企業が「デジタル変革」の潮流に対応し進化を続けていくにあたって、IT部門が担うべき役割は今まで以上に高まっている。ITがビジネスそのものとなった現在、アジリティ(俊敏性)を身につけたIT部門へと変わる必要がある。「1つヒントとなるのは、今から40年以上前のかんばん方式によって生産改革を成し遂げた自動車業界の取り組みだ」。そう指摘する米レッドハット(Red Hat)のラーズ・ヘルマン氏(写真1)に、この大変革に必要不可欠なDevOpsのアプローチでカギを握るコンテナ技術の可能性を尋ねた。
「俊敏性を身につけるための手本は、40年前の自動車メーカー」
あらゆる業界でデジタル変革が進む中、“進化し続ける企業”となるためには、業務プロセスやテクノロジーのみならず、従業員のマインドセットや組織体制・文化も変えていかなければならない。その変革をするために牽引するのは、アジリティ(Agility:俊敏性)を持ったIT部門だ――。
米レッドハットで統合ソリューションビジネスユニット ゼネラルマネジャーを務めるラーズ・ヘルマン氏は上記のように切り出し、「IT部門は単なるサービスの提供者ではなく、会社のケーパビリティ(Capability:能力、機能、将来性)そのものになる必要がある」と説く。
裏を返せば、これまでのIT部門は十分な俊敏性を持ち合わせていなかった。基本、「予算」という縛りの中で仕事にあたるのが常だったため、仕方がないことではある。限られた予算を最大限に生かすため、IT部門はネットワーク、ストレージ、データベースなど技術毎に専門チームを作って人材を育成してきたが、その分組織が硬直化して、各部門の目標が明確になるが、ビジネスへの貢献という最終目標意識が薄くなり、各部門の領域を跨いだものへの融通が利かなくなり、変化に対する動きが鈍っていった。
では、どうすれば緩慢なIT部門を俊敏なIT部門へと変えることができるだろうか。良い手本があるとして、ヘルマン氏が挙げたのがジャスト・イン・タイムで世界的に有名なトヨタ生産方式(かんばん方式)だ。
今から40年以上前の自動車メーカーも、現在のIT部門と同様に限られたリソースで、細かく分化・専門化された作業チーム・作業者がクルマを作っていた。そこにトヨタが持ち込んだ新しい取り組みが、作業者の待ち時間を無くし、協働を増やし、合理化を実現する「かんばん方式」。ヘルマン氏は、「ここで起こった生産現場の変革を、ITの世界でも起こすことができれば、顧客の満足度も信頼も格段に向上していくはずだ」と強調する。
これを実現するための重要な要素として、ヘルマン氏は「デジタルビジネス変革のための4つのインフラストラクチャ」を示す(図1)。
第1は「セルフサービスとオートメーション」で、セルフサービス型サービスも一部取り入れながら、顧客企業/ユーザーの要望への迅速なレスポンスを実現するためのものだ。
第2は「専門化と抽象化(Specialized and Abstracted)」で、これは、上述のかんばん方式の特徴でもあるプロセスごとの合理化と自動化に相当する。例えば、ソフトウェアをコンポーネント単位で組み合わせたり交換したりしてサービスを構築可能にすることが目指されている。
第3は「標準化されたリソースの共有」で、デジタルビジネスで欠かせない柔軟性とスケーラビリティを担保する。これにより、アプリケーションを物理、仮想、プライベートクラウド、オンプレミスのデータセンターやパブリッククラウドなど、どの場所で稼働させたとしても同じ運用プロセスやツールをそのまま適用できるようにする。
第4は「管理サービス、ポリシー定義、標準設定」で、24時間・365日稼働が前提のシステムの安定的な運用を支えるうえで不可欠な要素となる。