[技術解説]

ハイブリッドクラウドを実現するための技術ポイント

クラウドを味方にアプリを取り戻せ

2014年2月18日(火)入江 宏志(DACコンサルティング 代表)

プライベートクラウド(Private Cloud)を基本に、パブリッククラウド(Public Cloud)などを連携させた環境がハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)だ。ITインフラや仮想化基盤をいかに統合し、アプリケーションやミドルウェアを連携させる。DRを題材に実現ポイントを解説する。

 「クラウドコンピューティング(Cloud Computing)」というキーワードが誕生してから、早くも8年が過ぎた。2006年頃は、パブリックを中心に、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Service as a Service)というレイヤーが異なるサービスが、それぞれ浸透してきた。

 その後、「プライベートクラウド(Private Cloud)」という、本来のクラウドコンピューティングとは違った概念が出てくる。プライベートクラウドは、従来のITシステムを仮想化した環境を指している。現時点では、従来型のオンプレミス(Traditional On-Premise)に、プライベートとパブリックの両クラウドを加えた3形態が企業情報システムの選択肢になっている(図1)。

図1:企業情報システムの基盤としての選択肢となる3つの形態

Hybrid以外に選択肢はない

 一方、メインフレームが誕生してからの50年の間、情報システムのアーキテクチャは、データを自らの手元に置く「分散型」と、データを一元管理する「集中型」との変遷を繰り返してきた。その過程で、ユーザー企業は、どちらかに偏り過ぎると、ベンダーによるロックインや、コスト高、品質の低下、セキュリティなどで失敗することを学んできた。

 クラウドも同様に、パブリッククラウドのみやオンプレミスのみに固執することを避ける傾向がでてきた。結果、オンプレミスやクラウドを組み合わせたHybrid型へ向かう動きが強まっている。

 例えば、ITベンダーやクラウド事業者は、大きく3つのグループに分けられる。1つは、1994年以降に誕生した米Salesforce.comや米Google、 米Amazonといったクラウド専業ベンダーである。パブリッククラウド市場において、それぞれが独自路線でユーザー企業のクラウド化を推し進めている。

 これに対し、米IBMや米Oracleなど、ユーザー企業にこれまで数多くのIT資産を納めてきた事業者は、プライベートクラウドと称して、ベンダー・ロックイン型のクラウド提供に軸足を置いてきた。メインフレームや大型UNIX機からの顧客流出をどうしても防ぎたいためだ。一方、同じIT資産提供型のベンダーでも、米HPや米Cisco Systems、米Dellなどは、プライベートクラウドではあるものの、「OSS(Open Source Software)クラウド」を掲げ、オープンさを前面に押し出したクラウド市場を狙っている。

 このような状況下では、パブリッククラウドやプライベートクラウドのいずれかだけに安易に取り組むことはリスクになる。既存のIT資産も考えれば、適切な組み合わせ、すなわちハイブリッドクラウド(Hybrid Cloud)しか選択肢はなくなってくる。

 表1は、プライベートクラウドとパブリッククラウドの特性や適用技術を比較したものだ。ハイブリッドクラウドでは、これらを業務特性に応じて組み合わせる。当然ながら、遠隔地にあるデータセンター間でアーキテクチャが異なるシステムが連携することになる。

表1:プライベートクラウドとパブリッククラウドの比較
  プライベートクラウド パブリッククラウド           
アーキテクチャ スケールアップ スケールアウト、Hadoop
活用データ トランザクションデータ トランザクションデータ、トラフィックデータ、ストリームデータ
データ収集 企業内(Enterprise系) 企業外(Net系)、CEP(Complex Event Processing)
データ保存 RDB(Relational Database)中心 KVS(Key-Value Store)、NoSQL、RDB
データ分析 BI(Business Intelligence):
静的データの分析
BA(Business Analytics):
動的データの分析

ハイブリッドでDRを実現する

 ハイブリッドクラウド環境で、より信頼性が高いシステムを構築する方法を考えてみよう。

 以下では、DR(Disaster Recovery:災害対策)を題材にする。現時点で、クラウド・サービス事業者が、ハイブリッドクラウドとして積極的に提案しているのが、パブリッククラウドを使ったDRソリューションである。さらに、DRについて検討・評価すれば、その他の目的に向けたハイブリッドクラウドの構築方法も概ね包含されるからだ。

 ただし現時点で、パブリッククラウドだけを使って、オンプレミスまたはプライベートクラウドの本格的なDRシステムを構築することは技術的に難しい。従って、(1)プライベートクラウド同士またはプライベートクラウドとHosted Private(パブリッククラウド上にユーザー専用のシングルテナントを構築・運用する形態)間の場合と、(2)プライベートクラウドとパブリッククラウドの場合を想定する。

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