本パートでは、仮想化技術を活用してIT資源をクラウド化する具体的なテクニックを、プライベートクラウドの構築を例に解説する。クラウドの基本構成を知るにも役立つはずだ。
クラウドの利点は分かるが、外部のデータセンターに自社のデータを預けるのはどうも不安だ─。そう話すユーザー企業は多い。
そこで注目を集めているのが、ユーザー企業が自社のデータセンターでクラウド環境を構築・運用する「プライベートクラウド」である。本パートでは、プライベートクラウドの構築法を5つのステップに分けて述べていく。世に数多く登場してきたクラウドサービスの実体を理解する上でも参考になるはずだ。
Step01
仮想化ソフトをインストールする
社内でのクラウド環境の構築は、VM(Virtual Machine:仮想マシン)を稼働させる環境を準備することから始まる。そのための最低限のシステム構成は、複数のPCサーバーとストレージ、L2スイッチとFC(Fibre Channel:ファイバチャネル)スイッチである。今回は、9台のPCサーバーを使用する場合を想定する。仮想化ソフトとしてVMwareを使うことにする(図3-1)。
それぞれのPCサーバーには、4コアのx86 CPUを2個と、32ギガバイト以上のメモリーを搭載しておく。ネットワークカードは1ギガビット対応でもよいが、将来の拡張性を考えれば10ギガビット対応のものを用意したい。さらに、SAN(Storage Area Network:ストレージエリアネットワーク)ストレージにアクセスするためのFCボードを搭載する。こちらは、4ギガビット/秒のデータ転送速度を推奨したい。
SANストレージには、15個のハードディスク装置(HDD)を搭載できるとし、6+1個のHDDからなるディスクアレイを、RAID 5で2つ組む。残った1個のHDDはスペアとする。1つのRAIDを1つのLU(Logical Unit:論理装置)とする。
HDDの回転数は、できれば1万5000回転/分を推奨したい。というのも、クラウドでは1台のPCサーバーで10個以上のVMを走らせたい。その場合、1つのストレージに対して複数のVMが同時にデータの読み取りや書き込みを行うといったことが起きる。その時に、通常のPCで使っている7200回転/分のHDDだと、あるVMがストレージにアクセスしている間、別のVMは待たされることになり、クラウド全体の性能劣化を招くからである。
さて、ハードの準備ができたところで、VMware ESX(以下ESX)をそれぞれのPCサーバーの内蔵ハードディスクにインストールする。ESXはハイパーバイザと呼ぶプログラムで、PCサーバー上でネイティブで動く。つまり、ESXはWindowsやLinuxといったOSの上で動くアプリケーションではなく、ハード上で直接動く仮想化専用のOSと言うことができる。
Step02
VMを作成して管理サーバーに登録する
9台のPCサーバーにESXをインストールしたら、それらをVMwareの管理サーバーであるVMware vCenter Server(以下vCenter)に登録する。今回は、9台のESXを1つのグループ(クラスタと呼ぶ)として登録し、先ほど構成したSANストレージの2つのLUを割り当てる。これにより、9台のESXが2つのLUを共有することになる。
次に、各VMにCPUを何コアずつ割り当てるのか、メモリーを何ギガバイトずつ割り当てるのかを決定し、vCenterでVMを作成する。
ただしこのままでは、あるESXでハード障害があると、そのESX上で稼働していたVMは全滅してしまうことになる。そこで、同じクラスタにある9台のESXでHA(High Availability:高可用性)構成を指定し、さらにLU内のリソースを共有するようvCenterの画面で設定する。これにより、ハード障害が発生したESX上で動いていたVMは、同一クラスタ内のほかのESXで動き続けられるようになる。
Step03
各種管理サーバーやネットワーク機器を設置
vCenterでVMを作成した。ESX間でリソースを共有する設定も実施した。これらだけではまだ、クラウド環境を安心して運用できない。vCenter以外に、各種の管理サーバーを導入すべきである。
まず、それぞれのESXや管理サーバーのIPアドレスを管理するDNS(Domain Name System:ドメインネームサービス)サーバーや、各サーバーの時刻を同期させるNTP(Network Time Protocol :ネットワークタイムプロトコル)サーバーが必要だ。このほか、個々のハードを監視するハード監視用サーバーや、ネットワークの稼働状況やQoSを監視するサーバー、ESXやvCenterなどのプロセスの稼働状況を監視するサーバー、バックアップサーバーも用意しなければならない。
一方、ESX上で走るVMに社内やグループ企業、インターネットからアクセスできるようにするには、外部接続の仕組みが必要である。具体的には、社内ネットワーク、グループネットワーク、インターネットそれぞれにL3スイッチを用意する。もちろん、L3スイッチの前にファイアウォールやロードバランサを置くこともある。
こうした管理サーバーを追加した結果、プライベートクラウド環境は39ページ図3-2のような構成になる。ここでは、9台のESXを1つのクラスタとして、4つのクラスタで構成するクラウド環境を例にした。1つのESXで16台のVMを走らせるとすれば、全体でのVMの数は、
となる。
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