オープンソースソフトウェアは今、コスト削減の手段としてだけではなく、イノベーションを推進するための原動力との認識が広がっている。企業がオープンソース導入を進めていることの指標の1つが、オープンソース専業の米Red Hatの業績だ。同社の業績は好調で、オープンソース専業として初めて20億ドル企業になった。次の目標に掲げる売上高50億ドルに向けて、どのような成長戦略を描いているのか。Red Hatオペレーションの上級副社長で、CFO(最高財務責任者)を兼ねるフランク・カルデローニ氏に聞いた。
―2017年度第1四半期(2016年3月〜5月)の業績は、売上高が前年同期比18%増の5億6800万ドルとRed Hatの好調ぶりを示しています。それだけ、オープンソースの利用者層が広がっているということでしょうか。
おっしゃるとおり近年のトレンドとして、多くの企業がITシステムをオープンソースに移行する傾向が強まっています。メーカー独自のプロプライエタリな製品と比べ、より価値があることを、より少ない予算で実現できるとあれば、オープンソースに向かうのは必然でしょうか。もう1つの理由として、オープンソースコミュニティが成熟し、そこから生まれるソフトウェアや、そこで得られる知見がIT技術のトレンドを牽引するようになってきたことが挙げられます。
IaaS/PaaSなどのクラウド関連の企業導入が急進
―具体的には、どういった市場でRed Hatの製品導入が進んでいるのでしょうか。
Red Hatのビジネス領域は、「インフラ」「アプリケーション開発」「エマージング(新興)テクノロジー」の3つのカテゴリに分けられます。現在、売り上げ規模が最も大きいのは、当然ながら基本ソフト(OS)であるLinuxによるものですが、アプリケーション開発とエマージングテクノロジーの両分野の製品売上は前年同期比39%増の9800万ドルと顕著な伸びを示しています。
具体的な製品としては、クラウド管理やモバイル管理、通信事業者の次期サービス基盤と目されるNFV(Network Functions Virtualization)、IaaS(Infrastructure as a Service)のOpenStack、PaaS(Platform as a Service)のOpenShift、ストレージなどになりますが、前年同期比約39%増はIT業界の平均に対して約7倍の成長になります。
―ユーザー数が増えているだけでなく、ユーザー1社当たりのオープンソース採用率が高まっているということですね。
そうです。クロスセルとアップセルが顧客との取引拡大につながっています。企業インフラの基盤としてLinuxや仮想化ソフトなどのRed Hat製品を導入した企業が、
日本国内でもRed Hat製品の採用企業が増えている
―Red Hatのオープンソース製品を導入することで、どんな企業が成功を獲得していますか。
Fortune 500にランクインしている企業の93%がRed Hatの顧客ですが、オープンソース製品の利用形態は様々です。例えば、米通信大手のベライゾン・コミュニケーションズからは、「オープンソースによって様々な企業との競争を制し、イノベーションを促進できた」というメッセージをいただいています。
―日本企業の採用動向はどうでしょう。
古くは東京証券取引所の株式売買システム「arrowhead(アローヘッド)」のインフラには、当社のLinux製品「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」が採用されています。同システムは2015年9月のリニューアルで、注文が集中しても安定して取引を仲介できるように処理能力が倍増されました。
より多くのユーザーにサービスを提供するための業務システムへの採用例も増えています。富士通が2016年2月に開始した電力小売事業者向けの顧客管理・料金計算パッケージソリューション「FUJITSU Intelligent Society Solution E3CIS」では、料金計算エンジンに「Red Hat JBoss BRMS」が採用されています。ITサービス事業者のクオリカでは、生産管理システム「ATOMSQUBE(Advanced Total Manufacturing system:アトムズキューブ)」の開発/運用基盤に「OpenShift Enterprise 3」を採用することで、市場でのアドバンテージを獲得しています。