書化、エラーのない処理の増加、統制を保った権限委譲を示した
拡大画像表示

Enterprise ReadyなAIエージェントの技術要素

 IBMはこの基調講演で、Enterprise ReadyなAIエージェントを実装するための技術要素として、データ、デプロイメント、ランタイムの3つを示した(写真3)

写真3:基調講演は、エージェントをエンタープライズ対応にする技術要素を「データ」「デプロイメント」「ランタイム」の3つに整理して進行した
拡大画像表示

①データ:リアルタイム要件に応えるStreamhouseアーキテクチャ

 IBM DataおよびConfluent担当ゼネラルマネジャーのショーン・クロウズ(Shaun Clowes)氏(写真4)は、AIエージェントがさまざまな業務を自律的に実行するようになると、企業の“クロックスピード”が変わると指摘。その際、データウェアハウスやデータレイクなどが担うデータ基盤に、リアルタイム性という要件が加わる。

写真4:米IBM IBM Data/Confluent担当ゼネラルマネジャーのショーン・クロウズ氏。背後のスライドは、フライトの再予約、保険金請求、在庫、銀行の顧客対応といった、リアルタイム性が要求される業務領域を挙げる

 人間がプロセスを回す場合、速度は人間の理解と行動の能力に制限されるが、エージェントの台頭で人間の速度が制約でなくなる。そうなると次はアーキテクチャが制約になる、とクロウズ氏。エージェントは、アクセスできるコンテキストの質とリアルタイム性以上には働けない。そこで、コンテキストが古い、断片的、不完全といった問題が発生する。得られるのは速い推論ではなく、より高速なエラー、より多くのミス、下流での手戻りと人間の介入だという。

●Next:「Streamhouse」データアーキテクチャはエージェントになぜ必要か

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
関連キーワード

IBM / AIエージェント / AIガバナンス / AI駆動開発 / 基幹システム / HashiCorp / Confluent / Terraform / ID管理

関連記事

トピックス

[Sponsored]

“構築”から“本番実装”へ─IBMが示す「Enterprise ReadyなAIエージェント」の要件フォーチュン500企業1社あたりが使うAIエージェントは、2028年までに15万個を超える。だが現在、真にEnterprise Ready(大手企業の環境に対応)と言えるものは4分の1に満たない。米IBMは2026年10月27日(現地時間)、年次技術者コンファレンス「IBM TechXchange 2026」を米ジョージア州アトランタで開幕。「Make Your Agents Enterprise Ready」と題した基調講演で、AIエージェントを企業システムで実運用するための要件とそれを支える製品群を示した。

PAGE TOP