JFEスチールは、IBM Watsonを活用した制御故障復旧支援システム「J-mAIster」を2018年9月に全製造ラインに導入した。製造ラインで発生するトラブルに対して、保全担当者が過去の事例や復旧に必要な情報を効率的に検索できる。今回、復旧時間を短縮するなどの効果が確認されたことから、社内の他のシステムとの連携など、本格的に運用を開始した。
JFEスチールが導入した制御故障復旧支援システムは、製造ラインで発生するトラブルに対して、保全担当者が過去の事例や復旧に必要な情報を効率的に検索できるシステムである(図1)。システムの特徴は、自然言語による質問応答システムであるIBM Watsonを活用していることである。保全担当者が音声やテキストで入力した質問に対して、復旧に必要となる情報をリアルタイムに画面上に表示する。
保全担当者は、モバイル端末に対し、故障の発生状況に関する質問を、音声やキーボードでテキスト入力する。IBM Watsonは、音声認識機能や自然言語分類機能を用いて質問の意図を読み取り、意図に沿った検索条件を「IBM Watson Explorer」に引き継ぐ。IBM Watson Explorerが、過去の故障履歴、日報、各種マニュアルなどからデータソースを特定し、類似性の高い情報を検索・分析して、復旧に必要となる情報をリアルタイムに画面に表示する。
導入の背景についてJFEスチールは、鉄鋼業の製造ラインでは、故障からの復旧時間が生産性を大きく左右するという状況を挙げている。「復旧作業に必要な情報を的確に提供することで迅速な復旧を図るシステムの構築が急務となっていたという。また、製鉄所という広大な敷地内の移動時間を削減できるモバイル端末の導入も望まれていた」(同社)。
システム導入の検討は、2016年6月に開始した。日本IBMのコンサルタントやエンジニアとともに課題や適用範囲を検討し、開発はグループの情報サービス企業であるJFEシステムズが担当した。2018年3月から、西日本製鉄所の福山地区と倉敷地区で利用を開始し、2018年9月に全国6地区にあるすべての製造ラインで稼働させた。
システムは、プライベートクラウド上に構築した。この上で、パブリッククラウドであるIBM Cloudを連携させている。さらに、各地区のファイルサーバーに保管していた報告書や各種マニュアルなどは、「Box」を利用した全社共有のファイルサーバーに集約した。
今後は、故障の解析と対策の実施、故障対応の技術伝承などの効果を見込む。将来的には、商品設計など他の業務領域へのIBM Watsonの活用も視野に入れる。