産業用ロボットの自動制御など、ディープラーニング(深層学習)を応用した事業を研究開発しているPreferred Networks(PFN)は2017年7月24日、都内の同社で説明会を開き、PFNが取り組んでいる事業について説明した。さらに、ディープラーニングの技術トレンドを解説した。
Preferred Networks(PFN)は、IoT(Internet of Things)とディープラーニングの応用分野として、産業用ロボット分野、自動運転などの交通システム分野、がんの診断などのバイオヘルスケア分野に取り組んでいる。ディープラーニングのためのオープンソースのソフトウェア開発ライブラリ「Chainer」や、ディープラーニングを応用した商用パッケージソフト「DIMo」も提供中している。
PFNの前身は、2006年に創業したPreferred Infrastructure(PFI)。PFIは、レコメンデーション機能を持つ検索エンジン「Sedue」などを手掛けており、この一環で機械学習を用いた自然言語処理などを重視していた。その後、2012年頃にディープラーニングとIoTの波がやってきたことを受け、2014年にPFNをスピンオフさせた。
拡大画像表示
「最初は監視カメラで事業を検討していたが、2015年に産業用ロボットを製造するファナックの工場を見学したことが転機となった」――。PFN代表取締役社長兼最高経営責任者の西川徹氏(写真1)は、製造業にフォーカスすることを決断した理由を、こう振り返る。ユーザー関連のデータは米Googleなどの既存ベンダーが握っているが、ロボットは延々とデータを出力しており、これを利用できると考えた。
産業用ロボット分野へのディープラーニングの応用は、すでに事例が出てきている(図1)。バラバラに積まれた部品を部品の向きなどを判別しながら1個ごと正確に摘み上げて取り出すロボットアームや、製品のキズの検査、機械の故障予知と消耗品の寿命予測、機械に電源を入れてから精度が安定するまでの熱変位補正、などである。
拡大画像表示
工場でのエッジコンピューティングとデバイス制御に注力
PFNの特徴の1つは、データ分析だけでなくデバイスの制御にディープラーニングを応用していること。例として、棚からモノを取り出して箱に詰める作業をロボットにやらせるコンテスト「アマゾン・ピッキング・チャレンジ」に2016年に参加して2位の成績をとったときのビデオを見せた。物体の認識だけでなくモノの掴み方にディープラーニングを活用することで好成績を得たという。
膨大なIoTデータをデバイスに近い場所で処理する“エッジコンピューティング”に注力している点も同社の特徴。「IoTデータは量が多いのでクラウドに集約するとネットワークがボトルネックになる。だからデバイスに近いところ、データが生まれたところで処理する」(西川氏)。
ディープラーニングとエッジコンピューティングによって産業用ロボットを自動制御するシステムの例が、ファナックの工場自動化システム「FANUC Intelligent Edge Link and Drive(FIELD) system」である。工場内の機器から得られるデータを工場内でリアルタイムに活用できるようにする。
バイオヘルスケア分野での取り組みの例としては、乳がん診断の精度向上にディープラーニングを応用。一般的なマンモグラフィ(X線による検査)の精度は80%(5人に1人は見落とす)で、SOTA Liquid Biopsy(採血による検査)の精度は90%(10人に1人は見落とす)という。ここでSOTA Liquid Biopsyにディープラーニングを組み合わせると、99%以上(100人に1人も見落とさない)へと向上できる。実用化に向けて国立がん研究センターと研究を進めている。
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >