[イベントレポート]
プライベートクラウドは必要ない!? エンタープライズを本気で攻め始めたAWS
2012年12月17日(月)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
企業ITの分野で存在感を増しているAmazon Web Services。矢継ぎ早にメニューを拡充している同社は今、どのような戦略を描いているのか。初のユーザーコンファレンス「AWS re:Invent」を通して見えてきたクラウドへの熱い思いを見てみよう。
「この地球上で最もカスタマーセントリック(顧客中心主義)な企業となる」
1994年、ジェフ・ベゾスCEOが立ち上げたAmazon.comは世界の小売/流通業のスタイルを大きく変えた。そして2006年、顧客中心主義という理念と小売で培った薄利多売のノウハウをそのまま企業ITの世界に持ち込み、Amazon Web Servicesとしてインターネット経由でITインフラを従量課金制で提供する"クラウドコンピューティング"の提供を開始したAmazon。
「ジェフ・ベゾスは小売に集中すべきと皆が思っている」
「クラウド? 仮想化と何が違うんだ」
「こんなおもちゃのようなツールが企業に受け容れられるわけがない」
数多くの大手メディアやアナリストから批判され、嘲笑されたのはわずか6年前のことである。周知の通り、この6年でAWSは飛躍的な成長を遂げ、2012年12月現在、世界9カ所のリージョンにデータセンターを構え、190カ国にサービスを提供、スタートアップから各国政府、エンタープライズまで、数十万を超える顧客を抱えるまでに成長した。
クラウドのパイオニアはその開拓者精神を失うことなく、いまも競合他社に圧倒的な差をつけてクラウド市場のトップを独走し続けている。
躍進を続けるクラウドのトップベンダが次に見据えるゴールはどこなのだろうか。本稿では11月27日 - 29日の3日間に渡って米ラスベガスで開催されたAWS初のユーザーカンファレンス「AWS re:Invent」の取材を通して見えてきたAWSの新たな戦略について検証してみたい。
加速度的な成長を遂げるAWS
まずは2012年12月現在におけるAWSの事業規模を概観してみたい。前述したようにAWSは現在、米国に4カ所、アジア太平洋に3カ所、EUおよび南米にそれぞれ1カ所ずつ、合計9リージョンにデータセンターを展開している。
各リージョンは最低2つ以上のアベイラビリティゾーン(AZ、データセンター群)と複数のエッジロケーションで構成され、たとえば2011年に開設された東京リージョンは3つのAZと大阪など複数の地域にあるエッジロケーションを傘下に抱えている。
展開するサービスは大きく以下に大別される。
- コンピュート … Amazon Elastic Compute Cloud、Amazon Elastic MapReduce、Auto Scaling、Elastic Load Balancing
- ストレージ … Amazon Siple Storage Service、Amazon Elastic Block Storage、AWS Import/Export、AWS Storage Gateway、Amazon Glacier
- データベース … Amazon Simple DB、Amazon Relational Database Service、Amazon ElasticCache、Amazon DynamoDB
- コンテンツデリバリ … Amazon CloudFront
- ワークフォース … Mechanical Turk
- デプロイメント&マネジメント … AWS Identity & Access Management、AWS Elastic Beanstalk、AWS CloudFormation、Amazon CloudWatch
- ネットワーキング … Amazon Route 53、Amazon Virtual Private Cloud、AWS Direct Connect
- アプリケーションサービス … Amazon CloudSearch、Amazon Simple Workflow、Amazon Simple Queue Service、Amazon Simple Notification Service、Amazon Simple Email Service
- サポート … AWS Support
- マーケットプレイス&パートナー … AWS Marketplace
各サービスの下には顧客の条件に応じて選択可能なメニューが細かく設定されている。そして1カ月のうちに何度も新しいサービスやメニューがリリースされ、価格改定がアナウンスされる。
たとえばAWSの2006年ローンチから提供が開始され、いまもAWSの主力ビジネスであるストレージサービスのAmazon S3は、現在に至るまで20回を超えるプライスダウンを繰り返し、すでに1兆を超えるオブジェクトが格納されている。
また、2012年に限っただけでも150を超える新サービスが提供されており、今回のre:Inventにおいても新たな新サービス、さらには全リージョンにおけるS3の値下げが発表されている。
「AWSの成功は最初から予測していた。しかしこんなにも成長が速く、しかもエンタープライズの世界でこんなにも利用されるようになるとは思わなかった」
これは11月29日に行われたre:Inventのキーノートに登場したAmazonのジェフ・ベゾスCEOの言葉である。実際、AWSはその価格の安さや導入期間の短さから、当初はスタートアップやSMBでの利用がメインと見られていた。
しかし現在では、米国政府専用リージョン(AWS GovCloud)が用意されていることに象徴されるように、各国政府や公共事業、大学などの教育分野、従業員1万人以上の大企業でAWSを採用するケースが急増しており、政府系では300以上、教育では1,500以上の導入事例を誇る。最新のケースでは、大統領選におけるオバマ大統領陣営のAWS活用事例が最もミッションクリティカルな事例として挙げられる。
加速度的にビジネスの拡大を続けるAWSだが、その中でもこの1、2年、とくに成長著しいのがビッグデータ関連のサービスだ。2011年にAWS上でローンチされたHadoopクラスタの数は200万を超え、2012年1月に登場したNoSQLデータベースサービスのAmazon DynamoDBは「AWS史上、最速で成長しているサービス」(AWS データサービス部門バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャ ラジュ・グラバニ氏)でユーザ数を拡大している。"Big Data on AWS"な大規模事例としてはPiterest、NASA、Phizerなどのケースが有名だ。
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