日本IBMは5月24日、東京・港区のザ・プリンスパークタワー東京において「Pulse Japan 2013」(併催: IBM セキュリティー・コンファレンス 2013)を開催する。今回で6回目となる本イベントのテーマは「クラウド、モバイル、セキュリティー。進化したテクノロジーが実現する、インフラのスマートな最適化」というもの。クラウドやモバイルといった新しいテクノロジーの活用が企業経営に与える影響が大きくなった現在、企業はどのようにインフラを最適化しビジネス目標の達成を図るべきなのか。Pulse Japan 2013ではその答えにつながるヒントが数多く提供されることになる。以下、本イベントの概要および見どころを簡単に紹介していきたい。
Pulse Japan 2013の位置付け
Pulse Japanは、CIOやITマネジャーを対象に米IBMがラスベガスで開催している年次イベント「IBM Pulse」の国内版という位置づけにある。もとはIBM Tivoli製品の導入事例の発表や製品情報の提供が主な内容だったが、現在では、IBMが提案する「インフラの最適化」を具現化するソリューションを「クラウド」「モバイル」「企業資産・社会インフラ」「セキュリティー」という4つのテーマを軸に紹介する一大イベントとして定着してきている。中でもIBMが特に重視するセキュリティーに関しては「IBM セキュリティー・コンファレンス 2013」として、Pulse Japan 2013とはあえて別イベントとして併催する形を採る。
昨年開催された「Pulse Japan 2012」の参加者は1,700名を超えたが、今年はさらに増える見込みだ。参加対象者はCIOやITマネジャー、ITプロフェッショナル、ITコンサルタントといったIT側の担当者はもちろんのこと、経営企画、総務、監査室、品質管理担当、リスク管理担当といった現場のビジネスユーザーも含まれる。
IBMが2009年より掲げている「Smarter Planet」は、ITを活用して社会や地球の課題を解決するというビジョンである。Pulse Japan 2013でも同様に、クラウド、モバイル、企業資産および社会インフラなどのあらゆるインフラを、セキュリティーを考慮しながら ITのインテリジェンスで "スマート" に最適化することの重要性が具体的な事例やソリューションを用いて提示される場だ。スマートであるということはインテリジェントであることを示している。あらゆるインフラから上がってくるログを収集し、分析し、プロアクティブに対応する、この一連のプロセスをリスクマネジメントを行いながら実現するIBMソリューションが一挙に紹介される。テクノロジーの進化をビジネスの価値につなげていく方法、ITの課題をITで解決するのではなくビジネス課題をITで解決し、成果につなげていくための具体的な方法がいくつも提示されるはずだ。
Pulse Japan 2013は、エンドユーザーの視点、サービスプロバイダーの視点から、IBMのソリューションを活用していかにビジネスを拡大してきたか、その事例をユーザー企業自身から語られる。また、全世界から8,000名の参加者を集めて3月に行われた米国「IBM Pulse 2013」で紹介されたグローバルレベルの最新IT動向も紹介される予定だ。特にIBM Pulse 2013で今回はじめて、ITマネジメントの分野で"ビッグデータ"が主要メッセージとして取り込まれたこともあり、ビッグデータ・アナリティクス製品を活用してインフラを最適化するアプローチを国内ユーザーに対してどう見せるのかという点も注目したい。
イベントの見どころ 〜 基調講演/特別講演
Pulse Japan 2013は大きく午前の部(10:00 - 11:45)と午後の部(13:00 - 17:45)に分かれる。午前の部では日本IBMと米IBMのエグゼクティブによる基調講演の後、JTB情報システムおよび新日鉄住金ソリューションズによる特別講演が行われる。
基調講演の最初に登壇するのは日本IBM ソフトウェア事業 Tivoli事業部 事業部長 高瀬正子氏。講演タイトルは「進化したテクノロジーが実現する、インフラのスマートな最適化」だ。Pulse Japan 2013を構成する4つのテーマを中心に、IBMが現在、どんな戦略でもって臨んでいるかを総括する。
米IBMのエグゼクティブが登壇する2つめの基調講演のタイトルは「Turn Opportunities into Outcomes with IT Intelligence」。ITインテリジェンスを使ってチャンスを成果に変えよというメッセージが込められている。IBMはデータや情報(インフォメーション)にコンテキストを持たせ、正確で迅速な意思決定を支援するインテリジェンスの価値を重要視しており、Tivoli製品やセキュリティー製品にもITインテリジェンスを強調したものが多い。国内ユーザーにはまだ広く認識されるには至っていないITマネジメント分野での"インテリジェンス"の重要性をIBMはいかに伝えようとしているのかに関心が集まる。
基調講演の3本目は、日本IBM ソフトウェア事業 セキュリティーシステムズ事業部 事業部長 和田秀雄氏による「見えない脅威を可視化するセキュリティー・インテリジェンスとは? - IBM Security QRadarデモンストレーション」。IBMは2011年11月にセキュリティーシステム部門を新設し、セキュリティー分野に力を入れてきた。本講演ではIBMが現在最も注力しているセキュリティー・ソリューション「IBM Security QRadar」のデモンストレーション画面を表示しながら、リアルタイムに脅威を可視化し、インシデントが起こる前に未然に防ぐセキュリティー・インテリジェンスの有用性が語られる予定だ。
基調講演に続く特別講演では、いずれもIBM製品のユーザー企業がその採用事例を紹介する。1本目は株式会社JTB情報システムによる「JTBグループにおけるITサービスマネジメントの取り組み - ITサービス価値をビジネスに活かすために」。JTBをはじめとするグループ各社に最適化されたITサービスを届けることをミッションとするJTB情報システムがどんな戦略をもってサービスを展開しているのか、そのサービスマネジメントの実例が語られる。急速にグローバル化が進む旅行業界において、IT部門がビジネスに与える価値を最大化するために、どんなアプローチを採ってきたのか。旅行業界のみならず、多くの企業にとって参考になるはずだ。またJTBグループはIBM Tivoli製品を数多く導入している企業としても知られる。それぞれの製品をどんな業務で活用しているのかにも注目したい。
特別講演の2本目は、新日鉄住金ソリューションズ株式会社による「"absonne(アブソンヌ)" - 多様なクラウドサービスをシームレスに連携させるSI力と運用力」。absonnneとは新日鉄住金ソリューションズが同社のデータセンターにおいて運営するクラウドサービスの名称である。ミッションクリティカルなクラウド環境では、「パブリッククラウドとプライベートクラウド」「基幹システムと周辺システム」などにおいてシームレスな連携と一元的な運用、そして変化に対応できるスピードが求められる。ハイブリッドなクラウドサービスを提供するabsonneがいかにして企業が求めるミッションクリティカルレベルに達したのか、その管理ツールとしてIBM Tivoli製品がどんな役割を果たしたか、さらにクラウドデータセンターの将来展望についても語られる。
イベントの見どころ 〜 テーマ別セッション
午後の部は、A〜Fの6つのトラックとIBMセキュリティー・コンファレンス2013のSトラック、計7トラック/全33セッションで構成される。
クラウド・コンピューティングに関するセッションはAとBの2つのトラックに渡って行われる。ここで注目したいのはSmarter Cloud製品の事例が数多く登場すること。「【A-2】あなたの営業に「IBMクラウドでCRM」というチカラが備わる3つのポイント」や「【A-4】開発と運用を変える! IBMのPaaSが実現するDevOps」(いずれも日本IBMによるセッション)、三菱電機インフォメーションシステムズによる「【B-2】当社が必要としたITIL準拠のIT資産管理とサービスデスクとは」などのセッションでその採用事例などが紹介される。またユーザー事例セッションとしては、パナソニックITソリューションズ株式会社による「【A-1】グローバル経営を加速するIT基盤の取り組み」が興味深い。従来、地域ごとに運用されていたIT基盤を、クラウドの活用によりグローバルで標準化・統一化を目指す取り組みが紹介される。なお、IBM製品の展示会場では、Smarter Cloudの新製品であるSmarterCloud Orchestrator 製品の国内初展示も予定されている。
モバイルに関するセッションはCトラックにおいて行われる。いまやITは"モバイルファースト"と呼ばれる時代に突入し、スマートフォンやタブレットといったコンシューマ分野で爆発的な普及を果たしたデバイスが企業ITにも急速に普及しつつある。しかしビジネス活用においては強固なセキュリティーが必ず求められる。新しいモバイルデバイスを含め、エンドポイント統合管理をいかにセキュアに行っていくかがCトラックのテーマだ。
ここでは「【C-1】これからのモバイル・デバイス管理とは? - モバイル・デバイス管理製品のセールス経験に基づく気づき」や「【C-4】モバイル・デバイスのビジネス活用を支えるIBMセキュリティー・ソリューション」、「【C-5】IBM MobileFirst - いまが好機! ワークプレース変革をモバイルが先導する」(いずれも日本IBMによるセッション)など、IBM自身がモバイルデバイスの導入で培ってきた経験の紹介がメインとなる。また東芝によるセッション「【C-3】スマート・エンドポイント・マネージメント」はIBM Endpoint Managerと東芝の独自技術を融合させたエンドポイント管理ソリューションがデモンストレーションとともに紹介される。
企業資産/社会インフラ管理に関するセッションはDトラックにおいて行われる。ここで注目すべきIBMソリューションは企業をはじめ、国や地方公共団体向けにも設備保全管理を提供する「IBM Maximo(マキシモ)」。あらゆる保全方式のための包括的なプログラムを開発でき、資産利益効率を最大限にするソリューションという触れ込みだ。「【D-1】社会資本の新しい管理手法と活用事例—IBMソリューションMaximo/TRIRIGAのご紹介」では日本IBMよりこのMaximoの最新情報や活用事例の紹介が行われる。またDトラックでは興味深いユーザー事例紹介が多いが、なかでも一般財団法人 日本海事協会による「【D-2】海運・造船業界を支援するビッグデータを活用した船舶保守システムの取り組み」は、管理対象が船舶という非常にユニークな事例紹介セッションだ。1つの船舶は1年間で約100テラバイトのデータを生成し、同協会では5万隻の船舶を管理する。エクサバイトを超える文字通りの"ビッグデータ"をMaximoでどう管理しているのか、データセンターとは異なるビッグデータアナリティクスのアプローチに注目が集まる。
「テクニカルトラック」とされているEトラックでは、日本IBMによるサービスマネジメント製品の最新動向セッションが行われる。ここでのキーワードは「OpenStack」だ。IBMは現在、オープンなクラウドソリューションであるOpenStackへの支援を強化している。それはあたかも1990年代から同社がLinuxをはじめとするオープンソースを支援してきた様を彷彿とさせる。OpenStackは米国で開催されたIBM Pulse 2013でも大きく注目されたキーワードであり、IBMはOpenStackをベースにしたTivoli製品もリリースしている。関連セッションとして「【E-1】OpenStackベースの新ソフトウェア製品紹介とオープン・スタンダードに対するIBMの取り組み」が行われるので、オープンクラウドの動向に興味があるユーザ−は必聴だ。
あえて併催イベントとして設けたセキュリティーに関するセッションはSトラックにおいて行われる。IBMはセキュリティー関連の豊富で充実したフレームワークを数多くもっており、特にセキュリティー・オペレーションをインテリジェンスを駆使していかに効率的に実行するかに焦点をあてた内容が中心となる。注目セッションは米IBMによる「【S-2】ビッグデータ時代のセキュリティー・インテリジェンス 」が挙げられる。いまや国家に侵入するセキュリティインシデントは後を絶たず、米国や日本はその知的財産の多さで格好の標的となっている。原発や軍事情報などの国家機密から企業の基幹データまで、重要なデータへの不正侵入をセキュリティー・インテリジェンスでもってどう防ぐのか、企業規模にかかわらず押さえておきたいテーマだ。
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ここまで見てきたように、今回のIBM Pulse 2013で掲げられた4つのテーマは個別に存在するものではなく、それぞれが相互に密接に絡み合っている。つまりビジネスの課題をひとつ解決しようとすれば、個々のIT要素に着目するのではなく、統合的な視点でIT全体の最適化が必要ということになる。経営にダイレクトに影響するこうした課題を、豊富な製品ポートフォリオでもってあらゆる面から解決する支援ができるのがIBMの強みだ。Pulse Japan 2013で"インフラのスマートな最適化"を実現するソリューションの数々をぜひとも実際に体感してみてほしい。