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OpenStackから始めるオープンイノベーション

─革新的ビジネスの創出に欠かせないOSS─

2015年11月27日(金)

企業が競争優位を確立するためには、ビジネスと一体化したITによるチャレンジ(=試行錯誤)が欠かせない。果敢な取り組みを支えるものとして注目を集めるのが、OpenStackをはじめとするOSS(オープンソース・ソフトウェア)。プロプライエンタリな商用ベースの製品では得ることの難しい“真の価値”とは何だろうか──。

オルタナティブから“本流”への変化

 かつてOSS(オープンソース・ソフトウェア)と言えば、商用ベースのソフトウェア製品の高額なライセンス費用に辟易とした企業のコスト削減策、あるいはベンダーロックインに対する防御策として導入されることが少なくなかった。いずれにしてもOSSのとらえどころは、商用ソフトに対する“オルタナティブ”(=代替ソリューション)でしかなかった。

レッドハット株式会社でシニアソリューションアーキテクトを務める内藤聡氏

 しかし、ここにきて、そうした状況が大きく変わり始めている。「OSSの本当のメリットを理解し、OSSでしかできないことを、自分たちのビジネスで実践しようとする企業が増えてきました」と語るのは、レッドハットのシニアソリューションアーキテクトである内藤聡氏だ。同氏が示唆するところのOSSの本当のメリット、OSSでしかできないこととは、端的に言えば、「スピード感に溢れるオープンイノベーションの具現化」である。

 クラウドやモバイル、ビッグデータにかかわるものなど、様々なテクノロジーが同時並行的に凄まじい勢いで進化し、世の“デジタル化”が加速する中で、企業にとっては、これまでにはない斬新な事業モデルを成長エンジンとし得る素地が整いつつある。もっとも、競合他社に対するアドバンテージを確立するためには、水面下でのチャレンジ(=試行錯誤)が欠かせないことは言を俟たない。より多くのチャレンジを繰り返すことが、イノベーションの芽を見つけることにつながり、その芽をうまく育てた先に果実(=他を圧倒する競争力)が得られる。

 昨今のOSSプロジェクトは、さまざまなシーンで課題や限界に直面した世界中の第一線のエンジニア達が、アイデアを共有し互いの成果を評価しながら打開策や新機軸に磨きをかけている。最初は荒削りな部分があったとしても、日々の改善の中で洗練されていくのに時間はかからない。プロジェクトそのものが、チャレンジの繰り返しなのだ。OSSプロジェクトが生み出す成果には、企業や個人の領域を超えた、熱い想いや英知が満ちている。

 そのスケール感と革新性に比べると、特定のITベンダーがプロプライエタリの世界で展開する製品は、ある意味でスタティックでコンサバティブに映る。決まった要件の業務をつつがなく安定的に処理する基盤としては一日の長があるかもしれない。特定の用途では光るテクノロジーがあるかもしれない。しかし、その機能もコンセプトも、ベンダーサイドの戦略や都合に大きく左右されがちで、使い手側の思いが常に受け入れられるものではない。

 「ユーザーがイニシアティブを発揮しつつ、今までにはない何かを試行錯誤を積みながら創り上げていく。その取り組みを支えるものこそ、まさにOpenStackをはじめとするOSSのプラットフォームやコンポーネントなのです」と内藤氏は強調する。 

図1 OSSは爆発的に増加している<Red Hat Forum 2015 -Jim Whitehurst (Red Hat, Inc. CEO) 基調講演資料より>

 OSSをデジタル成長戦略に取り入れる価値

レッドハット株式会社でクラウドエバンジェリストを務める中井悦司氏

 ITは既存のビジネスプロセスを効率化するためのものという位置づけでよかった時代は、OSSが真価を発揮する局面はそれほど多くなかったかもしれない。しかし、Webやモバイルデバイスなどの普及によって、B2BからB2Cまであらゆるビジネスがデジタル化されつつある現在、ビジネスとITは完全に一体のものと言ってよいだろう。レッドハットのクラウドエバンジェリストである中井悦司氏は、「世の中でまだ誰も手を付けていないビジネスで成功を勝ち取ろうと思えば、それは必然的にITで実践していくことになります」と語る。

 象徴的な成功モデルとして取り上げられる例に、空車のタクシーと乗客をスマートフォン使ってマッチングさせる配車サービスで急成長したUberがある。同社は「クレイジーな数学と科学」と呼ばれる独自のアルゴリズムをもとに無数のタクシーと乗客を相互につなぎ、ピックアップの時間までを正確に予測するといった斬新なビジネスを展開しており、それを支えるIT基盤の大半がOSSによって構築されている。

 UberのようにITを活用したサービスで成功を築く企業は、ITベンダーとは異なり、テクノロジーそのものを売ることが本業ではないため、OSSに関するノウハウをオープンコミュニティに積極的にフィードバックしている。また、オープンコミュニティで議論を重ねる中から生まれてきた新たなアイデアや手法を逆にどんどん取り入れ、自分たちの“やりたいこと”に向けて素早く実践していく。このチャレンジを繰り返すことで、現在のイノベーションを成し遂げることができたのだ。

 こうした新しい形のテクノロジー活用をベンダー側からのアプローチではなく、ユーザー自身がビジネス起点で主導する世界を、FacebookやeBayのボードメンバーとしても知られるマーク・アンドリーセン氏は、すでに2011年の時点で「あらゆる産業はデジタル化し、あらゆる企業はソフトウェア企業になる。ソフトウェアが世界を征服する(Software is eating the world)」という言葉で予見していた。

 それから4年が経過した現在、まさにその時代が到来したのだ。「新ビジネスの創出や高付加価値化によって競争力を高めたいと考える企業は、この時代のトレンドに乗ったほうが得策です。OSSのコラボレーションモデルをIT戦略に取り入れることが、イノベーションへの近道となります」と中井氏は示唆する。

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