「EC2」や「S3」などのクラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービスが2011年3月2日、ついに日本国内にデータセンター開設した。その背景を同社幹部にインタビューした。
仮想サーバー「EC2」やストレージ「S3」の提供など、クラウドベンダーとして常に先頭集団をいくアマゾンウェブサービス(AWS)。同社は2011年3月2日、クラウドサービス向けデータセンター(DC)を日本にも開設したことを発表した。北米(バージニア州およびカリフォルニア州)、EU(アイルランド)、シンガポールに次ぐ、同社にとって第5の拠点となる。IT Leadersは、来日したアンディ・ジャシー(Andy Jassy)シニアバイスプレジデントに、DC開設の背景などを聞いた。
■アジア地域の最初のDCをシンガポールに開設したのが2010年の4月末。それからさほど間をおかずして、同年秋にも日本にDCを設けるとの噂があった。結局、この時期に落ち着いたのには何か理由があったのか?
それはあくまで噂であり、少なくとも我々が東京リージョン(日本のDC拠点)の開設時期を事前にリークした経緯はない。市場のディマンドを分析し、それに十分に応えられるものかを検証してきた結果、正式な公表はこのタイミングとなった。3月2日以降、日本のユーザー企業やディベロッパーの方々には、すぐに新しいDCから提供するサービスを活用してもらえる。ただし社の方針として、具体的なDCの場所や規模については公表していない。
■ユーザーにとっての東京リージョン開設の意義は?
まず、ほとんどのインスタンスにおけるネットワーク遅延が「マイクロセカンド」単位に収まることが挙げられる。多様なアプリケーションをストレスなく使えるということだ。日本の企業、あるいは日本に拠点のあるグローバル企業にとっては大きな意味がある。もう1つは、データを日本国内に置いておけるということ。海外のDCにデータを預けることに抵抗を感じる声が高かったことは重々承知している。この不安感を払拭できる。
■AWSは米国の企業であり、何らかの理由でPATRIOT Act(愛国者法)が行使されると、日本など海外の企業が影響を受けるという懸念があったのは事実。こうした心配はもう不要ということ?
その通りだ。DCは日本にあり、データの所在も特定できる。法的な面でクラウド活用に二の足を踏んでいた企業があるかもしれないが、そんな不安を抱えることはない。
■第5の拠点として東京リージョンを構えたのは、AWSとしてのマーケティング戦略上の判断なのか、それとも顧客からの要求に応えたものなのか。
後者だ。日本にDCがなかったこれまでも、多くの日本のユーザーやディベロッパーに当社のサービスを使ってもらっていた。その動きを受けて、日本法人を立ち上げたり、ユーザー会を発足させるといった活動を展開し、多くのインプットを得た。多様な声が寄せられるのを参考に優先順位を決め、日本にDCを開設すべきとの決断を下した。当社の基本的な考え方として、「カスタマーセントリック」がある。つまりは、顧客起点で考え、求められるものを可能な限り提供することがミッションだ。東京リージョン開設も、その1つの表れととらえてほしい。
■稼働率保証については、他のDCと同じ水準?
基本的にはどこのDCでも同等のサービスを提供する。例えばEC2の場合、SLA(サービスレベルアグリーメント)としては稼働率99.95%をうたっている。仮に下回ればペナルティを支払うわけだが、実際にはかなり高い水準で運用できていると自負している。もちろん、あぐらをかくつもりはなく、より安定的に稼働できるよう技術面などでの工夫はさらに盛り込んでいく。
■日本市場については、どの程度期待しているか。
顧客数とか全世界に占める売上比率など具体的な数値目標は公言していないが、かなりエキサイティングな市場と考えている。
1つには、世界有数のテクノロジーカンパニーがひしめいていることがある。例えば、研究開発には多くの実験が必要だが、もしかするとコンピューティング資源を調達するのに、これまではコスト面での大きな制約があったかもしれない。この点、クラウドサービスを使えば、必要な時に必要なだけのITリソースがリーズナブルに使える。しかも、日本にDCがあるとなれば、データの置き場所がうんぬんという不安材料がぬぐえることは先ほど触れた通りだ。
別の観点では、優れたビジネスモデルを思い描くアントレプレナーも多くいるはずだ。この時代、事業基盤の最たる例はITプラットフォームだが、従来はその初期投資が重くのしかかり夢を実現できずにほぞをかんでいたケースもあるだろう。当社のようなクラウドサービスを使えば、創造的なことに注力しながらスモールスタートできる。
とにもかくにも、余計なところに手間やコストをかけずに、やりたいことに集中できる。それがクラウドのベネフィットだ。北米では、スタートアップ企業に限らず、製薬や金融、自治体など様々な業種業態のユーザーが当社サービスを活用しクラウドシフトを加速させている。それは世界的なムーブメントであり、日本にも同様な動きが広がるだろう。だからこそ、東京リージョンのユーザー数も劇的に増えると考えている。
[参考]東京リージョンで使えるサービス一覧(2011.3.2時点)
Amazon Elastic Compute Cloud (EC2)
Amazon Simple Storage Service (S3)
Amazon Elastic Block Store (EBS)
Amazon SimpleDB
Amazon Relational Database Service (RDS)
Amazon Simple Queue Service (SQS)
Amazon Simple Notification Service(SNS)
Amazon Route 53
Amazon CloudFront
Amazon CloudWatch
AWS CloudFormation
※以下は数カ月以内に提供予定
Amazon Elastic MapReduce
Amazon Virtual Private Cloud (VPC)