日本企業では米国企業に比べて、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する経営者の関与が少なく、結果として取り組みが遅れ気味である。一方、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響では、日本企業は働き方改革など社内中心だが、米国企業は顧客に目を向けている――。こんな調査結果を一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が2021年1月12日に発表した。JEITAは、「日本企業は経営視点でDXを捉え直し、全社でDXを推進する必要がある」と提言している。
IT予算の用途、日本企業は効率化や業務改善
調査の名称は「日米企業のDXに関する調査」。IDC Japanに委託してCOVID-19渦中の2020年8~9月に従業員300人以上の企業を対象に実施しており、日本344社、米国300社の回答を得た。実際の回答者は経営者/CXO、事業部門やマーケティング部門のリーダーなど、非情報システム部門の幹部層に限定している。なお調査名称に「DX」を冠していても、IT予算の用途やCOVID-19への対応など幅広く調べている。目立つ結果を紹介しよう。
まずIT投資に関して。「増える傾向にある」と回答した企業は日本が58.1%、米国は71.0%。米国の割合が高いものの、日米とも半数を超える。逆に「減る傾向にあると思う」との回答はそれぞれ8.7%、5.0%と一桁台だった。では「増える」とした回答者は、どんな用途を想定しているのか。それを示したのが図1のレーダーチャートである。チャートの右側の項目は外部環境の把握やビジネス拡大の項目、左側は社内の効率化、業務改善に関する項目である。
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チャートの形から明らかな通り、米国は右側(青の実線)、日本は左側(赤の実線)の数値が高い。しかも日本は前回の2017年調査(赤の点線)よりも左が強まっている傾向が見て取れる。少し前まで「攻めのIT」「守りのIT」という表現があったが、守りのITが強まっている傾向だ。「日本は働き方改革がトップ、次いで業務効率化という用途になっている。COVID-19の影響があると思われるが、日米で大きな差があることが明らかになった」(JEITAソリューションサービス事業委員会委員長の馬場俊介氏=富士通理事)。
米国企業は“DX予備軍”が多い
次に本調査の中心であるDXの実施状況を見よう(図2)。「全社戦略の一環として実践中」との回答は日本が11.6%、米国が9.3%と日本が多い。しかし「部門レベルで実施中」「実証実験を実施中」を含めると日本の28.1%に対し、米国は54.6%と2倍近くになる。この結果について、日米DX投資調査タスクフォース主査 ソリューションサービス事業委員会副委員長の小堀賢司氏(NECソフトウェアエンジニアリング本部長)は「今後日米格差が開く可能性がある」と懸念する。
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実際、日本の結果を単独で見ると「実施に向けて検討中」「情報収集中」が合わせて38.4%、未着手の企業が33.4%と3分の1を超える。2020年8月時点の調査と考えた時、かなり厳しい状況と言えるだろう。ではなぜそうなのか。JEITAは理由の1つとして、DXにおける経営層の関与状況を挙げている。DXの戦略策定や実行に経営陣が自ら関わっている企業は米国が54.3%だったのに対し、日本は35.8%だったのだ(図3)。
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「DX=デジタルトランスフォーメーション=デジタル時代に適応するべく、企業文化や行動特性を変革し、それによって事業モデルや顧客エンゲージメントを変える」とすると、経営層が関与することの重要性は明らか。この点で図3は地味なグラフだが、大事な示唆であると考えられる。
これを補完するのが図4の「DXの成功要因として考えられるもの」だ。分かりやすくはないチャートだが、最も多く選択された項目は、日本が「事業変革を推進することのできる人材」、米国は「経営トップのリーダーシップやコミットメント」だった。ボトムアップ型の経営が多いと言われる日本とトップダウン経営が多い米国の違いが現れているとも考えられる。しかし、回答者数(日本229人、米国289人)の多さや、「デザイン能力/体験の設計力」が3位に入っていることなどから考えると、総じて米国の回答者の意識が高めと言えそうだ。
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