[市場動向]

ISIDと東京大学、人工市場のシミュレーション環境をクラウド上に構築

2019年11月15日(金)IT Leaders編集部

電通国際情報サービス(ISID)と東京大学大学院工学系研究科和泉研究室は2019年11月14日、エージェントベースモデル(ABM)を用いた人工市場のシミュレーション環境を、日本マイクロソフト、米Cloudera、英Simudyneの協力を得て、クラウド上に構築したと発表した。大規模な並列分散処理環境が不可欠なABMによるシミュレーションを、オープンなクラウド環境で実行可能とする試みである。両者は今後、同システムを活用し、市場リスク分析など金融分野へのABMの応用に向けた共同研究を進めていく。

 ABMは、複数の自律的なエージェント(プログラム)の行動と相互作用が全体に与える影響をシミュレーションするコンピュータモデルの1つで、世界の複雑な現象を再現・予測する手法として学術研究が進められてきた概念である。これを用いて金融市場や経済現象を仮想的にシミュレーションする環境「人工市場」を形成することにより、確度の高い予測が可能になると期待されているという。しかし、ABMによるシミュレーションには膨大なコンピュータリソースが必要となるため、国内では実用に至っていない。

 ISIDと東京大学は今回、オープンなクラウド基盤上にABMのシミュレーション環境を構築する試みを行った。具体的には、高い拡張性を持つエンタープライズグレードクラウドの「Microsoft Azure」上に、Clouderaの並列分散処理技術である「Cloudera CDH」とABMのシミュレーションツールである「Simudyne」を実装し、さらに和泉研究室が開発した「銀行間ネットワークモデル」(銀行間取引による貸借関係を明らかにするため、ネットワーク構造を用いて複数の銀行間の関係を表したモデルのこと)を組み込んだ(画面1)。

画面1:銀行間の関係性をネットワーク図で示した画面(出典:電通国際情報サービス、東京大学大学院工学系研究科和泉研究室)画面1:銀行間の関係性をネットワーク図で示した画面(出典:電通国際情報サービス、東京大学大学院工学系研究科和泉研究室)
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 ISIDは、アルゴリズムトレードやリスク管理シミュレーションなど、金融領域の大規模システム構築実績を持つ。クラウド技術を活用したシステム構築も行っている。今回、Microsoft AzureとCloudera CDHを活用した基盤の構築からSimudyneの導入、銀行間ネットワークモデルのポーティングまで、システム環境構築を一貫して実施した。今後は同システムの実用化に向けた技術検証とサービスモデルの開発に取り組んでいく。

 和泉研究室は、実社会で相互作用する複数の人間の行動データから、集団としての人間行動モデルを構築する基盤技術の研究開発に取り組み、社会経済シミュレーションや人工市場シミュレーションへの応用を進めている。今回は、独自に開発した銀行間ネットワークモデルを提供している。今後は同システムを活用して「銀行間ネットワークにおける連鎖破綻」などをテーマとするシミュレーションを実施し、金融分野におけるABM活用の有効性を検証するとともに、研究論文などを通じてその成果を公表していく計画だ。

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