[市場動向]

NTTと東京電機大、移動通信システムの無線品質を量子アニーリングで高速・高精度に推定する技術

疎結合5640量子ビットのアニーリングマシンで有効性を確認

2023年10月27日(金)日川 佳三(IT Leaders編集部)

NTTと東京電機大学は2023年10月25日、高速性と高精度を両立する電波伝搬シミュレーションのアルゴリズムを開発し、実際の量子アニーリングマシン上で有効性を実証したと発表した。サイバー空間でのシミュレーションによって、個々の端末に対する無線通信の品質をリアルタイムかつ高精度に推定できるという。2030年を目途に技術の確立を目指し、自動運転などすべての端末がつながり続ける無線通信サービスの実現に寄与するとしている。

 NTTと東京電機大学は、高速性と高精度を両立する電波伝搬シミュレーションのアルゴリズムを開発し、量子アニーリングマシン上で有効性を実証した。サイバー空間でのシミュレーションによって、個々の端末に対する無線通信の品質をリアルタイムかつ高精度に推定できるようにした。2030年を目途に技術の確立を目指す。

 研究開発の背景として両組織は、次世代の移動通信システムにおいては、時々刻々と変化する無線通信の品質をリアルタイムにサイバー空間上のシミュレーションで高精度に推定し、これを現実の空間でのネットワーク制御に活用することが求められていることを挙げる。

 NTTと東京電機大によると、無線通信の品質を推定するための代表的なシミュレーション手法であるレイトレース法では、電波の通り道の探索や反射や回折などの電波の作用について複雑な計算を行う必要がある。そこでは膨大な計算時間がかかるという。

 そこで、シミュレーションにおけるミリ秒単位の高速性と誤差数dB程度の高精度の両立と、実用化に向け、現行の量子アニーリングマシンで提供している量子ビット数の範囲内で計算実行を目指して研究開発に取り組んだ。

 両組織の役割分担として、NTTは量子アニーリングによる無線通信品質推定のコンセプト考案とシミュレーション評価を、東京電機大は量子アニーリングを活用したアルゴリズム設計を担当した。

 2022年12月に、量子アニーリングマシン上で動作する伝搬QUBO(注1)モデルを考案し、従来のノイマン型計算機上で実行するレイトレース法と比べて計算時間を100万分の1以上に短縮する技術を確立。また、疑似量子アニーリングによる動作検証だけでなく、疎結合5640量子ビットの量子アニーリングマシンで動作させ、アルゴリズムの有効性を実機で確認した。

注1:QUBOは、Quadratic Unconstrained Binary Optimization(2次制約なし2値最適化) の略。2次式の値が最小になるように各変数に0と1のバイナリ変数割り当てを求める2次多項式問題を指す

 開発した技術は、電波の散乱を全方向に対して一様に散乱する完全拡散反射モデルを採用している。実機環境を再現したサイバー空間上において、面的な広がりを持った無線通信エリアを高速に推定できるようになったとしている(図1)。

図1:壁面における電波散乱モデル(出典:NTT、東京電機大学)
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 ただし両組織によると、次世代移動通信の6Gで検討が進む、場所・時・人に合わせた端末個々に対して所望の品質を確保しうる柔軟なネットワーク制御を行うには、高速性を維持したまま場所固有の無線通信の品質を高精度に推定することが求められる。そのためには、実際の環境における電波の散乱について、図1のとおり、壁面などに入射する角と出射する角の関係性を伝搬モデルに取り込む必要があったという。

●Next:シミュレーションの高速・高精度・実用性を確保した2つのポイント

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