モノを購入して満足する時代は過ぎ去った。 顧客は、モノを通して得られる経験やストーリーに対価を支払う。 そんな時代に企業が生き残るためのキーワードが「サービス化」である。ITの進化が、サービス化を後押しする。
これまで、モノの付加的価値としてサービスをとらえる「グッズドミナントロジック(モノ支配論理)」に基づくビジネスモデルが優勢だった。「サービスはおまけ。製品に無料でついてくる」という考え方だ。しかし、コモディティ化が急速に進み、消費者がモノの機能や性能だけでは満足しなくなった今、大きな変化が起きている。「サービスドミナントロジック(サービス支配論理)」への構造転換である(図1-1)。
モノで差異化を図れないなら、サービスで選ばれるしかない。非生産的な労働と見られていたサービスを、顧客価値を生み出す源泉と見るサービスドミナントロジックの世界観に注目が集まっているのはそのためだ。といってももちろん、モノがなくなるわけではない。科学技術振興機構 社会技術研究開発センターにおいて、サービス科学をテーマに活動する「問題解決型サービス科学プログラム」を統括する土居範久 慶應義塾大学名誉教授は、「サービスにより生まれる価値は、交換価値と利用価値を包含する。サービスとモノは不可分」と指摘する。
モノの役割は変わる。ハードは従来のように単独で価値を持つことはなくなり、サービスのインタフェースとして機能するようになる。モノがサービスの一部になるわけだ。ガートナー ジャパンの亦賀忠明バイス プレジデント兼最上級アナリストは、「企業が成長するには、モノ+ソフト=サービスという従来のものづくりの発想を逆転させなければならない。まず、どのようなサービスを提供すれば収益が上がるかというシナリオを描き、その実現に必要なハードやソフトを導き出すべき」とし、米アップルの例を挙げる。「iPhoneやiPadのビジネスモデルは物販ではない。同社は顧客に対して、iPhoneやiPadからアクセスできるAppStoreやiTunesといったITシステムを介して、必要なコンテンツやアプリを必要なときに入手して利用するという“経験”を販売している」(同氏)。
靴から“快適な走り”へ
商品と計測サービスを一体化
こうした構造変化をいち早く読み取り、ものづくりにサービスを組み合わせることで顧客価値の向上に取り組む企業がある。スポーツ用品メーカーであるアシックスである。
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