今年に入って、電子書籍市場の動きが活発化している。シャープ株式会社も、2010年から電子書籍ストアサイト「GALAPAGOS STORE」を展開しているが、同社の狙いは電子書籍の販売にとどまらず、GALAPAGOSという情報プラットフォーム事業のなかで新たなビジネスを創出することだ。このGALAPAGOS事業の現状について、同社デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部長の辰巳剛司氏と、システム構築に協力した株式会社オープンストリームの代表取締役社長 佐藤浩二氏に聞いた。
- 辰巳 剛司 氏
- シャープ株式会社 デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部長
- 1990年シャープ入社。液晶事業戦略推進室 チーフ、経営企画室 事業開発室 室長、通信システム事業本部 ネットワークサービス事業推進センター 所長を経て、2012年10月、デジタル情報家電事業本部 モバイルソリューション事業部 事業部長に就任。株式会社GALAPAGOS NETWORKS 代表取締役社長を兼務。
- 佐藤 浩二 氏
- 株式会社オープンストリーム 代表取締役社長
- 日本ユニシス、日本ヒューレット・パッカードを経て、2004年にオープンストリームに入社。2007年に社長に就任し、2008年に親会社の豆蔵ホールディングス取締役就任。現在、アクシスソフトの社長など6社のグループ会社役員を兼務。
情報プラットフォーム事業を「GALAPAGOS」ブランドで展開
シャープがGALAPAGOS STOREを発表したのは2010年9月。専用端末と合わせて提供するサービス形態が大きな話題を呼んだ。サービス開始後は、Android端末およびiPhone/iPad向けのリーダーアプリケーションを開発し、マルチデバイス対応を実現。ストアサイトでも、コンテンツの増強や操作性の改善に継続して取り組んできた。
シャープの辰巳氏は、「今後もコンテンツの増強、サイトの改善は進めていきます」としたうえで、「ただし、ストアサイトはGALAPAGOSという事業の一部なのです」と語る。同社はGALA-PAGOS事業において、情報の配信や管理を行うプラットフォームを構築。電子書籍販売だけではなく、電子書籍配信の仕組みや、学習コンテンツ管理ソリューションの提供といった形でB to B展開を構想している。
「GALAPAGOS STOREで実績を積み上げ、さまざまなビジネスを創出していこうと考えています」(辰巳氏)
家電やAV機器で知られるシャープだが、この情報プラットフォーム分野でも10年以上の歴史を持つ。その核になるのが、電子書籍フォーマット「XMDF(ever-eXtending Mobile Document Format)」である。
もともとXMDFは、シャープのヒット商品であるPDA「ZAURUS」向けに開発された。「ZAURUSは、当時としては大型/高精細の液晶を備えていました。それを活かしたコンテンツの利用方法を模索し始めたのが、XMDFの発端です」と辰巳氏。同社は2001年に電子書籍フォーマットの規格としてXMDFを提唱し、2009年に国際電気標準会議(IEC)により「IEC62448 Ed.2 Annex B」という国際標準規格として承認された。
そして、GALAPAGOS事業を始めた2010年に「次世代XMDF」を提唱。スマートデバイスが普及してきた状況を踏まえ、動画/音声の組み込みや、自由なページレイアウトなどを可能とした。
教育とヘルスケア分野から B to B 事業に着手
情報プラットフォームで多彩なビジネスを創出するという構想は、着実に具体化の道を進んでいる。
その一例が、電子書籍配信ソリューション「book-in-the-box」である。これは、XMDFを実用化するなかでシャープが培ってきたDRM(著作権管理)技術や閲覧アプリケーションなどで構成される。開発負担が大きいDRMをパッケージ化することで、電子書籍市場の拡大に貢献することが狙いだ。
また、5月からは大阪府立大学と共同で、総合リハビリテーション学部の4年次生を対象にした電子教科書の実証実験を始めた。これまで同学部の学生は、臨床実習の際に何冊もの教科書や参考書を持ち運んでいたが、それらをタブレット端末に納めることで、持ち運びの負担解消を図る。同時に、閲覧したいページの検索や、重要箇所のマーキング、さらには動画を活用した学習など、電子書籍ならではの機能によって学習効率の向上という効果も狙う。
「実験では、スタンドアロンでタブレットを利用していますが、今後は動画による講義の配信など、電子書籍という枠組みに捉われずに、教育分野に最適な情報プラットフォームの姿を探っていきます」と辰巳氏は展望を語る。
教育のほかに辰巳氏が期待を寄せているのがヘルスケア分野だ。「心身の不安は、情報不足が原因である場合もあります。適切な情報を届けることで、生活や社会の安心/安全に貢献できるのではないかと考えています」(辰巳氏)
これらに限らず、GALAPAGOSの情報プラットフォームは、さまざまな業務分野に適用できると辰巳氏は見ている。「必要な情報を、より良い形で、適切なタイミングで配信したいというニーズは、いたるところにあります」と同氏。そうしたニーズに応えるためにも、GALAPAGOS STOREで実績を重ね、より利便性の高い情報の配信や管理の仕組みを構築していく構えだ。
サービスの継続性確保を重視して開発/運用に臨む
情報プラットフォーム事業の推進という面からも、GALAPAGOS STOREの運営においてシャープが重視しているのは、サービスの継続性の確保だという。それは、GALAPAGOS STOREのシステムが正常稼働し続けることだけでなく、あらゆる面から継続性を確保することを意味している。
特に重視しているのは、「お客様が購入した電子書籍が将来に渡って利用できるようにすることです」と辰巳氏。XMDFの開発に取り組んでいることや、マルチデバイス対応を果たしたことも、そうした考えの表れだと言える。
「標準化されたフォーマットであれば、将来的にも閲覧できるアプリケーションが提供されるはずです。当社としても、その状況を現実のものにするために、AndroidやiOS向けのリーダーアプリケーションが必須でした」(辰巳氏)
だが、多彩なスマートデバイスが次々と登場し、OSも頻繁にバージョンアップされるなかでは、容易なことではない。また、GALAPAGOS事業を構想していた当時のシャープには、EC事業の経験が不足していた。
そこで協力を求めたのが、オープンストリームである。オープンストリームは、ストアサイトの構築やリーダーアプリケーションの開発などを手掛けたが、同社の佐藤社長は「個々の業務に全力を尽くすのはもちろん、GALAPAGOS事業の全体像、将来像を見据えて開発に臨んでいます」と語る。
「電子書籍は、ようやく市場が立ち上がりつつある状況にあり、現時点のお客様はITリテラシーが高いパワーユーザーが中心です。しかし、市場が成熟していくと、ITの扱いに不慣れなお客様が増えることになります。GALAPAGOS STOREの継続性を確保するために、当初からそうしたお客様を想定して開発や運用に携わっています」(佐藤氏)
今後もオープンストリームは、B to B分野での経験を活かし、システム開発だけではなく、提案活動まで含めてシャープの情報プラットフォームビジネスの拡大を支援していく意向だ。