[イベントレポート]

「ITで“ゲーム=ビジネス”のルールをチェンジせよ!」─IBM IMPACT 2012より

2012年5月11日(金)IT Leaders編集部

米IBMは2012年4月29日~5月3日、ミドルウェア「WebSphere」に関する年次コンファレンス「IMPACT2012」を米ラスベガスで開催した。基調講演のトピックを紹介する。

「企業は自分のビジネスを再構築する機会を逃してはならない。基調講演で明らかになったように、創業100年の歴史を持つ家電メーカーのワールプール、中堅銀行のハチントン銀行、あるいはアイルランドに本拠を置く海洋研究所などがテクノロジを駆使してビジネスを再構築している」(米IBMでミドルウェア製品のジェネラルマネジャーを務めるマリー・ウィック氏)。

米IBMは4月29日~5月3日、ミドルウェア「WebSphere」に関する年次カンファレンス、「IMPACT2012」を米ラスベガスで開催した。8500人の参加者(大半が約20万円を支払った有料参加者)、600ものセッション、50弱の出展社など、単一製品ラインのカンファレンスとしては有数の規模。WebSphereのような基盤ミドルウェアへの関心は日本では今ひとつだが、当地では明らかに事情が異なる。

なぜそんなに関心が高いのか。背景にあることのひとつが冒頭の言葉に象徴される、ある種の切迫感だろう。多少の明るさが見えるとはいえ、企業を取り巻く状況の厳しさや先行きの不透明感は日米とも変わらない。状況を打破するためのツールとして、そして初日の基調講演のテーマである「The Business of Technology」の手法としてITを捉え、先に進もうとしているのだ。以下では初日と2日目の基調講演の模様をお伝えする。長文なので、読み飛ばしながら全体の雰囲気をつかんで欲しい。

初日の基調講演
「イノベーションは継続が肝心」

基調講演の時間は2時間あまり。その間、20分~30分毎に様々な立場の講演者が入れ替わりで登壇した。日本ではほとんどない見られない形式だが、IMPACTのようなカンファレンスではごく一般的である。「The Business of Technology」といっても、あるいはそれをIBMのミドルウェアに絞ったとしても様々な側面があり、結果として現在の形になったようだ。

最初に登壇したのは『スティーブ・ジョブズ』の著者であり、伝記作家として知られるWalter Isaacson氏(写真1)。自らが伝記を著したアインシュタインなどのエピソードも織り交ぜながら、「賢い人はたくさんいる。だがクリエイティビティを持ちイノベーションを起こせる人との違いは、情熱を持っているかどうか。考え方が違う人こそが世界を変えていく」と、常識にとらわれないことの大切さを巧みに説いた。

写真1
写真1:「スティーブ・ジョブズ」の著者であり、伝記作家として知られるWalter Isaacson氏

エピソードの1つが「iPhoneを開発する時、ジョブズ氏はともかく傷がつかないガラスを必要としたが、当時の取引先である中国メーカーでは作れない。米コーニングに依頼したら『理論的には可能でも、作ったことがない』と言われた。それに対しジョブズ氏は『絶対できる』と説得した。”ゴリラグラス”と呼ばれるコーニングの高硬度ガラスは、その結果生まれた」。市場に存在しないからあきらめるのではなく、どうしても必要という情熱があればやり遂げられるというエピソードである。

これを受けてIBMミドルウェア事業のゼネラルマネジャーであるMarie Wieck(マリー・ウィック)氏が、「人と違うことができるか。イノベーションを継続できるか。カンファレンスの終わりまでに、この問にYESと言ってほしい。そのためにはツールが必要であり、その1つがWebSphereだ。1200社のパートナーによるチームワークで皆さんのイノベーションを支える」と語った。単独だと単なる宣伝文句に聞こえかねないが、アイザクソン氏の後だと不思議とリアリティを感じる。

次に米国の大手家電メーカーであるWhirlpool(ワールプール)でCIOを務めるAnan Douville氏が登壇(写真2)。「我々はIBMと同じく100年の歴史を持つ会社のIT部門だ。170カ国で事業展開しているので、ITもグローバル・レベルである必要がある。クラウドや仮想化のアイデアは素晴らしいが、B2Bのクオリティできちんと動作しないと意味がない。システムダウンは許されない。IBMはそれを理解してくれている」、「先端的なソリューションを持つベンダーと話すためにIMPACTに来た。彼らのソリューションは、我々のような会社がビジネスモデルを変革するのに役立つからだ。当社は今、トランスフォーメーション(企業変革)の真っ最中であり、私はITの専門家としてそれを楽しんでいる。毎日が挑戦であり、ITの立場で変革に携わるのはわくわくすることだ」などと語った。

写真2
写真2:Whirlpool(ワールプール)でCIOを務めるAnan Douville氏

改めてSOAへの注力を強調
それなしにビッグデータもスマートデバイスもあり得ない

その後、再び、IBMのWieck氏が登場。ミドルウェアの新製品を公式にアナウンスした(写真3)。発言をまとめると次のようになる。「今日の企業はゲームに参加するためではなく、ゲームをチェンジするためにイノベーションを求められている。しかしイノベーションは単独では起こせない。コラボレーションとパートナーシップが必要であり、それを可能にするプラットフォームがWebSphereの新製品である。処理性能が16%速くなり、これは他社のどの製品をも上回っている。仮想環境の統合や、フットプリントの小ささも特徴だ。ほかに『Mobile Foundation』や『IBM Business Process Manager 8.0』も本日発表した。特にモバイルは以前のeビジネスと同じ状況にある。皆がホームページを作って満足している時、IBMはeビジネスを提唱した、モバイルでも同じ役割を果たす」。

写真3
写真3:会場でアナウンスされたミドルウェアの新製品

「これらの新製品は、モバイルでもオンプレミスでも、クラウドでも稼働する。すべての基礎にあるのがSOAである。リユースとインテグレーションに向けて、SOAの重要性は変わらないものの1つだ」。このようにウィック氏は企業ITにおける扇の要としてのSOAの重要性や、IBMがSOAに投資し続けていることを強調した。ビッグデータも、モバイルも、ソーシャルメディアもクラウドも、すべてSOAがシステム基盤にあってこそ生きるという論理だ。「SOA、そしてこれらのソリューションを生かして、企業は自らのインダストリをリシェイプして欲しい。ではどのようにすればいいか?その具体例として次のゲストに登場してもらう」。

この言葉で登壇したのは、米国中西部の地方銀行、Huntington銀行のCIOであるSteve George氏。資産500億ドル、1万1000人の社員を擁する同行は「140年の歴史を持ち、合併買収の嵐や金融危機を生き抜いてきた。ITに関しては、今、メインフレームを含めた古いIT資産をwebsphereプラットフォームに移行している(写真4)。ITに力を入れるのは、大手と同等以上のことを迅速に低コストで実施する必要があるからた。鍵になるのはSOAだと考えている」と語る。なぜIBMのWebSphereなのかにも言及。「WebLogicを使っていたが、古い環境だあった。しかもオラクルが買収してすべてが変わった。(OSSの)Jbossも検討したが、TCO(システムの総保有コスト)を評価した。例えば開発はアジャイル型が必須だったが、IBMの製品はそれをサポートする。WebSphereはBPM、意思決定支援、開発ツールなどの機能が充実している点がメリットだ」(同)。

写真4
写真4:Huntington銀行は既存のIT資産をWebSphereプラットフォームに順次移行している

この後、IMPACT2012の主役と言える「PureApplication System」のお披露目やデモがあり、最後にユーザーとしてもう1社、アイルランドの海洋研究所(Marine Institute )Peter Hefferman氏が登壇。IBMの協力を得て、「スマートベイ(SmartBay)」と呼ぶ海洋研究プロジェクトを進めていることを説明した(写真5)。「人は海の重要性を忘れがちだが、天候や人口の問題は海の研究抜きには語れない。大量のセンサーを海に配置して、その理解に努めている。アイルランドの国土の90%は大西洋の下にあり、国土を再発見する試みでもある。これはすなわちゲームチェンジだ」。IBMの”Smater Planet”の取り組みの1つであり、再生可能エネルギーや食料、レジャーなどの面で様々な効果を見込むとという。

写真5
写真5:アイルランドの海洋研究所が取り組む「SmartBay」と呼ぶ海洋研究プロジェクト

初日の基調講演の締めくくりが、パートナー企業の表彰。米Prolifics(SOA)、日本情報通信(クラウド)、メキシコのAlkimia Consultores(BPM)、Flagship Solutions Group (意思決定マネジメント)、Arrow ECS(ディストリビュータ)、Vindicia(デジタルコンテンツやサービス専門の課金サービス)の6社である。日本情報通信=NI+Cを除けば日本ではほとんどなじみのない企業ばかりだが、各領域に専門企業が存在することには注目しておくべきだろう。IMPACT2011の「Best of Show Award」はForeFrontが受賞した。CastIronを中心としたIBM製品を用いてオンプレミスのCRMやERPなどとクラウド上のそれらを連携させるソリューションを提供する企業である。

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