[技術解説]

エンタープライズ2.0が解決する経営課題(2)

エンタープライズ2.0 入門

2007年8月6日(月)IT Leaders編集部

エンタープライズ2.0が解決する経営課題の1つが集合知によるワークスタイルの変革である。集合知とは「多くのユーザーが参加して知識を出し合うことで知識の蓄積がどんどん膨らんでいき、最終的に価値のある知識になる」というものだ。具体的には、ブログ、SNS、Wikiなどのコミュニケーションツールや、Googleに代表される検索サービス、Frickrの分類(タグ)付けやAmazon.comのソーシャルフィルタリングによる書籍の推薦の技術が代表例である。

3-2 集合知によるワークスタイルの変革

ナレッジマネジメントはなぜ失敗したか?

エンタープライズ2.0が解決する経営課題の1つが集合知によるワークスタイルの変革である。集合知とは「多くのユーザーが参加して知識を出し合うことで知識の蓄積がどんどん膨らんでいき、最終的に価値のある知識になる」というものだ。具体的には、ブログ、SNS、Wikiなどのコミュニケーションツールや、Googleに代表される検索サービス、Frickrの分類(タグ)付けやAmazon.comのソーシャルフィルタリングによる書籍の推薦の技術が代表例である。

集合知というと、90年代に一世を風靡したナレッジマネジメントのことを思い出される方もいるかもしれない。当時、野中郁次郎教授の「知識創造企業」がベストセラーとなり、企業の競争優位の源泉は知識になると喧伝された。こうしてナレッジマネジメントが一大ブームとなったが、実施されたプロジェクトの多くが「ナレッジをデータベース化して共有しよう」というものであった。ITツール先行で進められたナレッジマネジメントプロジェクトはことごとく失敗し、社内に使われないナレッジデータベースを残して幕を閉じた。

90年代のナレッジマネジメントが失敗した理由、それはITツールで「箱」は作ったが「ナレッジ=コンテンツ」が入らなかったことにある。仕事で忙しい企業の従業員が、他人ために時間を割いてコンテンツを入れる動機もなく「箱」は空っぽのまま。強制的にコンテンツを登録させる企業もあったが、集まったコンテンツは玉石混交。価値のあるコンテンツが膨大なゴミの中にうもれてしまい、結局使われなくなってしまった。こうした負のスパイラルで、ナレッジマネジメントは失敗に終わったのである。

『知的創造企業』野中郁次郎、竹内弘高著 日本経済新聞社発行

ナレッジマネジメントの新潮流:データ中心から人中心へ、量から質へ

集合知の考え方は、一旦下火になったナレッジマネジメントに新たな火を吹き込む。ナレッジマネジメントは集合知の考えを取り込むことで復活し、「データ中心」から「人中心」へと進化していくのだ。これまでナレッジマネジメントというと「ナレッジ=データ」といった「データ中心」なとらえ方が多く、とにかくナレッジをデータベース化しよう、そしてそれを検索しようという発想が多かった。一方、集合知の特徴は「ユーザー参加型」だ。ユーザーはブログのコメント・トラックバックや、Amazon.comのブックレビュー、Mixiのお友達登録といった参加の仕組みを使い、コンテンツに参加し参加者同士の双方向コミュニケーションを巻き起こす。こうした仕組みでは「データの蓄積」よりも「人と人のつながり」「人と人の相互交流の場」に焦点が置かれている。いわば「人中心」のアプローチといってよい。

「人中心」のアプローチは、これまでの「データ中心」のアプローチとは異なり、ナレッジマネジメントによる真の経営課題の解決を実現する。本来、データは陳腐化しやすい上に、背景情報や文脈情報を伴わないため、業務で活用するのは難しい。また、本当に重要な知識は人の頭の中からは出てこないので、データのやりとりだけでは、有効な知識の流通は実現できない。スタティック(静的)なデータのやりとりに加えて、ダイナミック(動的)に人と人をコラボレーションさせ、人の頭の中に入っている本当の知識を効率的に流通させることが必要なのである。また経営課題を解決するためには、単にデータをやりとりするだけでなく、仕事のやり方、考え方、行動様式といった人のワークスタイルそのものを変えていく必要がある。「人中心」のナレッジマネジメントがワークスタイルの変革を実現するのである。

集合知がナレッジマネジメントにもたらすもう一つの新潮流、それは「量」から「質」への転換である。Google、Amazonが成功した大きな要因は、GoogleのPage Rank、Amazonのソーシャルフィルタリングに代表される、大量の情報から必要な情報だけを絞り込む技術である。集合知ではコンテンツそのものではなく、コンテンツに付随するメタデータ(属性情報)やアクティビティログ(活動履歴)が重視される。メタデータやアクティビティログを効果的に用いることで、「欲しい人が欲しい情報だけを欲しいタイミングで提供する」という「量」から「質」への転換を実現する。今日の企業内情報システムでは、情報の「量」が少なくて困っているということはない。メールの洪水、ファイルの洪水、データベースの乱立と「量」の増加が「質」を低下させ、本当に必要な情報を埋もれさせてしまっているのが現状である。集合知の技術は、これまで情報量の洪水により実現できなかったナレッジマネジメントを、具体的に解決できる可能性を秘めているのである。

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