データセンター/クラウドサービス事業大手のさくらインターネットは先ごろ、新しい原価計算システムを導入した。分散処理運用・開発ミドルウェア「Asakusa Framework」で開発したもので、その分散処理基盤にApache Sparkを採用したことで、Hadoop MapReduceよりも3~5倍高速な原価計算処理を実現している。Asakusa Frameworkの開発元で同社の構築を支援したノーチラス・テクノロジーズが2015年7月8日に発表した。
「細やかな原価把握を行いサービス改善/開発につなげたい」
さくらインターネットは、東京・大阪・石狩の3拠点に大規模データセンターを有し、レンタルサーバー、専用サーバー、 仮想専用サーバー(VPS)、クラウドといったサービスの提供を行っている。従来、こうしたサービスの原価は、各データセンターで取得した情報のサマリーを基に、ラックやサーバー単位で一律に配賦(割り当て)を行い、計算を行うのが常だ。しかし同社では、サービスの改善や魅力的な新サービスの開発を行うために、ユーザー単位で原価を迅速に把握したい考えがあったという。
そこで同社は、大量業務データの分散処理基盤を提供するノーチラスの支援を得て、ユーザーや物理サーバーごとのコストなど細粒度のコストを算定可能にするプロジェクトに着手。電力量やトラフィック量などの膨大なログデータと、ユーザーごとの会計データを紐付けて、原価を算出するシステムを構築した。
構築にあたって同社は、ログをはじめとする大量の情報や業務データを扱うためには分散基盤が不可欠と判断し、その開発に、ノーチラスの「Asakusa Framework」を採用した。Asakusa Frameworkは、複雑な業務ロジックをApache Hadoopなどの分散並列処理基盤で容易に開発・実行するためのフレームワーク/ミドルウェアである。
20時間かかっていた日次原価計算がSpark採用で10分に
今回の原価計算システム構築プロジェクトでは、Asakusa Frameworkの実行エンジンにApache Sparkを採用した点が注目される。Sparkは、Apacheソフトウェアファウンデーション(ASF)のプロジェクトとして提供されているオープンソースの分散処理プラットフォームで、Hadoop MapReduceを用いたときよりも処理を高速化できるという(参考記事:ポストHadoopと呼ばれる「Apache Spark」にブレークの兆し)。
Sparkを採用したことによる効果は数字に現れている。さくらインターネットは、新原価計算システムの適用業務として、最初に石狩データセンターで提供されるVPSと専用サーバーの原価計算を実施した。その際、従来型のRDBMSでは約20時間かかる日次原価計算が、Sparkにより約10分で完了させることができ、リアルタイムに近い状況で原価の“見える化”に成功したという。なお、ノーチラスによれば、このRDBMSで20時間かかる処理を、MapReduceを用いたケースでは約1時間を要したとのことで、Sparkと比較して約3~6倍の時間がかかっている。
「新しい原価計算システムの導入によりユーザーや物理サーバーごとにかかる原価をすばやく把握し、意思決定のスピードを速められるようになった」(さくらインターネット)。今後の取り組みとして同社は、新原価計算システムを各データセンターに展開することと、原価計算だけではなく蓄積したデータを予測やシミュレーションに活用することを検討しているという。
【プロジェクトの概要】 | |
ユーザー名 | さくらインターネット |
事業内容 | データセンター/クラウドサービス事業 |
導入システム | 原価計算システム |
導入目的 | ユーザー単位での原価計算の高速化・可視化 |
主な利用製品 | ノーチラス・テクノロジーズ「Asakusa Framework」、オープンソースソフトウェア「Apache Spark」 |