フィンテックの領域で、最近何かと話題になる「ブロックチェーン」。金融業界だけに関係する話だと思い込むのは早計で、データを堅牢な環境でハンドリングするための要素技術として有力視されている。「データマネジメント2016」において、インフォテリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏がブロックチェーンの活用の可能性を解説した。
ブロックチェーンとは何か
デジタル技術を駆使した斬新な金融サービスの創出、すなわちフィンテックの中核技術として最近注目を浴びているのが「ブロックチェーン」だ。一般には、ビットコインの堅牢性を支える技術としても知られる。そのビットコインの時価総額は約7300億円で金融システムとしても大規模な部類であり、2009年の運用開始から一度もダウンしていない。
「この堅牢性を実現しているのは巨額を投じて作った大規模システムではなく、オープンソースコミュニティの有志による運営です。ビットコインというと危ない、怪しいといったイメージを持つ人もいるかもしれないが、Mt.Gox等の事故は取引所など周辺システムに関するもので、ビットコイン自体の堅牢性とは関係がないものです」──こう説明するのは、インフォテリア代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏だ。
ブロックチェーンは、データのかたまり(ブロック)を連鎖(チェーン)させた、時系列型のデータ保管技術だ。RDBは特定のレコードを書き換えることができるが、ブロックチェーンはデータ同士に関連性があるため、一部分を書き換えると不整合になり、改ざんが一目瞭然になる。例えばビットコインの場合は、ブロックには前のブロックのHash値とNonceが含まれるため、改ざんすることができない。
ダウンタイムがないのは、P2P技術を使った分散型の処理だからだ。多数のノードで同じ機能、同じデータを持ち、ひとつのノードがダウンしても他が動いていれば機能は失われない。特徴をまとめると、以下の3点に集約される。
- データ改ざんが不可能
- ダウンタイムがない
- 劇的なコストダウン
企業のデータベースとして使えるか
ビットコインのブロックチェーンは、パブリックブロックチェーンと呼ばれている。管理者はおらず、ノードは誰でも自由に立てられる。データは誰にでも見える状態であり、衆人環視のために改ざんが不可能ということになる。しかし、企業のデータベースとして使うのであれば、データが公開されているのは問題がある。また、データベースに管理者がいないというのはビジネス用途では考えられない。
そこで、閉域でブロックチェーンを使うプライベートブロックチェーンが登場している。この場合は、管理者が1人任命され、参加は許可制になる。さらに、プライベートだが管理者を複数にするコンソーシアム型のブロックチェーンは、コミュニティや企業連合などで使う試みがなされている。
国内では、テックビューロがブロックチェーンの汎用プラットフォーム「mijin」を開発し、インフォテリアのデータ連携ツール「ASTERIA WARP」との接続が可能になっている。現在、さくらインターネットのクラウドを利用した実証実験環境を一般向けに解放している(https://www.infoteria.com/jp/contact/asteria/trial-sakura/)。ブロックチェーンを社内システムにインストールするのはハードルが高いが、その環境をクラウドで提供するものだ。
「mijinを複数のクラウドサーバー上に立ち上げると、ノード同士が自動的にコンセンサスをとりながら、おのおののデータをブロックチェーンに記録します。もし障害や外敵からの攻撃で複数のノードが機能を停止したとしても、残りのノードが稼働していればサービスは止まることがなく、データが消えることはありません。複数のノードを物理的に離れた場所に立ち上げれば、冗長化やバックアップさえ必要ないのです」(平野氏)。
ブロックチェーンはフィンテックの中核技術として登場したが、それ以外でも利用価値がある。ただし、改ざん不可能ということは、モディファイやソートができない。つまり、頻繁にレコードを更新するマスターなどには向いていない。向いているのは、トランザクションデータやログデータなど、どんどん蓄積するものだ。
実際にブロックチェーンが稼働しているのは、もちろん金融業界が多い。たとえば、米国NASDAQの未公開株の取引システムNASDAQ Linqで昨年の10月から採用されている。インフォテリアも、ミャンマーのマイクロファイナンス機関 BC Finance Limitedと、融資・返済などのデータをブロックチェーンで管理することを目的とした実証実験を行う予定だ。しかし、金融以外にも、改ざんやダウンタイムが許されず、コストを低く抑えたいという業界はたくさんあり、以下のような分野での利用も想定される。
- 流通(例:トレーサビリティ)
- 製造(例:検査・検証データ)
- 公共(例:登記・試験履歴)
- 医療(例:治験データ)
データマネジメントの領域では、MDMやETLといった従来からあるツールが話題になりがちだが、データ利活用高度化に向けては、新しく世に登場してきたテクノロジーの動向にも注目しておく必要がある。
●お問い合わせ先
インフォテリア株式会社
URL:https://www.infoteria.com/jp/
TEL:0120-279-140