業務のデジタル化や自動化を推進するためのツールとして注目されているプロセスマイニング。次世代のツールと見られがちだが、すでに導入に踏み切る日本企業は増えており、「導入はまだ先」と悠長に構えていられる状況ではなくなってきているようだ。実際にどんな企業がプロセスマイニングに取り組み、どのような成果を上げているのか。また、この動きに追随するためには何から始めればよいのか。国内市場におけるプロセスマイニング関連ビジネスのリーディングカンパニーであるハートコアにそのポイントを聞いた。
年率50%近いペースで市場が急拡大
少子高齢化に伴う慢性的な人手不足にコロナ禍による消費の低迷、ロシアのウクライナ侵攻に端を発するエネルギー不足や原材料の高騰など、次々と押し寄せるさまざまな危機に多くの企業がさらされている。将来もますます不確実となるなか、持続的な成長を遂げていくために求められているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)推進による抜本的なビジネスプロセス変革だ。
当然のことながら闇雲に変革を目指しても正しいゴールに向かうことはできない。まずは現状のビジネスプロセスを分析し、そこに内在している問題点や非効率な業務を洗い出して認識することが必須である。要するにAs-Isをしっかり把握してこそTo-Beを描くことが可能となる。
とはいえ、これは容易なことではない。社内のさまざまな部門で行われている膨大な業務を人手で分析していたのでは膨大な時間と工数を費やしてしまうからだ。多くは、コンサルタントがキーパーソンと面接して棚卸作業を行うという手法が用いられてきたが、これでは時間とコストが膨大にかかる。そのうえ、特定人物の主観が入り込んでしまい、向かうべき道を誤らせてしまうなど、客観性に欠ける恐れがある。
そういった課題を解決するのが、デジタル技術を活用して現状のビジネスプロセスを客観的かつ迅速に分析できるプロセスマイニングだ。その市場をリードするハートコアによると、プロセスマイニングとは自社製品の受注、納品、請求書発行、入金消し込みまでの一連のプロセス、あるいはコールセンターでの問い合わせの受付から初回対応、二次対応、そして対応完了までのプロセスなど、企業で行われている様々な業務プロセスに関して記録されるイベントログデータ(トランザクションデータ)を分析し、業務改善に活用する取り組みである。
これにより、無くしても支障のない無駄な業務や、処理待ちが発生しやすく、リードタイムを長引かせてしまっているボトルネックなどの問題を発見できる。
また、スタッフ一人ひとりのスキルや習熟度の違いから生まれる業務効率のばらつきを確認するほか、あるべき業務手順を踏んでおらずコンプライアンス上のリスクとなっている逸脱プロセスを特定することも可能となる。
日本国内においても、プロセスマイニングの市場は大きな盛り上がりを見せ始めている。ハートコア DX本部コンサルティング部 部長の前川徹氏は、「第三者機関の調査でもプロセスマイニングの市場は年率50%近い成長が予測されています(図1)。また、さまざまなお客様の声を聞いたり、イベントに参加したりする中でも、この1年でプロセスマイニングに対する関心が急速に高まっていることを肌で感じています」と語る。
営業部門の売上実績を40%以上向上した事例も
実際のところ、どんな企業がどのような形でプロセスマイニングを導入しているのだろうか。前川氏によれば、いまやプロセスマイニングを導入する企業はあらゆる業界・業種に広がっており、大きく次の2つのパターンに分けられるという。
「1つはITシステムのモダナイズを目的としたケースで、IT部門が主導して現状分析を行います。もう1つは業務そのものを見直したいというニーズに基づくもので、こちらは当事者である業務部門そのものが主導するケースが増えています」(前川氏)。
まずITシステムのモダナイズを目的としたケースでは、たとえばレガシー化した基幹システムを最新ERPにリプレイスする際などの現状分析にプロセスマイニングを適用するのだが、「最近では画面遷移の分析などにも用いる企業が増えています」と前川氏は語る。ユーザーの生産性や顧客満足の妨げとなるUI/UXに潜んでいるボトルネックをプロセスマイニングによって可視化・分析し、改善につなげていくアプローチだ。
一方の、業務そのものの見直しを目的とするケースでも、同様に既存のプロセスにおけるボトルネックを洗い出して改善につなげていくという取り組みは当然のこととして行われているが、さらに「ベストプラクティスを発見する」という方向でのプロセスマイニングの活用も増えている。
一般的に、プロセスマイニングといえば基幹システムのデータを対象にしていると思われがちだが、ハートコアではCRMやSFAのデータを対象とした案件も増えているという。
「たとえば営業部門の中で突出した好成績を上げている担当者がいたとしても、その人物が実際にどのような仕事の仕方をしているのか、そのノウハウは属人化しておりなかなか他の人は知ることができません。営業担当者が活用しているCRMやSFAにプロセスマイニングを適用して、暗黙知を形式知に変えるといった試みが行われています。優れた営業担当者の行動パターンをモデル化・ドキュメント化して営業プロセスや教育プログラムに反映させることで、部門全体の底上げを図ることができます」(前川氏)。
こうした既存プロセスに内在している問題点(マイナス面)を克服するアプローチと、優れた部分(プラス面)をさらに伸ばして拡大していくというアプローチをプロセスマイニングに基づき両面で展開していくことにより、「営業部門の売上実績を40%以上向上することに成功した、ある製造業のお客様の事例もあります」と前川氏は強調する。
プロセスマイニング導入でハートコアが選ばれる理由
プロセスマイニングは単純にツールを導入するだけで実践できるほど容易なものではなく、特に初めて導入する企業にとっては有識者によるサポートが欠かせない。そうした中、日本国内におけるプロセスマイニング市場のパイオニアとして存在感を高めているのがハートコアだ。
同社は、もともとCMS(コンテンツ管理システム)分野のリーディングカンパニーとして知られている。同社が、本格的にプロセスマイニングの市場に乗り出したのは約4年前のことである。
DX領域に関する需要を見据えて、業務システムで実行される処理プロセスを可視化・分析するプロセスマイニングツールのほか、従業員のPC上で行われている業務やタスクの生産性を数値化するタスクマイニングツールといった分析ツール、ルーティンワークを自動化するRPAといったソリューションを取り揃えた。そして新設されたDX本部のもとにデータマイニングエンジニア、業務コンサルタント、自動化エンジニア、専用トレーナーによる支援体制を整え、ビジネスプロセスの可視化・分析や業務改善、さらにはDX推進のノウハウを提供している。
具体的にハートコアはどんなサポートを提供しているのだろうか。同社 DX本部コンサルティング部 コンサルタントの島口直美氏によれば、初期導入の3~6か月のプロジェクトに携わることが多いようだ。前述したように業務の見直しを目的としたプロセスマイニングの導入では業務部門自身が主導するケースが増えているが、ITの専門知識を持った人材がいなくても問題はない。
「プロセスマイニングに必要なデータがすべて基幹システムの中に揃っているとは限らず、新たなデータを入手してツールにインプットして分析しなければならない場合もありますが、お客様側でシステム間の連携やデータ構造などを理解する必要はありません。お客様からは業務視点での判断基準や改善目標をいただけば、ITやデータサイエンスなどに関する実作業はハートコアで担当します」(島口氏)。
導入後もハートコアは継続的なサポートを提供する。プロセスマイニングは決してある一時点だけの取り組みではなく、常に可視化・分析と改善、さらにその結果の検証を繰り返すことにより変革をもたらすものであるからだ。
「そうしたプロセスマイニングのサイクルをベンダーに頼ることなく、最終的にお客様自身が自律的に回していけるナレッジを伝授するため、ワークショップをはじめとするサポートのシナリオとサービスメニューを用意しています」(島口氏)。
変革への一歩を踏み出すための参考書を出版
なお、ハートコアが各企業のプロセスマイニングの取り組みを支援する上で主に活用しているのが、「Apromore(アプロモア)」というツールである(画面1)。プロセスマイニングの民主化を掲げ、メルボルン大学(オーストラリア)のMarcello La Rosa教授やタルトゥ大学(エストニア)のMarlon Dumas教授、20年以上の経験を持つソフトウェアエンジニアのSimon Raboczi教授の3人が2009年にスタートした共同研究プロジェクトから生まれたものだ。
拡大画像表示
現在Apromoreには個人ユーザーや研究者が無償で利用できるオープンソースの「コミュニティエディション」ならびに、この基本機能に加えてビジネスシーンで活用できるさまざまな付加機能やサポートサービスを有償で提供する「エンタープライズエディション」の2つのエディションが用意されており、電気通信、製造、金融、Eコマース、電力、教育などさまざまな業種で導入実績を広げている。
近年では「M&Aを行った際に、ビジネスプロセスを統合するためのツールとしても活用されています」と前川氏は語る。
米Gartnerの「主要なプロセスマイニングベンダー」、米InfoWorldの「ベストオープンソースソフトウェアアワード2020」におけるトップ25、英The Startup Pillの「分析スタートアップ」におけるトップ50に選出されるほか、100以上の科学誌にも掲載されるなど、まさにApromoreはプロセスマイニングのグローバル市場をリードするツールのひとつとなっている。
拡大画像表示
注目すべきトピックとして、ハートコアは2022年4月25日に「オープンソースではじめるプロセスマイニング Apromore完全ガイド」(インプレス刊)という書籍を上梓した。本書の著者の一人でもある島口氏は、「Apromoreのダウンロードから設定、管理方法、具体的な操作方法にいたるまで、具体的な操作画面の画像をふんだんに使って徹底的に解説しています」と語る。
前述したとおりオープンソース版のApromoreであるコミュニティエディションは無償で利用することができるのだが、いきなりApromoreのサイトから直接ソフトウェアをダウンロードし、手探りで使い始めるのはあまりにも難易度が高かった。本書を手元に置くことで、このハードルを乗り越えることができるのだ。
プロセスマイニングの導入に迷い踏み出せずにいる企業は、まずは本書を参考にApromoreを一度試してみることをおすすめしたい。本書にはDXへの取り組みの参考になる点も多く、ビジネス改革の取り組みに課題を持っている方や理解を深めたい方などにも読んでいただきたい。DXを推進していく上でプロセスマイニングの実践は“待ったなし”であり、一日でも早く体験してみることが肝要だ。
●お問い合わせ先
ハートコア株式会社
製品ページ
https://www.heartcore.co.jp/process-mining/apromore/index.html