[インタビュー]

ガートナーの専門家が説く、生成AIで業務アプリケーションを進化させる道筋

米ガートナー ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリスト ジェーソン・ウォン氏

2025年7月25日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

進化著しい生成AIやAIエージェントを取り入れて、自社で利用する業務アプリケーションを高度化する──IT部門がこのテーマに取り組む際、ベンダー各社が提供する生成AIサービスを適材適所で使うか、1つに統一すべきか。また、自社開発したアプリケーションを進化させるにはどうすればよいのか──。米ガートナー(Gartner)でこの領域を専門とするジェーソン・ウォン氏に、自社のアプリケーションに生成AI/AIエージェントを適用する際の基本的な考え方と進化させる道筋を聞いた。

 生成AIの活用は、あらゆる企業にとって優先度の高いテーマだろう。普及が始まった2023年から2024年頃までは、ホワイトカラーの業務支援、例えば企画書の立案・作成のサポート、翻訳、音声認識による議事録の自動化といった非定型業務の効率化が主な用途だった。多くの企業が「ChatGPT」に代表される対話型の生成AIサービスを導入し、不用意な情報漏洩を防ぐ対策を講じたうえで、有用なプロンプト(指示文)を共有しながら、フロントエンドでの活用が進んだ。こうした活用は今でも広がり続けている。

 2024年以降は、バックエンドの仕組みがより高度化していく。大規模言語モデル(LLM)にRAG(検索拡張生成)構成を加え、自社に蓄積された業務データを回答源にして、ヘルプデスクやコールセンター業務などに生成AIを適用するケースが増えている。規則や規定などの社内文書をナレッジベースにするので、より的確な回答が得られ、従業員や顧客からの問い合わせへの回答精度/品質を高められるようになった。

 並行して、専門業務への適用が広がりつつある。業種特化のAIエージェントが登場し、広告・宣伝などのマーケティングコンテンツの生成、電子回路など設計図の最適化、未知の材料を開発するマテリアルズインフォマティクス(MI)への適用など、さまざまな取り組みが行われている。もちろん、IT部門が携わるシステムやアプリケーションの企画・開発・運用への適用も進んでいる。

生成AIで業務アプリケーションを進化させる方法は?

 ここから本題である。自社で利用する業務アプリケーションに、進化著しい生成AIやAIエージェントを取り入れて高度化する──IT部門がこのテーマに取り組む際、どんな方法がよいだろうか。

 1つは、ベンダー各社が提供するマネージド型の生成AIサービスを適材適所で使う方法だ。マイクロソフトやSAP、セールスフォース、ServiceNowなど、大手プラットフォームベンダーはいずれも、自社開発の生成AI/AIエージェントをただちに利用可能なかたちで提供している。

 これは一見容易なチョイスだが、導入した生成AIサービスと、自社の既存システム/アプリケーション(特に自社で開発・構築したもの)との連携・相互運用性については十分な事前検証が必要になる。適材適所で複数のサービスを採用する場合は、各社それぞれのサービスの特性があり、UI/UXも異なることを念頭に置かなくてはならない。自社の環境を踏まえて、しっかり設計しないとアプリケーションや適用業務ごとに使い勝手や業務効率に差が生じ、結果として利用部門/利用者のストレスを生んでしまう。

 加えて、なし崩し的に利用を拡大していくと、多種多様な生成AI/AIエージェント、およびそれらを利用するアプリケーションが社内のあちこちで稼働することになる。“野良アプリケーション”ならぬ、”野良AI”の問題だ。ライセンスコストの増大はもちろん、データや情報へのガバナンス/コントロールがままならなくなる。特に、自律的な動作を旨とするAIエージェントの場合は、知らないところでAI同士が連携することも考えられる。”野良AI”の跋扈は、かつてシャドーITとして問題視された“野良アプリケーション”や”野良RPA”などとは次元の異なる混乱を生むリスクがある。

 では、どう考えて、計画すればよいのか? 何らかの依るべき方法論・原則、あるいは先行事例はあるのか?──そんなことを考えていたら、ガートナージャパン主催の「アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット」(2025年6月18日・19日)において、「インテリジェント・アプリケーションの台頭」と題したセッションが目に入った。

 原題は「Prepare for a Renaissance of Intelligent Applications in the Enterprise」。セッション概要にはこうある。「現在、レガシーアプリケーションは、組織の未来を決定付けかねない大きな変革期を迎えている。生成AI、エージェント型AI、コンポーザブルなSaaSアプリケーションプラットフォーム、新たなUIのフォームファクターによって、エンタープライズアプリケーションがルネサンス (再興)を迎えている。本セッションでは、次世代のインテリジェントアプリケーションを活用する方法について解説する」。

写真1:米ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストのジェーソン・ウォン氏

 残念ながらセッションは聴講できなかったが、講演者である米ガートナー ディスティングイッシュト バイスプレジデント アナリストのジェーソン ウォン(Jason Wong)氏(写真1)に直接インタビューする機会を得た。

 ウォン氏からは、目指すべき「自律型ビジネス」について、そしてそれを実現するための5つの原則(「適応型エクスペリエンス」や「自律型オーケストレーション」など)を詳しく聞くことができた。さらにBusiness Orchestration and Automation Technologies(BOAT)やガーディアンエージェントといった具体的なテクノロジーについても解説してもらった。以下、一問一答形式でお伝えする。

●Next:「自律型ビジネス」の方向性は必然。いかにして実現するか?

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